近年、急速なデジタル化が進む中で、遺品においてもデジタルデータの取り扱いが問題となっている。今回は、デジタルデータの生前整理や相続上で生じる諸問題に詳しい、まこと法律事務所の北村真一弁護士にお話を聞いた。
“デジタル遺品”は終活で対策しておくべき
まこと法律事務所では、以前から単身者向け終活サービス「finale:」を通じて、終活支援に取り組んできた。しかしデジタルデータの相続処理業務においては、家族の有無にかかわらず課題があると、北村真一弁護士は語る。
「デジタル社会の中では、誰しもが“おひとりさま”なんです。家族で一緒に暮らしていても、各自のスマホの中では何をしているかわからないという時代です。キャッシュレスで買い物ができるし、投資もスマホで完結してしまう。どこにどのような財産または負債があるのか、スマホのデータを見てみなければわからないことが増えているのです」
その背景として北村弁護士が挙げるのが、デジタルデバイスを取り扱う年代の高齢化だ。利用者の加齢に伴い、デジタル遺産も増えているのだという。
「相続業務でも、デジタル終活の重要性を痛感するケースが増えてきました。
従前ならば、郵便で何かしらの書類が届くのを待っていれば、故人の財産や負債がおおよそは推測できました。ところが今は、銀行の預金通帳すら不要ですし、連絡もデジタルツールで届くようになりました。つまりは、パソコンやスマホといったデジタル遺品を開かなければ把握できない情報が多すぎるのです。
デジタルが生活に密接に絡んでいるがゆえに、スマホのパスワードひとつがわからないだけで困ってしまう。近頃は、サブスクなどの課金サービスを解約できないという悩みもよく耳にします。訴訟をするほどの金額ではなくても、ご遺族にとっては大きなダメージになります」(北村弁護士)
下のグラフで挙げたのは、デジタル機器の設定・トラブル解決を行なう日本PCサービス株式会社に寄せられた、デジタル遺品に関する相談件数の推移だ。2016年8月期に比べて、2023年の同時期件数は約3倍にのぼることが推定されている。
加えて、企業は個人情報保護をますます強化する傾向にある。「政府方針が個人情報保護強化にある以上、デジタル遺品にまつわる問題に対しては、終活で対策をしておくのが最良策」(北村弁護士)なのである。
パスワードが見つからなくても諦めないで
北村弁護士は、今年8月に日本PCサービス㈱が一般公開した『生前デジタルデータ 整理ガイド 2023』の監修を務めた。デジタルデータの生前整理ノウハウをまとめた最新版のガイドブックだ。幅広い分野に関わる問題であるだけに、手に取る人たちに自分ごととしてとらえてもらえることを重視してまとめたという。
「事前にスマホやパソコンのパスワードを残しておくことは確かに重要ですが、見落としてはならないのが、『どこに残しておくか』です。安全に保護するためにも、記載したパスワードは民間企業の貸金庫や弁護士事務所に預けておくなど、正しい手順でログインできるように保管しておきましょう。遺言を作成する時に、弁護士や家族に話しておくとよいですね。
故人様のプライバシーを守ることも大切です。見てもらわなければ困るものと、見られたら困るもののアカウントを分けておき、引き継ぎたいものだけを見てもらえるようにしておくと安心できます。
遺族様は、パスワードが見つからなくても諦めないでください。相続関係を証明できれば、アクセスを解除してくれるサービスもあります。法律事務所や日本PCサービス㈱をはじめとしたデジタルデータを扱う事業者に、ぜひ相談してみてください」
また、遺産というと資産価値の高いものをイメージしがちだが、故人の交友関係や写真・動画などの記録も、遺族にとっては大切な財産となる。法的には問題にならないが、そうした“財産”も引き継げるようにしておく配慮が必要だと、北村弁護士は言い添えた。