株式会社吉澤企画(神奈川県川崎市)
代表取締役 吉澤隆氏
寝台部マネージャー/エンバーマー 山田尚輝氏
株式会社吉澤企画は1994 年から葬儀専門の人材派遣事業で創業し、寝台搬送、安置室・式場運営、葬祭備品販売などを展開している。2020年4月から新型コロナ感染ご遺体の搬送を始めた。初期段階から対応していたこともあり、コロナ禍の最前線を知る企業といえる。当時の現場の様子や、1年が経過したいまの現状について、経験をもとに現場と経営側の立場から話を伺った。(取材日:2021年月末)
感染ご遺体の受け入れ経緯
吉澤:「2020年3月中旬から各所から問い合わせはありましたが、当時はまだ対策や情報がなかったので、その3月の時点では断念しました。情報収集のため、全国の葬儀社に連絡をしたところ、やはり明確な情報は得られませんでした。ほとんどの葬儀社が自社は搬送の専門ではないので、搬送業者に任せる。との回答でした。そこで、株式会社GSIの橋爪氏に相談し、何度も情報交換を重ねました。感染ご遺体搬送の実稼働は、GSIと日本医師会とで作成したガイドラインが発表された4月後半からになります。当時、感染ご遺体を能動的に引き受けていた会社はほとんどなかったと思います。主に契約をしている総合病院などからの依頼を引き受けている企業が対応していたようです。安置所に関しては、もしも近隣でクラスターが起こった場合、感染ご遺体の受け入れをしていることで風評被害を受けることが目に見えていたので、弊社では安置はできるが場所は公開しない。ということを前提に対応しました。グレーな回答にはなりますが、場所を貸していただいた大家の方への被害も考慮したうえで、このような対応に決めました」
吉澤:「4月の段階で決めたことは、緊急対応をしないこと。医療機関や葬儀社に対して、弊社は状況が把握できない限り動かない、ということを提示しました。なぜ待つ必要があるのかを、事前に手順書をお送りして伝えていました。受け入れを始めてから1年経ちますが、業界全体としてはまだ、従来の搬送手順や対応の見直し、ガイドラインに沿ったニューノーマルなやり方が浸透しているとはいいがたい状況です」
搬送手順の見直しをはじめ、感染ご遺体であってもなくても、死亡診断書の結果で対応を変えないこと(すべてのご遺体に素手で触れないこと、マスクを着用することなど)が推奨されているが、業界全体ではまだ、実践できていない、理解の足りない部分が見られるように伺える。
年間100件以上の搬送対応から、現状を知る
吉澤:「感染ご遺体の搬送を担当する人を事前に決めて、GSIで指導を受けた手順に基づきトレーニングをしてから現場に出しているので、処置・対応は徹底していますが、常に危険と隣り合わせなのは事実です」
現場に出ると、東京都と神奈川県で行政の格差があることを痛感。医療体制もそれぞれ異なるため、対応に戸惑うこともあったという。
吉澤:「初期の現場は、見聞きしていたよりも実際にはひどい状況でした。病院で消毒処理がされているかどうかも場所によって異なっていました。ご遺体が納体袋と棺に入った状態で受け渡されるはずが、そうでないこともありました。2回目の搬送を終えてから現場のスタッフに話を聞くと、思いのほか恐怖心なく対応してくれていました。心意気ひとつで現場に飛び込んでくれるのは、彼らの素晴らしいところですが、常に危機感や恐怖心をもちながら対応してもらわなければ逆に危ない、と感じたのも正直なところです。そのため、繰り返し警鐘を鳴らす必要があると思いました」
1年が経過し、スタッフが現場対応に慣れてきていることは頼もしいが、目に見えないウイルスとの闘いは、常に危険が潜んでいることを忘れてはいけない。
最前線の現場スタッフから
山田:「当時はニトリル手袋や防護服などが手に入りづらく、価格も高騰していましたこともあり、必要数を確保することに時間を要しました。足りない時はネットオークションで仕入れることもありました。現場の動きは、橋爪氏や専門家の方々に指導していただき、業務を遂行するためのマニュアルを作成し、社内で研修を重ねました。弊社では死亡確認の後、24 時間はウイルスが生存していると仮定して、スタンダードプリコーション(標準予防対策)とPPE(個人防護服)の徹底、搬送後にオゾン消毒を徹底しています。また、ご安置所の確保にも奔走していました。最初は手探りの状況でしたが、現在では都内と神奈川県内に全3か所のご安置所を確保しています」
2021年1、2月は搬送が一番多忙な時期だったと振り返る。
山田:「2月は月30件以上の依頼があり、1日5件対応する日もありました。12月~3月で100件以上の対応をしてきましたが、社内での感染やクラスターは発生することなく、やってこられました。エンバーマーの私が積極的にお迎えにあがることで、社内の不安はもちろん、ご遺族の不安をやわらげられるように努めています」
山田:「受注から業務完了までの手順は、通常通り電話で情報の聞き取りをしています。病院や施設によって引き渡し方法が異なることもあるので、事前に装備品が異なること、火葬まで面会が叶わないことなどを説明しています。病院や施設のお迎えは2名。病室や霊安室で納棺をして、目張りをして、棺の表面の消毒、ストレッチャーや器具の消毒をしてから、安置所へ移動しています」
ご遺体との面会の現状
納体袋に入った状態であれば、面会できるとは言われているが、実際には面会せずに火葬されることがほとんどだという。
吉澤:「面会に関しては、正直誰もがまだ不安を抱えている部分ではあるので、できます。とは軽はずみにお約束しにくいころがあります。冒頭で、安置はできるが場所は公開しない。というお話をしましたが、やはりご遺族が一番の濃厚接触であることが多く、感染経路が辿れていないということもあり、安置所を明かして面会できるようにするには、リスクを伴います。しかし、現在は、特定の経路を踏んでいただけたら、ご遺族に安置所を公開してもいいのではないか。ご遺族に、面会できる選択肢があることを伝える必要があるのではないかと思っています。実際には、受託される葬儀社側がその選択肢を提示せずに、進めていることが多いようにも思います。私たちは面会できる選択肢を提示したくても、すでに面会しない前提で受諾するため、ご遺族の意向は届かないのが現状です」
山田:「報道でもあるように、実際にはお骨になってから対面するケースが大半を占めていると思います。横浜市では火葬場によっては、小窓越しにお別れの場を少しだけ設けることも可能ではあります。空調設備の整った式場であれば、感染リスクは極めて低いと考えていますが、安置所などを含む葬祭施設の風評被害を考えると、一歩踏み出せていなのが現状だと思います。グリーフケアの観点からも、故人の顔をみてお別れをすることは需要なことですので、今後は安心して面会できるお別れの選択肢が広まっていけばと思います」
グリーフの観点から、ご遺体の状態に関係なく面会は必要ではないだろうか
吉澤:「実際に医療機関はご遺体にまで手が回っていないのが現状です。目が開いていたり、口が開いたままであったり、横向きのまま、髪は整えられていない状態のこともあります。その状態でご遺族と対面することはショックが大きすぎるのではないかとも言われています(普段はエンゼルケアなどで整えられた状態のご遺体しか目にすることがないため)。しかし、グリーフサポートの観点からみると、どんな状態であっても、ほんの少しでも面会をしたほうがいい。という意見もあります。僧侶の方々からは、整っていない姿を目にするのは、ご遺族がトラウマになるのではないか。という意見もありました。どちらの意見も理解できますが、やはりご遺族と一番接する時間のある方々が、面会できない、と言ってしまうことで、貴重なグリーフワークの機会は失われてしまうため、課題の残る難しい部分だと思っています」
防護装備が足りない。今後に備えて行政へ供給ルートの見直しを
吉澤:「まずは物資の供給に関して。行政の方々は昼夜問わずご尽力いただいていると思いますが、神奈川では医療機関には配給されていても、私どもの所までは届いていませんでした。感染ご遺体の受け入れをしていない会社に届いて、最前線の現場に立っていた我々には届かないという残念な結果です。葬祭業はエッセンシャルワーカーであるはずですが、そこまで目が向けられていないのが現状。次の危機に備えて、供給ルートの改善を考えていただきたいと思っています。神奈川県の例ですが、相模原市営斎場では火葬までに最長で23日間を要することもありました。病院―搬送業者―安置所―葬儀社―火葬場といった搬送工程が必要になります。すなわち、搬送する回数だけ装備が必要になるということです。一度の搬送で2名のスタッフが担当しても最大6着の防護服が必要です。実働している現場では、想像よりもはるかに消費が早いのがわかります。今後受け入れを検討されている会社は、このような消費数を想定して備蓄されることをおすすめします」
業界に向けてメッセージ
吉澤:「2020年から2021年にかけて、今回はなんとか乗り切れたと感じている会社も多いかと思いますが、既に変異株の拡大が始まっています。万が一本格的にベッド数が足りなくなる医療崩壊をむかえた場合に、感染ご遺体の受け入れをしていない会社も、受け入れざるを得ない状況がやってきます。その時が来てから対策を始めても遅い。もしも受け入れをしないのであれば、例えば、葬祭ディレクターの資格保持者は対応する。または、各社1、2名は専門で取り組める知識のあるスタッフを用意しておくべきだと思います。ご遺体の対応に関しては、気を付けるかどうかの問題ではなく、手順を身につけているかどうかの問題です。すべての葬儀社がガイドラインに沿って備えておくことが、その時になって社員さん達を守ることになると考えています。弊社はスタッフの経験を発信し、更新していくことで、業界のために少しでも役に立てればと思っています。苦しい状況、難しい状況は続きますが、現場での情報共有など、お役に立てることがあれば、何でもご相談ください。みなさんと一緒に頑張っていきたいです」