生前対策で業界の市場は変わる

コロナ禍において集客と売り上げに難航する葬儀社が多いなか、百合ヶ丘家族葬ホールは施行件数が増加している。デジタル遺品整理やネットサービスにいち早く取り組んできたことでも知られているが、2021年には新しく『デジタル終活』のウェブコミュニティを立ち上げた。集客・売上増加の背景にはなにがあったのか。また、今後業界に必要なことはなにか。代表取締役 増井康高 氏に話を伺った。

『お葬式のひなた』株式会社 ひまわりコーポレーション

代表取締役 増井康高氏
株式会社 ひまわりコーポレーション 代表取締役 増井康高氏

コロナ禍でも稼働率アップ

2019年3月にオープンした川崎市の百合ヶ丘家族葬ホールは、駅から徒歩2分のアクセス良好な斎場。コロナ禍においても高い集客が注目されている。

「百合ヶ丘家族葬ールだけでなく、会社全体の施行件数を前々期と前期で比較すると30%増加しました。理由はインターネットの見直しと強化です。広告の打ち出し方を見直し、新しくSNSやYouTubeの活用も始めました。集客をネット化することでコスト削減にもつながりました。また、地域活動では私が商店街の理事に就任したことで、地元の方との関わりが増えました。商店街の方々とLINEグループをつくり、宣伝広告のやり方などを提案したりしています。高齢者のコロナワクチン接種予約の際には、電話予約に苦戦されている方が多かったので、ネットで予約がとれるようにサポートしたこともあります。なかにはLINEの使い方を相談されることもあり、私はスマホの先生のようでした。私が葬儀社であることを伝えると、もしもの時はお願いしたいという話から、葬儀の提案をさせていただくこともあります。地域の方と信頼関係が築けることで、この関わりが生前からのお付き合いとなり、葬儀社として選んでいただける結果に繋がっています」

生前から繋がりをもつことで、家族が知らない故人の要望を叶えることができる。故人の要望を知っているので実現できれば、遺族の満足度は高く、葬儀の負担は軽減される。改めて地域との関わりやネット集客を見直すことで、コロナ禍においても業績アップの結果となった。

デジタル終活

「2021年2月に『デジタル終活』というウェブコミュニティを立ち上げました。現在、デジタル遺品は深刻な問題を抱えています。故人のスマホには銀行口座や「○○ペイ」などのコード決済サービス等が連携していますが、家族が故人のスマホを開けず、実態が把握できない状況にある方がたくさんいます。スマホのロックは自宅の玄関やパソコン以上に開くことが難しく、対応してくれる会社も数えるほどしかありません。そうした会社も100%開ける保障はなく、作業に1年以上かかることもあるので、相続税の申告に間に合わない可能性もあります。このような事態を防ぐためには、生前対策が必要なのです。例えば、通帳や重要書類と一緒にスマホのパスコードを保管しておくなど、生前にできることはたくさんあります。以前から、生前対策としてデジタルサービスを扱う会社はいくつかありましたが、認知されていないことが多かった。相談を受けたことをきっかけに、この度ウェブコミュニティを始めたところ、多くの反響がありました」

終活に取り組む人はある程度、問題が顕在化している人が多い。通常、エンディングノートを書くだけでも多くの人は苦戦する。しかし、なにもしていなければ家族の負担は重くなる。そこで、終活の仕組みを見直した。

「日頃活用しているスマホで終活ができれば、もっと終活がやりやすくなるのではないかと考えました。有料でセキュリティのあるサービスに、保険証券の画像保存や権利書の場所を記載するなど、スマホのなかに重要な情報を保存しておけば、もしもの時に困ることなく遺族が引き継ぐことができ、負担が軽減されます。ほかにも、家庭の味を受け継ぐためにレシピを保存しておくなどもいいですね。普段から活用できるコンテンツを加えることでスマホ終活の価値は上がると思います。日々、忘れてしまいがちなパスワードなど、生活するうえで必要な情報も入れておくと、自分自身の生活の助けにもなります。それがきっかけとなり、終活が進む場合もあります」

葬儀業界のデジタルトランスフォーメーション

今後、葬儀業界もデジタルトランスフォーメーションが必須になる。ただITを導入するだけでは市場は変わらない。デジタルトランスフォーメーションの仕組みを理解し、活用していくために生前対策が欠かせない。

「例えば、家族が亡くなると喪主は葬儀社を探して依頼をします。これが従来の市場です。葬儀業界は喪主を見つけることがサービスの前提にあったが、故人に選ばれることにシフトすることで市場は変化します。同時に単価は上昇します。核家族化により、喪主が故人を理解していないことが多く、離れて暮らしているから会っていない。または、コミュニケーションが希薄になっていることが多く、喪主の葬儀に対する価値感は下がります。しかし、故人であれば自分事なので必ず要望があります。故人の要望であれば遺族も納得できますし、遺族の考える負担が軽減します。対象を喪主から故人にするために、地域活動やデジタル終活など、生前対策が不可欠になります。これが葬儀業界におけるデジタルトランスフォーメーションに繋がります。法務関連も遺品整理も生前にできていたほうが圧倒的に進みやすい。特に、遺品整理業は本人(故人)であれば自分で判断できる生前整理で断捨離になるが、遺族になると判断しづらくなります。業界全体でデジタルトランスフォーメーションを上手く活用できれば、市場が変わります。これからは喪主が相談に来るのを待つ時代ではない。本人(故人)と出会うこと。したがって、葬儀社の責任は当然重くなりますし、提供できるサービスの質は向上します。すべて業界にとってプラスなことです。『デジタル終活』で業界のデジタルトランスフォーメーションを実現していきたいと思います」

  • 百合ヶ丘家族葬ホール

月刊仏事 9月号に掲載されています

掲載記事

葬儀
2021.09.27