SDGsという言葉が日常的に聞かれるようになってきた。これからの企業活動には、SDGsへの積極的な取り組みも重要になる。とはいえ、ご供養の業界では従来の取り組みがSDGsに合致していることも少なくない。そこで本連載では各社の取り組みから、現代のSDGsの発想に合致させた事例を紹介していく。
今回は、昭和初期に途絶えてしまった「小倉織」を現代に復元させ、新たな価値を加えて展開している株式会社 小倉縞縞の事例を取り上げる。同社代表取締役の渡部英子氏に、同社の取り組みについて話を聞いた。
全国を風靡した高級綿織物
小倉織は、江戸時代には徳川将軍家への献上品となっていた由緒ある織物だ。その名の通り、綿の栽培に適していた北九州市小倉地区の名産品で、非常に細いたて糸を高密度に織り上げることが特長であり、丈夫さと使えば使うほどに味わいが深まるところが魅力。江戸時代初期には、袴用の素材として知られていた。
明治維新後、日本社会でも洋装が進んで以降は、学生服の素材として機械織りで霜降り生地が作られ、全国にも広がった。小倉で稼働していた工場の数は100社ともいわれている。需要の高まりから、岡山県や栃木県など、全国各地に産地が拡大した。それに伴い、模倣品の品質劣化も問題になったが、昭和初期に小倉織が途絶えてしまった決定的な理由は、北九州の産業構造が重工業メインへと転換したためだ。そうして、かつては全国を席巻した小倉織は姿を消した。
小倉織の価値と技術を再発見したのは、地元の染織家の築城則子氏。袴に用いられていた生地の一片を偶然手に入れ、組織分析などを行い、技術を復元・再生した。当初は自身の手織り作品制作の技術として用いていたが、その後、産業として復興することにも注力し、小倉織協同組合が発足するまでになった。
温故知新を鍵に再生糸を使った織物も
“何度でも使えるエコバッグ”という側面が強い風呂敷は、それだけで十分に循環型社会に合致したアイテム。だが同社では、さらに前進する試みとして、地球をテーマにした「縞縞 EARTH」シリーズを展開している。
「SDGsは、現在の繊維業界でも欠かせない視点です。『縞縞 EARTH』は、よこ糸に、環境循環型の再生糸を取り入れたサステナブルなシリーズです」
SDGsの象徴である“17の目標”を示す色を用いてデザインされたテキスタイルは、世界中から集められた衣料を原料とした再生ポリエステルを使用している。また、漂着ペットボトル等を原料とした再生糸を使用したテキスタイルもあり、あわせて現在4柄を展開している。これらの商品のたて糸には従来商品と同じ綿糸を使っているため、同社の小倉織の特色である、肌触りやデザイン性は損なわれていない。ここにも、小倉縞縞が目指してきた温故知新の精神が宿っている。
「デザインに惹かれて購入してくださったお客様が、『知らなかったけれど、すごい技術を使っていて、環境にも配慮されているんですね』と言ってくださることが、いちばんうれしいです」(渡部氏)
【註】再生糸についての詳細はこちらを参照
SDGs先進都市・小倉で
「北九州市は重工業化による公害を克服した経験があり、早い時期から環境問題や循環型社会への意識を強く持っていましたし、2018年には全国初の『SDGs環境未来都市』の自治体となりました。弊社でも、こうした環境先進都市にふさわしい取り組みを行ってきました」
2023年、次世代育成観光・環境保全から循環型社会の形成を目した活動を展開する実行委員会を設立。今年1月21日には、街をジョギングしながらゴミを拾うイベント『プロギング ザ・サークル』のアクションイベントを実施。集まったゴミは42.5㎏。その内、ゴミ袋1袋のペットボトルを再生糸の原材料へと循環させ、小倉織に生かすところまでを視野に入れている。
「北九州は、小学生に至るまで環境問題に関心を持っている土地柄。だからこそ、フィットネス感覚で地域コミュニケーションをとって、環境保護に楽しくポジティブに参加できる気風を発信していきたいと思っています」
今後は、世界に通じるテキスタイルブランドとして、海外に向けたサステナブル活動へと、さらに一歩踏み出したいと語る渡部氏。また北九州空港やザ・リッツ・カールトン福岡など、空間装飾にもビジネスの幅を広げているが、今後一層の躍進が期待される。