8月29〜31日の3日間にわたって東京ビッグサイトにて開催された「第9回エンディング産業展」。そのオープニングを飾った“基調講演”では、葬儀場・火葬場併設の総合斎場を運営する東京博善株式会社 代表取締役社長 和田翔雄氏と、株式会社鎌倉新書 代表取締役社長COO 小林史生氏の2人による「エンディング産業 今後の展望」と題した対談が行われた。
コロナ禍における葬儀利用の急激な変化
和田氏:東京博善のお客様の利用状況を説明します。コロナ禍が本格化する前の2020年4月の段階では、利用者数は月間平均20名程度でしたが、これがコロナ禍になると、15名程度まで落ちました。直近では回復傾向にありますが、完全にはまだ戻っていない状況です。
コロナ禍前、コロナ禍中、コロナ禍収束中のそれぞれの時期における「火葬式」(いわゆる直葬)、「一日葬」「一般葬」の 比率でいうと、コロナ禍収束中の2023年2月から7月までは「一般葬」がコロナ禍中に比べて6%増えています。コロナ前の47%まではまだ戻っていませんが、コロナ禍中から比べると約2割ぐらい増えている状況です。今後は40%程度までは回復すると予測しますが、約5割というコロナ禍前の数字まで戻ることはもうないのではないかと思っています。
取り組むべき社会課題は“おひとりさま”
小林氏:鎌倉新書では“おひとりさま”に対するビジネスを行っていますが、おひとりさまが1人で生活をしていくにあたっては、将来に対する「不安」が特に大きいことを感じます。この不安には大きく2つあり、1つは人生の最後までの資産管理を含めた「金銭的な不安」、もう1つは健康であり続けられるのかという「身体への不安」です。
「墓じまい」も大きな課題の1つです。人口が地方から都会のほうに移っていくという流れと、高齢者の方々が人生の終焉を迎えていかれる中で、この問題が大きく前に出てきていると思います。この課題を解決するのだというミッションとビジョン、そしてその裏側では、これらを解決することによって大きなお金が動くということについても、トレンドとしてお伝えしておきたいですね。
東京博善だからこそできる“情報発信”を
和田氏:昨年6月より当社では、火葬についてはウェブ予約ができるようになりました。しかし葬儀屋さまからユーザーインターフェイスが非常に使いづらいという話をいただいており、この予約システムをリプレイスして、お客様との打ち合わせをシームレスにできるようにしていきたいと考えています。火葬場の空き状況などの情報がリアルタイムに反映され、式場予約も簡単に取得可能なものにしていく予定です。また、「今月行われた式のうち火葬式の割合はどれだけだったか」といったような、我々火葬場だからこそできるような情報も、葬儀屋さまの営業ツールとしても利用可能なように、発信していきたいなと思っていますね。
成長のための2方向、「深掘り」と「横展開」
小林氏:事業者さんが終活の領域で成長していくには、2パターンあると思います。1つは今のビジネスでの“深掘り”をしていくということ、もう1つは、横に展開をしていくということです 。終活における課題はお客さまの中にたくさんあり、その課題をひもといていくとさらに課題が出てくる、という構図があるので、そういったそれぞれの課題に対して、いろいろなサービスを提供していこうと思っています。
和田氏:この業界のビジネスには多くの種類がありますが、やはり主には「件数を増やすこと」と「単価を増やすこと」の2点が大事だと思います。とはいえ単価については、葬儀そのものの単価を上げることは非常に難しいため、1人のお客様に対してクロスユースを行い、葬儀だけではなく“その後”も含めた単価を取っていくという「LVT」(ライフタイムバリューを高めることが大事だと思っていますね。
もう一方の件数においては、当然業界内には競合ライバルがいて、そのライバルにどう勝っていくのかという問題なわけですから、件数を伸ばすのもまたそうたやすいことではありません。その中で私は、「想起化」ということを大事にしてきました。つまり、「第一想起」が重要だということです。「〇〇と言ったらどこどこ」といったような形で、業界ないしはエンドユーザーさんの中で「いちばんに思い浮かべられるような会社である」ということです。だからこそ、そこに向けてのブランドマーケティングをしていくことが、結果として件数を伸ばし、また競合に勝っていく上で非常に重要なポイントだと思っています。
小林氏:そこでいう「想起化」には、ユニバーサルなネット上での話なのか、あるいはその地域での“いちばん店”といったような意味合いなのか、解釈の幅はあると思います。各事業者さんが適切な解釈をなさり、そしてそこへ向けて動いていかれるべきだと思っています。