アメリカの葬儀業界に起こっている変化。2023 NFDA国際コンベンション&エキスポ視察レポート。

終活アンバサダー 村田ますみと考える「後悔しないの人生の仕舞い方」第8回

 こんにちは、ご無沙汰しております。終活アンバサダーの村田ますみです。少し前の話になってしまいますが今回は、2023年9月に米国ラスベガスで開催された全米葬祭ディレクター協会(NFDA)の国際コンベンション&エキスポに参加した経験をお話しいたします。

 今回、私は日本から葬祭関係者9名を引率し、この大規模な展示会を訪れました。エンターテイメント都市ラスベガスでの開催ということもあり、またコロナ禍明けということもあり、世界中の葬儀業界関係者が一堂に会し、最新のトレンドや情報の交換を行っていました。私の目で見聞したことを中心にお伝えしていこうと思います。

【NFDA国際コンベンション&エキスポ公式HP】

NFDA International Convention & Expo
convention23.nfda.org

140年超の歴史を持つ「全米葬祭ディレクター協会」

 全米葬祭ディレクター協会「NFDA」は1882年に設立され、140年超の歴史を持つ米国の業界団体です。毎年、異なる都市で開催されるこのイベントは、世界中の葬儀業界人が最新情報やネットワーキングを求めて集まります。2023年は、9月10日から13日までの4日間、ラスベガスコンベンションセンターで開催されました。

ラスベガスコンベンションホールの入り口

ラスベガスでもっとも古い葬儀社 Palm社を訪問

 初日には、ラスベガスで最も古い葬儀社Palm社を訪問しました。1926年創業のこの老舗は現在、アメリカ最大の葬儀グループSCIの一員です。円卓を配した葬祭ホールや、多様な宗教や文化に対応した霊園が印象的でした。

葬祭ホールは、通常のチャペルの長椅子形式ではなく、ホテルのバンケットルームのような円卓で、食事も可能。家族が故人を偲び、想いを共有することを大切にしている。
葬祭ホールのまわりの霊園はブロックごとに分かれており、ユダヤ教、イスラム教、退役軍事、子どものお墓などがある。
火葬用の墓地。骨壷のまま納骨するのだという。
壁面墓地。棺のまま納める。

 高級感がありとても美しく整備されていましたが、案内してくださった葬祭ディレクターの方から、驚くべき数字を耳にしました。

 Direct Cremation(直葬:儀式などを一切行わずに火葬だけ行う)の比率が、Palm社で扱う葬儀では50%に達したというのです。

「直葬が増えたのは、コロナが原因ですか?」と聞くと、「コロナ前からすでに直葬の割合は45%ぐらいになっていて、コロナでそれにさらに拍車がかかり、現在では半分くらいになってしまったのだ」とのこと。

 日本でも葬儀の縮小化が進み直葬が増えてはいますが、それでも、もっとも進んでいる東京でも25%くらいではないかといわれています。

 お客様の半分がお葬式を行わず、火葬のみということは、実はここにある立派な葬祭ホールや豪華な土葬用の棺や埋葬墓地は、あまり使用されなくなってきているのかもしれません。

 それでは、そんな米国では今、葬儀にどれくらい費用をかけるのだろう?

 案内してくれたPalm社の方に価格表をコピーしてもらっところ、土葬の場合と火葬の場合のそれぞれに、パッケージプランがありました。

 以下、プラン内容をいくつか抜粋します。

プラン名内容パッケージ価格
Platinumフューネラルサービスエンバーミング、搬送、土葬用棺、花、ケータリング、家族サービス、アルバムなど2万800ドル
Tributeフューネラルサービスエンバーミング、搬送、土葬用棺、花、ケータリング、アルバムなど1万5965ドル
Honor火葬サービス火葬、冷蔵、搬送、火葬用棺、骨壷、花、ケータリング、アルバムなど9315ドル
Tribute火葬サービス火葬、冷蔵、搬送、火葬用棺、骨壷など3470ドル

 なお、Direct Cremation(直葬)のベース価格は$2,600とのことです。

 土葬と火葬ではケタがひとつ違います。大きな変化が起こっていることがうかがえます。

エキスポのオープニングは「9.11追悼式」

 NFDAのエキスポは、例年10月に行われることが多いですが、2023年は9月開催で、アメリカ同時多発テロが起こった「9.11」の日にオープニングセッションが行われました。

オープニングセッションの様子。スクリーンに映るのはNFDAのCEOクリスティーン・ペッパー女史。

 22年経った今でも、アメリカ人にとって忘れてはならない事件です。この日は、当時のニューヨーク市消防局の大隊長ジョン・ラバーベラ氏が壇上に立ち、犠牲者とその家族への追悼を行いました。また、NFDAの恒例行事「Service of Remembrance」も同時に行われ、葬儀にかかわるプロフェッショナルとしての誇りが感じられる時間でした。

タイムラインで振り返られる、“あの日”の出来事。
9.11追悼式で配られた冊子。会場には、米軍兵士や消防員など公務で亡くなった人々の写真が飾られていた。

火葬に代わる「ウォータークリメイション」などの新技術

 エキスポホールには300以上のブースが出展していました。火葬に代わるウォータークリメイションや、ソーラーパネルを使用した電気火葬炉など、エコロジーを全面に押し出した葬法の展示が目に留まりました。また、台湾から初めて出展した墓地・納骨堂用のオンラインメモリアルサービス「Revere」社など、海外のスタートアップ企業などの出展もありました。

火を使わずに水だけで遺体を分解するウォータークリメイション技術。すでにシアトルなどで導入されているとのこと。
ソーラーパネルを利用した電気火葬炉。写真のものはまだプロトタイプとのこと。

  NFDAエキスポでは、毎年、出展企業のサービスの中からもっとも革新的なものを1位から3位まで選出し、「イノベーションアワード」として表彰しています。今年のイノベーションアワードの第1位は、「Bluewater Voyage」という海洋葬サービスでした。遺骨を格納したブイが海洋を旅する様子を、Googleマップを使ってトラッキングするという興味深いサービスです。

イノベーションアワード発表の様子。
第1位は、海洋葬にまつわる「Bluewater Voyage」という新サービスであった。

【海洋葬の新サービス「Bluewater Voyage】

https://www.bluewatervoyage.online/

30を超えるセミナーやワークショップが開催

 NFDA国際エキスポの開催意義のひとつに、会期中、30を超える各種セミナーやワークショップを受講できることがあります。毎朝8時からコーヒーサービスと共に開催されるセミナーを、頑張って通訳なしで受講しました。

 今回の視察ツアーで受講したセミナーは以下の通り。非常に勉強になりました。

  • 「広告宣伝費を賢く投資する方法」by Bill Johnston
  • 「燃え尽きずにパフォーマンスを加速させる」by Suneel Gupta
  • 「葬祭ルールのアップデート情報」by Chris Farmer
  • 「ジェンダーの多様なコミュニティのためのデスケア」by Faith Haug
  • 「家族のサービスに人工知能(AI)を活用する」by Christopher Costello
  • 「企業買収による成⻑戦略について」 by Jeff Smith
セミナールームの前に用意されている、コーヒーコーナー。

ラスベガスの火葬場で見た「ダンボール棺桶」の衝撃

 1日目に訪問したPalm社で、「以前と違って、お客様のほとんどが火葬を選択するようになった」という話を聞いてから、ラスベガスの火葬場を見てみたいと思っていました。

 運良く、エキスポ最終日の午後に、ダウンタウンにあるPalm Downtown Mortuary & Cemeteryを特別に案内していただけることになりました。

ダウンタウンにあるPalm社の施設。葬祭ホールと墓地のほかに、火葬場と遺体のケアセンターが併設されている。

 基本的に遺族は立ち入ることのない火葬施設(火葬後のお骨は粉骨後にパッキングされて依頼元の葬祭場に送られます。骨壷への納骨は、各葬祭場で行われるとのこと)。

小さい工場のような建物の中に、火葬炉が4基並んでいました。

「火葬の時間は、だいたい1時間くらいですね」

 体格のよい火葬責任者の方が、ニコニコしながらひとつひとつ説明をしてくださいました。

「ラスベガスの火葬率は70%。コロナの時は90%までいきました」

 エキスポのオープニングセッションでも、全米の火葬率60%を超えたと語られていたのですが、それに比べてもかなり高い割合で火葬が進んでいることになります。

 火葬室、粉骨室を見学したあと、火葬待ちのご遺体が安置されている霊安室に案内されました。

 ひんやり冷たい部屋に棚が並んでおり、ぱっと見ただけで、30体ほどの棺が安置されています。

「ネバダ州の法律で、医師の死亡診断のサインがないと火葬できないので、ここにあるのはすべて、医師のサインと火葬許可証待ちのご遺体です」

 私にとって衝撃だったのは、たったひとつの棺を除いて、すべての棺がダンボール製の箱だったことです。そのひとつの棺は小さい子ども用の棺で木製でしたが、そのほかはすべて、薄いダンボールの棺でした。濃い色と薄い色の箱があり、濃い色のダンボール棺には枕と布団がついているけれど、薄い色のダンボールは布団もないただの箱とのこと。案内してくれた葬祭ディレクターは「シューズボックス」と呼んでいました。

霊安室のほとんどのご遺体は、このようなダンボール棺に納められていた。

「私は亡くなっても最期にこの箱には入りたくない」と私が伝えたら、彼女は「私も。でもこれが現実なんです」と答えてくれました。

 火葬の責任者曰く、木製の棺桶にももちろん対応しているけど、「ダンボールのほうが燃焼効率がよいから」ということのようです。ダンボール製の棺桶は200ドル。木製よりも圧倒的に安いので選ばれているのかもしれません。

米国でも進行する単価下落と新たなビジネスの可能性

 今回の視察では、さまざまな人と交流し、多くの生の声を聞くことができました。

 アメリカの葬儀業界の人たちが、今もっとも切実な問題だと考えているのは、葬儀単価の下落とのこと。

「かつては1万ドル以上だった葬儀の価格が、今では2000ドルになってしまった」と、ある葬祭ディレクターの方が嘆いていました。

 日本でも、家族葬が主流になったことで葬儀単価が下がっていますが、アメリカで葬儀の単価が下がっている背景には、火葬率の上昇があります。

 9月11日のエキスポのオープニングセッションで、「全米で火葬と土葬の数が逆転したのが2013年。そこから10年が経った」という発表がありました。

オープニングセッションでの発表。土葬と火葬が逆転してちょうど10年だという。

 アメリカにおける火葬は、経済的な困窮者向けのサービスとして始まったという経緯があり、そこで利益を上げるという発送がなかったがゆえに、結果として業界全体の利益が減少してしまったという危機感が感じられました。

 火葬というこの新しい葬法から生まれる焼骨をどのように扱うか? また、火葬に代わる新しい葬法はないのか?

 イノベーションアワードに代表されるような新しい価値、新しい利益を生むためのさまざまなアイデアも、今回のエキスポでは見ることができました。

 よく耳にしたキーワードは、「グリーン・フューネラル」(地球環境に優しい葬儀)、そして「デス・テック」(AIなどのテクノロジーを使った葬祭業の技術革新)です。

 自由な発想で次々と新しいサービスが生み出され、そこに資金が集まり一気にスケールしていくスピード感や、その結果マーケットが世界に広がっていきつつあるというダイナミクスも感じ取ることができ、とても刺激的な視察でした。

 次回のNFDA国際エキスポは、2024年10月にルイジアナ州ニューオリンズで開催されます。

コラム
2024.03.12