2023年9月に「終活に係る包括連携に関する協定書」を鎌倉新書と締結した、千葉県南房総市。同市の高齢化率は50%に迫り、その対策は同市の大きな課題となっているという。誰もが安心して暮らし続けられる環境を目指すために、南房総市はどのような施策を実行しているのか? 同市の石井裕市長に、鎌倉新書代表取締役会長CEOの清水祐孝が話を聞いた。
南房総市の高齢化の現状
清水:まずは、南房総市における高齢化の現状についてお聞かせください。
石井:南房総市の高齢化率は47〜48%です。千葉県内で3番目に高く、全国でもかなり高いほうだと思います。高齢化が進んだ南房総市ですから、終活への市民の意識も高くなっています。ご家族に面倒をかけずに人生の最期を迎えたいという方が増え、そして、具体的にどうしたらいいのかを悩んでいらっしゃる方も多いようです。年齢とともに認知症になる方も増えていますから、不安なく美しく自分の人生の最期を迎えたいという思いが強くなってきてるように感じますね。
清水:南房総市の終活支援の背景には「権利擁護」という理念があるとお聞きしています。この「権利擁護」について詳しく教えていただけますでしょうか?
石井:「高齢者の方々が増える」「高齢化率が高まる」ということは、認知症になる方も増えるということです。残念ながら、自分の身の回りのことを自分で意思決定できないという方もますます増えていくでしょう。それでもすべての方々が、どういう状態になっても、不安なく自分の身の回りのことを最後まで完結できるように支えていくことが「権利擁護」という考え方で、とても大事なことだと思っています。
高齢者が孤立しない取り組み「お達者サロン」
清水:南房総市の終活支援のひとつとして「お達者サロン」という取り組みがあると聞きました。「お達者サロン」について教えてください。
石井:「お達者サロン」は終活に向けてというより、高齢化に対する取り組みです。高齢化が進む中で、高齢者の方々にとって大事なのは孤独にならないこと、社会から孤立しないことです。そのためには、高齢者の方々だけではなく、人と人との交流の場がある、気軽に出かけていける場所があるということがとても大切だと思います。「お達者サロン」は保健士や職員も一緒になって健康体操をするなど、さまざまな取り組みを行っています。この「お達者サロン」が、そのような憩いの場になっていけば、と考えています。
認知症カフェを始めたきっかけ
清水:同様のものとして「認知症カフェ」というものもあり、こちらもコミュニケーションの場だということですが、こちらはどのようなきっかけで開始されたのでしょうか?
石井:「認知症カフェ」は特別珍しいものではなく、全国的に設置する自治体は増えています。認知症に関する知識は広がってきていると感じています。とはいえ、ご家族に認知症の症状が徐々に見られ始めて、戸惑いを感じたり、あるいはどうしたらいいのか悩んだりしておられる方もいらっしゃいます。そういった方々が情報交換をしたり、認知症になっても安心して暮らし続けられる環境づくりをしていくための場所が「認知症カフェ」です。
高齢化が進む南房総市の今後の取り組み
清水:こうしたさまざまな取り組みは、高齢化の進行が大きな背景としてあるのだと思いますが、ほかにお考えの対策はありますか?
石井:そうですね。高齢者が安心して暮らし続けるために、「お達者サロン」も「認知症カフェ」もそれぞれ一つひとつが大切な仕組みです。もちろんほかにもたくさんの課題がありますが、私が強く感じるのは、高齢者のお出かけやお買い物に対する支援の必要性です。高齢化が進行していく中で、外出をしたくても出かけられないといった方がどうしても増えてきています。民間事業者は採算の合わないことは継続してくれません。しかしながら、地方に暮らす高齢者の方はたくさんおられます。ゆえに、お出かけやお買い物への支援が、今後ますます重要になると考えています。
市民、読者の方に向けて一言
清水:最後に市民の皆様や読者の方に向けてメッセージをお願いします。
石井:南房総市では、誰もが最期を迎えるときまで安心して暮らし続けられる環境を追求していきたいと思っています。それぞれの地域で、そういった環境づくりが進んでいくことを願っております。行政だけではなく、地域のみなさんと一緒に力を合わせて、安心して暮らし続けられるまちづくりを目指していきましょう。どうぞよろしくお願いします。