お寺は仏法の教えをつないでいくバトンである。時代が求める新しいお寺の役割を模索しながら前進する。

真宗大谷派 法輪山 證大寺 二十世住職 井上城治 師

東京都江戸川区にある真宗大谷派 法輪山證大寺の住職、井上城治氏に登場いただいた。お寺のあり方が変わりつつある現在の状況をチャンスととらえ、新しい取り組みを次々と打ち出す井上住職の、チャレンジングな施策について話を聞いた。
(聞き手:株式会社鎌倉新書 代表取締役社長COO 小林史生)

現代の寺院が直面する課題と解決の取り組み

「継承」が難しい時代に見出す寺院の新たなあり方

小林:本日は證大寺の井上住職にお越しいただきました。まず最初に、この少子高齢化の現代においては、お墓を継承することが難しくなっていたりいろいろな課題があると思いますが、住職は現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

井上:少子高齢化なので、お墓の継承は難しいです。ただ実はもう20年以上前から檀家制度はほとんど形だけになっているような状態でした。特に東京では、そういうお寺が多いと思います。本来はお寺の活動ですので、お葬式だけではなくて、生前に月会費や年会費で支えてもらってきたと思うのですが、そういうつながりがもうなくなってしまって、お葬式の時だけちょっと顔を出すぐらいの関係性です。
 それが今、どんどんお寺が元を絶ってお葬式も減ってきて、改めてチャンスだと感じています。つまり、いわゆる会員制にして、もう1回お寺が選ばれるような場所になればいいだろうと。継承はなくなりましたが、新規の会員さんを逆に取りにいこうというマインドになっていたので、結果よかったと思います。

お寺だからこそ「心の豊かさ」が感じられる独自の供養を

「浄縁墓」と「浄縁葬」。寺院だからこそできる供養の形を

小林:「浄縁墓」と「浄縁葬」について、簡単にご説明お願いします。

井上:「浄縁墓」はうちのお墓の名前で、「浄土の縁のお墓」という意味です。うちはお墓の販売までが仕事というよりも、そこから先が大事です。石材店様にお寺を信じてもらって、ご紹介いただいて感謝しかありません。でもそこから先はお寺として、できればその方から「自分が帰る場所は心配ないんだ」と安心していただきたいです。お墓という「もの」でおしまいではなく、そこから先にまでつながるような永代供養墓や樹木葬、石の墓というものを、「浄縁墓」という名前でやらせてもらっております。
 また、「浄縁葬」というのはお葬式のことです。昨今、いろいろなお葬式があります。火葬式、直送というものももちろんあります。そこでうちが今やってるのは、火葬場で式をやるしか時間がない場合。その際には、火葬場での過ごし方が大切です。火葬をする時は悲しい気持ちでいますが、控え室に移動すると、ちょっとホッとして、世間話になりがちですよね。
 でも、うちはそれはなしにしていて、控え室に入ったら「バトンカード」というカードを火葬場の職員の方から渡してもらって、「今火葬をしてます。次に会うときはお骨です。出会った意味を確かめるのは今しかありません。15分でいいので、カードに想いを書いてください」とお話します。このようなことをすると、「故人と出会えて本当によかった」という気持ちになっていくような気がするんです。そういう形で、お寺のお葬式をやっています。

寺院の真の役割とは、次なる挑戦

「看取る」ことの意義。最期に残したい様々な想い

小林:これから、将来に向けて考えておいでのアイデアや構想はありますか?

井上:うちはもとは、835年に設立した九州の続命院というお寺が由来なのですが、ご本尊の阿弥陀如来像、観音菩薩像、薬師如来像の3体が九州からうちに移動して、安置されています。もともと疫病や飢饉で多くの方が亡くなっていった時に野ざらしになるのがかわいそうということでできたのが続命院で、日本でいちばん古い看取りの施設だといわれています。たぶん観音様が看護師で、薬師如来が薬剤師で、ご本尊の阿弥陀如来がお医者様で、亡くなるときには「怖くないよ」と看取ったと思います。
 うちは、2035年に1200周年を迎えることになるので、いわゆる訪問看護医療、病院も含めたことをやりたいと思っています。2025年にはちょど団塊世代が75歳になる年です。ですからこの年に、訪問医療看護を開始することを決めていて、今はがんセンターの先生や救急医療の先生と、月に2〜3回は勉強会をしています。来年からは、できればお坊さんにも職員を準備してもらい、訪問医療、訪問看護を開始したいと思ってます。
 健康寿命、平均寿命が延びていく中で、日本では今後、ますます病床が足りなくなっていきますから、眠らせられるような形で亡くなっていく方が増えていくそうです。僕は、本当にそれが残念です。最期にはその方の生き様、「いい人生だったよ」とか「お前に会えてよかったよ」といった言葉を残していくべきです。そういったものを次世代に残していかないと、その後の世代の死生観が変わってしまうと思います。本当に今はもう、待ったなしでそういった担っていくことがお寺の役割だと思っています。

供養・終活業界のみなさまへのメッセージ

井上:石材店の皆様や葬儀業界の皆様のおかげで、今まで生きてこられました。本当に感謝しかありません。鎌倉新書さまが手がけておいでの「いいお墓」にもいろいろとお仕事を紹介していただき、これらはまさに、すべてが仏縁です。私たちを信用して紹介していただいているわけで、「お寺としてしっかりと、やるべきことをやるように」と叱咤激励されているように感じております。皆様と一緒に手を合わせることを大事に、これからもやっていきたいと思います。この仕事は、おおいに希望がある、大事な仕事だと思っております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

小林:本当にどうもありがとうございました。

月刊終活 9月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2023.09.26