【エンディング業界2022年のチャレンジ】一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会 会長 山下裕史氏

「コロナによって社会は大きく変わりました。と同時に、私たちに大切なものは何かをもう一度見つめ直す機会を与えてくれました。儀式は家族や関わりある人が集まり、関係性や自分の立ち位置を再認識することでバランスが崩れた心の整理をし、前を向いて歩いていく力を得る場でもあります」
弊社代表取締役社長COOの小林史生との対談で、一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会 会長 山下裕史氏に業界の社会的意義や在り方について語っていただきました。

人々の心の安定のために担う葬儀生きる活力に繋がるからこそ真剣に価値を伝えたい

一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会 会長/株式会社117 代表取締役社長 山下裕史氏

コロナの影響と変化

小林:この2年間、お葬式を取り巻く環境にも大きな変化があったと思います。当時の現場の様子など教えてください。

山下:人が集まることをしてはいけないという風潮が生まれましたね。尚且つ、集まっている人を攻める風潮も生まれました。コロナ初期の2月から4月頃は対策を考えて準備する程度でしたが、4月後半から急速に社会の動きが変わり始めました。地域ごとに展開の仕方が異なり、東京に行った時はその深刻な空気に驚きました。ちょうどマスクや消毒液などの確保で追われ始めた時期です。実は私の母が昨年の5月に亡くなりました。医師には3月頃から危ないと言われていたので、急いで準備を始めていました。同時期に冠婚葬祭のガイドラインを作成していたので、母のお見舞いに行って、帰ってきてからガイドラインの校正をメールで送り、一息ついた時に母が亡くなったと連絡が来ました。通常通りの一般葬で準備をしていましたが、ちょうど緊急事態宣言が延長になった直後のことでしたから、急遽、家族葬に変更しました。思い出のビデオも一晩で作り直してもらえました。お通夜の後もガイドラインの直しをしていて。全国的に見ても同じような状況でしたから、各社とも対応に大変だったと思います。
数多くのコロナ感染ご遺体に対応させていただきました。2020年は慌ただしい中、病院・行政・火葬場と連携を取りながらやってきました。夏頃から少し落ち着きましたが、冬はまた想定以上に拡大したので大変でしたね。2021年は前年の経験を経て準備はできていましたが、いつが収束か見えない中での一年でした。行政から、葬儀は国民の心の安定のために必要な儀式だから、やらなければいけない仕事として明示がありました。私たちも大切な役割であると使命感を感じて仕事をしてきました。

環境の変化と葬儀の社会的意義

山下:人が集まらない、会えない状況になって、ストレスからか犯罪が増えたと感じています。人は人との関係性において自分の存在を認識します。家族の中での自分、社会の中での自分、人との関わりや自らの役割を認識して、心のバランスを保っています。しかし、人と会えなくなることで、自分自身の立ち位置や方向性が見えなくなってきていると思います。この2年間を振り返ると、事故や病気以外でこれまでにはない亡くなり方をしている人が多い。これは心のバランスが崩れている状態だからではないかと思います。
冠婚葬祭や七五三などの儀式は家族に変化がある時に関わりある人が集まるものです。特にご逝去は、これまで存在した人が存在しなくなるという、人生において大きなインパクトを与える出来事です。結婚式や葬儀を何故する必要があるのかという問いはよくありますよね。たしかに、どちらも書類を提出すれば行政手続きはできます。しかし、個人の社会的な役割は書類では確認できません。儀式は家族や関わりある人が集まり、関係性や自分の立ち位置を再認識することでバランスが崩れた心の整理をし、前を向いて歩いていく力を得る場でもあるので、なくなってはいけないものだと思っています。

小林:確かに、お別れの場をしっかりともつことは自分自身の心の整理にも繋がりますね。

山下:近年「葬儀で様々な会葬者へ対応することの煩わしさを無くして、家族だけで送りましょう」といったやり方がメディアを通じて浸透しました。しかし、現在、家族葬として浸透しているやり方は昔でいう密葬です。そして、直葬は直行です。一般葬も社葬も、どの場合においても会葬者に関係のない人は一人もいません。たとえ喪主が知らない相手であっても、故人のために若しくはご遺族のために来られた人にお礼を伝えるのが喪主の役割です。自分は知らなくても相手はあなたを知っている。そんなこともよくありますよね。自分の親の若いころの話や知らない一面を知ることができる機会でもあり、おかげさまで今の自分たちがいるんだと認識する機会でもあります。
弊社の相談役の母親が亡くなられた時に、思い出ビデオを作成したときのことです。母親の兄弟や近所の方に電話をして話を聞いていったら、人生に何のエピソードもない普通の主婦だと思っていた母親が実はとても多くのエピソードがあり、多感で多様な生き方をしてきたこと、どれだけ苦労して自分を育ててくれたかがわかりました。本人は当初、のり気ではなかったのですが、結果的に勧めてくれたことに大変感謝してもらえました。実は私の母も葬儀の時に、生まれた場所が私の認識と違っていたことがわかりました。私の娘も葬儀で親戚から色んな話を聞いて、祖母のことを吸収していました。今では自然と仏壇の前で祖母に報告したりして手を合わせています。「ばぁばのお葬式は3回あったね」と言ってるんです。これは行政手続の日ではなく、祖母のために人が集まった会が3回あったからでした。色んなエピソードを繋ぎ合わせながら、おかげさまで今の自分があるということを改めて感じました。そこからまた前を向いて、一歩踏み出していく。生きる力を与えてくれる機会になるんですよね。葬儀で親戚や友人が集まると「次は誰が死ぬ番かな」なんて話をする方もいますが、それは死ぬ順番ではなくて、次にみんなで会うのはいつか、と同義なんですよ。

コロナ以降の消費者の心理を調査

小林:コロナによって消費者意識はどのように変わりましたか。

山下:コロナ以降、9割近くが家族葬となっている中で、葬儀をされた方の心情を知るために、過去1年間で喪主をされた方にアンケートを実施しました。
【1. 儀式は必要だと思うか】85%の方が必要と感じていました。
【2. 満足な葬儀ができたか】一般葬60%/家族葬50%/直葬40%でした。あまり差がないように見えますが一般葬の方の中には「コロナのため十分に声がけができなかった」との回答が24%ありました。
【3. 葬儀はなんのためにやるのか】という質問では以前は「故人のための供養・お別れの場」と答える方が多かったのに対して、コロナ禍では「関わった方の心の整理をする場が欲しい」と答える方が多かった。まさに心のバランスをとる場が必要になっているんですね。
【4. 友人の死を知って、葬儀に行きたいですか】80%以上の方が行きたいと答えています。2018年は約60%でした。コロナ以降、大きな心情の変化といえるでしょう。
【5. 故人に対して申し訳なく思ったか】一般葬9.8%/家族葬・直葬23%で、結果として一般葬の92%の方が「今できる十分な送り方ができた」と実感していましたが、直葬の半分以上の方が悔いを引きずる結果になっていました。

小林:家族葬や直葬をされた多くの方が後悔の残る結果となっているんですね…。

山下:ただ火葬をして、手続きを済ませるだけでは心の整理はできないということがよくわかります。人々の心の安定のためにこの仕事を担っているという意識をもつことが大事です。これは私たちが事前に伝えていく必要があります。故人をお送りする場だけではない。故人に関わる多くの人に対して、自分の生きてきた人生を咀嚼して前に踏み出してもらう機会や場であるということを認識してもらう活動をしなくてはいけません。

時代の変化に適応できる互助会に

小林:近年、そしてコロナ禍において、葬儀の形態が家族葬中心に変化しています。それに合わせた、互助会商品の構成に変化などはありますか。また、積立金で利用できる葬儀以外のサービスへの取り組みなどもありますか。

山下:互助会は結婚式と葬儀でしか使えないところから始まり、第三役務として七五三、成人式、法事などの行事で使えるようになりました。その後、一部利用もできるようになりました。私が就任してからは、さらに範囲を拡げて「生きているうちにも役に立つ互助会」をテーマに活動しています。ほとんどの方が葬儀を目的に入会されますが、入会した後に、用(葬儀)が発生したら呼んでください、ではせっかく入会していただいても関係性をつくれません。相談会を開催したり、事があるごとに足を運んでもらえる環境をつくっています。互助会の場合は営業スタッフが各家庭を回って窓口になりますが、実際に葬儀を施行するのは会館のスタッフです。そのため、会館へ行って現場のスタッフに会ってもらえる機会をつくるようにしています。どんな人が、どうやって葬儀をするのかを知ってもらいたい。現場のスタッフに出会ってもらうことで携わる人の姿勢や品質が伝わり、安心や信頼、リピートに繋がります。
互助会として今後はさらにタッチポイントを増やしていくために、利用範囲を拡げていきたいと思っています。例えば、同価格のコースでも祭壇の大小に合わせて異なる付随サービスを適用したり、遺品整理や海洋散骨、生前葬、仏壇クリーニング、クリスマスや誕生日の料理やケーキでも利用してもらえるようにしています。30年も経てば生活環境も家族構成も変化があって当然。振り幅を多様に拡げていくために、行政に認めてもらい、利用範囲を拡げ、使い勝手も良くしていっています。

小林:これから2040年に向けて多死社会に突入します。改めて、これから私たちは社会に向けて何を伝えていくべきだと考えますか。

山下:葬儀は安さが一番ではなくリーズナブルで価値を感じてもらえることが大事だと思っています。大切な人を十分に思いをこめて送ることができたかどうかが大事。心に引っ掛かりを残したまま生きる人が増えてしまうと、活力のない重い空気の世の中になってしまいます。葬儀がなくなると、世の中は荒み淀んでしまうかもしれません。前を向いて生きていくためには、心を整理しバランスを取り戻す葬儀の場は必要です。私たちの仕事分野においてできることは、人々が生きる活力に繋がる葬儀・儀式を提供していくことです。大切な機会であることを、社会に対して真剣に伝えていかなくてはいけない。葬儀社の人がこの場をサポートしてくれたから、担当の方がやりましょうと伝えてくれたからできた。できてよかった。それがずっと続いてきたのが私たちの仕事です。あとからやり直しはできません。だからこそ真剣に担わなくてはいけません。社会において、人々が心穏やかに活力をもって生きるために一人一人がそれだけの責務を担い、大切な業務をしていることを認識して仕事をしていただきたいと思います。

月刊仏事 1月号に掲載されています

掲載記事

特集 葬儀
2022.01.04