【エンディング業界2022年のチャレンジ】経済産業省認可法人 全日本宗教用具協同組合 理事長 池田典明氏

業界唯一の全国的組織の協同組合である全日本宗教用具協同組合(略称:全宗協)。これまでも、業界のコンセンサスづくりや正常な商取引の確保、業界の大同団結を図るためのリーダー役として活動を展開してきました。同組合で理事長を務める池田典明氏に、弊社の小林史生がコロナ禍の状況や、今後の業界展望について話を伺いました。

仏事コーディネーター資格制度の後援事業、仏壇公正取引協議会との連携、祈りの啓蒙活動の3本柱に加え、新たな取り組みを考える年に

経済産業省認可法人 全日本宗教用具協同組合 理事長 池田典明氏

リモート活用は理事世代にはハードルが高い

小林:コロナ禍が2年近く続いておりますが、業界、また全宗協にとって昨年はどのような年だったと分析していますか?

池田:全宗協においては、組合員の皆さまと集まる機会が難しく、通常総会は全国の9地区ごとの担当で、例年5月に開催予定となっていましたが、一昨年同様に中国地区での開催はできなかったため、事務局にて最少人数に限定し、書面議決による総会を開催しました。令和4年度には中国地区での開催が引き継がれることになっております。
10月に行われた京都での研修会は『INORIのこころを発信する~バーチャルとリアルを融合した接客~』をテーマに取り組むことができ、有意義な時間となりました。緊急事態宣言が解除された後ではあったものの、大人数での参集は難しかったため、会場に集まる人数は例年の半分以下に限定し、リモートでの参加を呼びかけ、全宗協の事業委員会とニューリーダー部に運営を担って貰いながら、ハイブリッド研修会を行いました。

小林:リモートの活用に対し、組合内ではどのような反応がありましたか?

池田:Zoomなどのビデオ会議は初めての試みなのでハードルが高く、実際に開催しましたが、画像が見えても音声が聞こえない、音声が聞こえても画像が出ないといったトラブルが相次ぎました。今後の課題です。また、バージョンアップなどで設定が変わったり、アクセスに手間取ったり、使い方がよくわからないなどの声も聞こえてきます。10月の研修会では、余裕を持った入室、チャットの活用、グループトークなど体験でき、リモートにしっかり向き合う、中身の濃い2日間となりました。

3本の柱に加え、SDGsの取り組みに力を入れていきたい

小林:ここからは来年度の展望についてお話を聞かせてください。2022年は、全宗協としてどのような取り組みを行っていく予定ですか?

池田:全宗協の活動における3つの柱をさらに強化していきたいと考えています。全宗協とは別組織のそれぞれ独立した活動ではあります。1つ目は、今年で18年目を迎える仏事コーディネータ―資格制度の後援事業です。当事業は宗教用具の専門的な知識の習得と、プロとしての自覚を促す役割を担っており、生活者と仏事を繋ぐ大切な役割を果たしてゆく必要があると考えます。
2つ目は、平成24年(2012年)に設立された仏壇公正取引協議会があります。生活者の方々に仏壇の品質・原産国の全国統一の表示をすることで、伝統の産業を引き継ぐという意義ある活動で、全宗協のみならず、伝統的工芸品産業、全国の業界団体とも意識の共有を図り、生活者に信頼できる商品を届けたいと考えます。
3つ目は、「PRAY for(ONE)小さな祈りのプロジェクト」の啓蒙活動への協力です。それに加え「INORIJAPAN」の普及活動。これはともに白鳳685年3月27日、天武天皇の詔(みことのり)「諸國毎家作佛舎、乃置佛像及經、以禮拜供養(対訳:諸国の家ごとに仏舎を作り、すなわち仏像と経とを置きて礼拝供養せよ)」に因んだ祈りの日の活動です。日常と共にある祈りの継承と浸透を図っていきたいと考えています。

小林:3本の柱に加え、今後新たに始めようとしている取り組みはありますか?

池田:SDGsの取り組みにも力を入れていく予定です。具体的には、古い仏壇の資源再生についてひとつの環境問題として取り組むことで、4番目の柱にしていきたいと考えています。
一方で、各地方自治体で仏壇の処分についてそれぞれ対応の仕方が異なっているため、ルールを一元化するのが難しいという問題にも突き当たっています。現在は、全国統一のルールづくりを協議・検討し、環境省へ働き掛けています。全国統一に向けてはまだ課題が多いですが、全宗協が先駆けてルールをつくり、将来的には加盟店の仏壇再生・処分の問題を整えていきたいです。

小林:仏壇の処分について悩んでいる業者さんは多いと思います。全国統一のルールづくりを実現できれば、全宗協に加盟するメリットのひとつになりそうですね。

今後求められるのは生活者に寄り添う姿勢

小林:全宗協の組合員、または入会を検討している仏壇店の方々に向けてメッセージはありますか。

池田:コロナ禍の影響もあったのか、昨年は全宗協の退会者がありました。今後は研修会も含め、組合員同士が交流できる場を増やすなど、会員増強を考え組合員のメリット強化にさらに力をそそいでいきたいです。またコロナの感染状況をみながら、北は北海道、南は沖縄まで、時間があるかぎり組合員の皆さまのところに出向き、意見や要望などをお聞きしていきたいと思っています。全宗協の活動をよりよいものにしていくためにも、ぜひとも皆さまに組合活動にご協力いただけると幸いです。

小林:最後に業界に向けたメッセージや要望がありましたら、お願いします。

池田:全宗協では3年前から、仏壇仏具に関するお客さまの呼称を「消費者」から「生活者」にあらためました。仏壇は消費されるものではなく、生活する人が心の安らぎを得る祈りの場だと考えたからです。今後我々に求められるのは、生活者に寄り添う姿勢だと思います。たとえば仏壇仏具についても、商品の価値を説明することも大切ですが、生活者が仏壇仏具をどんな場面で、どんな風に使うのかを想起できるようなコミュニケーションをとっていくのが望ましいのではないでしょうか。全宗協としては、「PRAY for(ONE)小さな祈りのプロジェクト」の活動を通し、ただ仏壇の購入を促すのではなく、手を合わせて他が為に祈ることの大切さをあらためて訴えていきたいと考えています。
また、生活者と同じ目線に立って悩みに耳を傾けることも、宗教用具業界の大切な役割のひとつだと考えています。いまの時代はお寺との関係が希薄な人が増えています。だからこそ、我々が間に入り架け橋となって、生活者に直接アドバイスする機会が増えると、お寺との関係を取り持つことができるかもしれません。お寺とともに手を取り合い業界を盛り上げていきたいです。
最後になりますが、日本に永く息づいている祈りの文化は、我々宗教用具業界も供養業界も、求めている方向性は同じだと思います。
人の心の持ちかたは、長い歴史の中で大切に継承されながらも変化してきたもの。今を生きる人にとっても、亡くした命に対して想いを届けたいという気持ちは存在します。その供養の心や祀りごとの一助となるのが我々の仕事だと思います。

月刊仏事 1月号に掲載されています

掲載記事

特集 仏壇
2022.01.04