横浜関内法律事務所
本間久雄弁護士
横浜関内法律事務所に勤務している弁護士、本間久雄さんは、僧籍を持つ弁護士として異色の存在だ。
その両者の能力を生かし、お寺の借地管理や宗教法人が抱えているさまざまな悩みの相談に乗っている。
そんな本間弁護士に、これまで歩んできた足跡について話を聞いてみよう。
お寺はさまざまな法律問題に直面している
本間さんは、お寺に次男としてお生まれになったそうですね。跡取りとして期待されることはなかったのでしょうか?
なかったと思います。両親は、兄に対してもそういうことを言っていないようでした。
ただ、お寺というところに住んでいると、そこから何らかの影響を受けることは避けられません。弁護士になりたいと思うようになるのは中学生以降なんですが、それは法律面でお寺を支える仕事ができると思ったからです。
なぜそのように考えるようになったのでしょう?
お寺は昔からその地域の土地を持っていて、借地として貸し出しているケースが多いんですが、その賃借をめぐってトラブルが起きたりします。ただ、お寺はそういった世俗のことに疎いところがありまして、自分が法律家になればサポートできるかもしれないと考えました。
お寺が自ら抱えたトラブルだけでなく、お寺には檀家さんや地域住民から人生相談を受けることもありますが、そうした相談の中には法律的な問題がからんでくるケースも多いですしね。
本間さんは東大の法学部に入学しますが、学校の成績はもともとよかったんですか?
いえ、とりたてて自慢できるようなレベルではありませんでした。ただ、私は負けず嫌いなところがありまして、中学受験で第一志望の学校に入れなかったという挫折体験をきっかけにして、以後、学業に真面目に取り組むようになりました。
とはいえ、司法試験は国家試験の中でも難関と言われていますよね?
そうですね。実際、私も1回の受験では合格できず、東大を卒業後は慶應大学のロースクール(法科大学院)に入学して、新司法試験でやっと合格することができました。
ただ、ロースクールでは夏休みを利用して、身延山で修行をして日蓮宗の僧籍をとることができましたのでタイミングがよかったと思います。
人口減少、高齢化時代のお寺を支える
現在の業務の中で、お寺関連の事件はどれくらい担当されているのですか?
全体の2割くらいですね。
やはり多いのは、最初に申し上げたようなお寺が所有する土地の借地権を巡るトラブルですね。それから檀家さんから相談を受けたお寺の住職から遺言書の作成を依頼されたりすることもあります。また最近では、任意後見制度に関する相談も多くなりました。この制度は、身寄りのないお年寄りに対して、本人に十分な判断能力があるうちにあらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。一人暮らしで、なおかつ身寄りのないお年寄りは近年、とても増えていますから今後もこうした相談は増えていくでしょう。
個別の相談だけでなく、メディアで法律相談の執筆や監修を担当したり、出張相談なども行っているそうですね?
はい。お寺に依頼されて、檀家さん向けの法律相談をすることもあれば、お寺の関係者の集まりに招かれて宗教法人法や墓埋法などの解説をすることもあります。
これまで担当した中で、印象に残っている事例をお教えいただけますか?
あるお寺で、長年、無縁墓になっているお墓があって、その管理の仕方を相談されたことがあります。戸籍を昭和、大正、明治とさかのぼって調べて、縁のある方を見つけて連絡したんです。すると、その方もどこにお墓があるのかわからずに困っていたそうで、その連絡をきっかけに「お墓参りを再開することができました」と喜んでいただけました。このときは、とても大きなやり甲斐を感じましたね。
目指すはスペシャリストとゼネラリスト
僧籍を持つ弁護士として今後、どんな目標を持っていますか?
スペシャリストとしての道と、ゼネラリストとしての道、ふたつの道があると思っています。
スペシャリストとしては、宗教法人法務の知識と経験を積み重ねていって、法律家として宗教法人の手助けをするということ。社会の人口減少や高齢化にともない、寺院経営がむずかしくなっている時代でもありますので、経営面のコンサルティングも手掛けられるようになりたいですね。
ゼネラリストとしては、法律家としてではなく、人間として成長して多くの人の相談に乗れるようになることです。そのためには、僧侶としての修行をさらに進めていくことが重要になってきます。今は弁護士の仕事の比重が圧倒的に高いですが、落ち着いた時間が持てるようになったら、各地の本山巡りをしたり、仏教系の大学で研究などもしてみたいです。
弁護士と僧侶というのは、一見、かけ離れた立場のように見えるかもしれませんが、私は決して矛盾していないと思います。スペシャリストとゼネラリストを目指して努力していくことで、両者の能力をさらに高めていくのが私の理想です。