未来志向のお寺とともに人々のライフスタイルをクリエイト

半世紀以上前までお寺が日本の社会で担っていた役割を見つめなおし、開かれたコミュニティ拠点にしたい――そんな志に溢れた僧侶を支援する寺子屋ブッダは「まち寺」「ヘルシーテンプル」「書坊」「寺子屋学」など、幾つものプロジェクトを通じて一般の人々とお寺を結び付けている。そして、これらの活動を通して従来の檀家制度に頼らず、全国のお寺(住職・副住職)が個性・魅力・能力を活かして経済的にも自活できる仕組みを構築しようとしている。

寺子屋ブッダ

代表:松村和かずのり順氏

“ソーシャルグッド”こそお寺のすべき仕事

まち寺リニューアル

〈まち寺〉はインターネットによる情報発信に取り組む僧侶の間で評判の高いサイトである。前身は〈まちのお寺の学校〉。一般社団法人「寺子屋ブッダ」が2013年から運営してきたが今年2月、大幅にリニューアルした。それがお寺のみならず、地域活動や仏教に興味を持つ一般の人たちの間でもちょっとしたニュースになっている。
「〈まちのお寺の学校〉はヨガやアート、仏教講座など、“お寺に来ていろいろ学ぼう”というコンセプトの情報プラットフォームでした。もちろんその役割は健在ですが、もっと広い視野で、街づくり・地域づくりの拠点となる活動を支援していくものにしました」
寺子屋ブッダ代表理事の松村和順氏はリニューアルの趣旨についてそう語り、こうしたお寺の活動を“ソーシャルグッド”と表現。ソーシャルグッドな活動がお寺を元気にすると言う。

何十倍の人たちと繋がるために

「なぜソーシャルグッドな活動がお寺を元気にするのか? それは従来の檀家さん以外の多様な個人とのつながりが広がり、深まるからです」(松村氏)。
研修などを通して企業と、共通の課題意識を持つ行政と、子育てなどの悩みを持つ家族と、社会課題を解決したいNPOと……これまでの何十倍の人たちと繋がれるお寺だけが将来残っていく。そんな思いを抱きながら、単にデザインを刷新するだけでなく、ソーシャルグッドな活動をより活性化するための機能を強化した。

3つの機能:マッチング・ホームページ・データベース

その一つめは、専門家との〈マッチングの場〉を提供できる機能。まちを元気にする活動を行っている専門家や講師の中には、お寺とも協働して活動を広げたいと考えている人が少なくない。そうした人たちがお寺に企画を提案できる仕組みを構築した。
二つめは、お寺の情報発信ツール〈寺院ページ〉。テンプレート型のホームページとしても利用できる。各種活動の情報発信やイベントの管理、開催レポートの作成などが可能で、サブドメインの発行や写真ギャラリー、メルマガなどの機能も備えている。
最近はSNSを主体とした発信活動を行っているところが増えているが、SNSは多くの人の目に付きやすい分、発信した情報が短時間で流れてしまう弱点がある。それに対して独自のホームページは情報をストックできるため、過去に遡ったり何度も見返すことによって、活動をより深く知ってもらえるという利点がある。
三つめは、関係人口を可視化できる〈データベース(参加者管理)機能〉があること。イベントなどの予約情報とお寺のフォロワーの一元管理ができ、利用者一人一人がこれまでどんなイベントや講座に参加したかリスト上に表示される。そのため、こういう人がうちのお寺に来ているんだということが把握でき、次のアプローチにも活用できるのだ。

  • マッチング機能
  • ホームページ機能
  • データベース(参加者管理)機能

プロデューサーになることを推奨

「これまでを見ていると、外部から講師やインスタラクタ―を招いて何か行う場合、お寺は単に会場を貸し出しているだけという形になりがちです。参加者も直接話した先生のことは憶えていても、お寺のことはよく憶えていません。お寺としてはある意味、ラクちんですが、それではいけない。外部の専門家に任せるときもお寺(住職・副住職)がプロデューサーとしての存在感を示す必要があります。でないと人々とお寺の結びつきは育ちません」
今回追加した機能は、そうしたお寺中心のプロデュース活動をお寺自身が認識でき、強化できるよう設けた、と松村氏は言う。
そしてお寺のソーシャルグッドな活動を安定的かつ継続的に発展させていくため、より積極的な支援を求めたいと、オンライン上で寄付が集まる仕組みを構築した(※定期的なプロジェクトの実施とプロジェクトの報告が可能になっているお寺に順次適応)

寺子屋ブッダの活動

伝統仏教宗派の映像制作を契機にスタート

松村氏は映像ディレクターとして活躍し、2005年に株式会社百人組を設立。代表取締役社長/プロデューサーとして、フリーランスのディレクターやカメラマンとともに映像制作・Web制作を手掛けている。ベネッセホールディングス、国立科学博物館、ヤマトシステム開発(ヤマト運輸)などの企業・施設がおもなクライアントだ。
その仕事の一環で伝統仏教宗派の公式映像・公式Webサイトを制作。それをきっかけに、現代社会におけるお寺や仏教の持つ大きなポテンシャル(潜在能力)に気づいた。ちなみに松村氏は祖父が長野県松本市のお寺の住職だったが、育ったのは一般家庭である。
「とりわけ納得できたのが苦集滅道の四諦説です。思い通りにならないことを苦と呼ぶのですが、発生した苦にどう対応すればいいのか解説されており、非常に課題解決意識の高く論理性に富んでいます。寄る辺となる自己を創るための理論と実践方法がそこにありました」

映像プロデューサーでもある松村氏

まちが元気ならお寺も元気

その一方で過疎地域のお寺の調査をすると、地域貢献に積極的なお寺はどんな町や村でも活発に活動していることがわかった。
少年スポーツチームの面倒を見ている、美術館や郷土博物館の企画に関わっている、民泊を経営しているなど、取り組み方はいろいろだが、「まちも元気ならお寺も元気、お寺が元気ならまちも元気」という公式がどこでも成り立っていた。
今こそ人は仏教を学ぶべき、今こそお寺という社会資本が必要とされるべき、そして今こそ僧侶が社会の表に出て活躍すべき。その実践の場を創ろう——―松村氏は躊躇せずアクションを起こした。当初は「会社の部活」というノリだったという。

多彩なプロジェクトを展開

2010年、千葉県南房総市のお寺で、最も集めるのが難しいと思われていた若い女性を対象にヨガ・リトリート(非日常空間で心と体を癒すこと)を企画した。その集客・受付用に作ったWebサイトが「寺子屋ブッダ」の具体的な活動の始まりだった。
終了後、15名ほどの参加者に聞いたところ、意外なことに評価が高かったのはヨガよりも、そのお寺の住職が行った仏教講話だった。手ごたえを感じた松村氏は超宗派の若手僧侶とともにこの“部活”を本格化。その後、ヨガをはじめ、音楽コンサート、マルシェ、さらに瞑想(マインドフルネス)を取り入れた企業研修などを次々と企画・開催した。
また、〈寺子屋学〉の講座では良い結果が得られた要因は何だったのかを研究し、たとえば具体的な空間づくり――トイレをリフォームして男女別にする、照明を明るくする、災害時の対策とマニュアルを用意しておく———などについても情報を共有できるようにした。
2016年には今回の取材を行った〈書坊〉もオープン。場所は百人組の事務所と同じJR恵比寿駅から徒歩4分のビル内にある。〈お坊さんのいる書店〉と銘打ち、地方のお寺のアンテナショップとして週末営業しているが、ここでも僧侶の法話VS噺家の落語を聴ける〈高座バトル〉というイベントを開き、コロナ禍前は大盛況を博した。

  • ヨガ
  • マインドフルネス企業研修
  • 書坊
  • 高座バトル

ヘルシーテンプル

数あるプロジェクトの中で近年、寺子屋ブッダが最も力を入れて取り組んでいるのが〈ヘルシーテンプル〉である。
映像プロデューサーでもある松村氏ヨガマインドフルネス企業研修高座バト私たちは空前絶後の長寿時代を生き始めたが、現在のデータでは健康寿命は平均寿命より短く、人生最期の10年前後、自立して生活できなくなる。これは本人にとっても家族にとっても辛い現実で、社会的にも医療・介護費50兆円超という莫大な経済的負担となっている。
心と体の健康は今を生きるすべての人の共通課題である。本来、お寺がよりよく生きることに貢献する場であるなら、健康維持のための生活習慣を提供することも、お寺の重要な社会的役割と言えるだろう。
そのコンセプトのもと、ヘルシーテンプル・コミュニティ基礎講座(ヘルシーテンプル・ファシリテーターの認定講座)を修了した僧侶を中心に、医師・研究家・スポーツインストラクターなどが協力してこのプロジェクトを推進。「ヘルシーテンプル宣言」をして登録中のお寺は全国で40ヵ寺に上っており、これからは行政との連携活動も見込まれている。
なお、2020年以降はコロナ禍のため、〈ヘルシーテンプル@オンライン朝の会〉として、リモートで朝7時から筋トレやストレッチ、マインドフルネス瞑想、幸福度を高めるワークなどを実践してきた。
今年1月で参加者累計は10万人を超え、寄付金も毎月10万円以上に上る。今後は感染対策をしながら、それぞれのお寺に人が集えるよう活動を続けていくという。

記事の全文は月刊仏事 5月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2022.05.19