ロングライフホールディング株式会社
2024年卒就職人気企業ランキング。トップ100のリストには有名企業の名がずらりと並ぶ。その第82位に異色の企業の名がランクインした。介護サービス事業を主軸に活動するロングライフホールディング株式会社である。介護業界ではもちろんトップ。エンディング業界という括りで見ても最高順位である。若者が敬遠しがちな介護サービス事業者のなかで、なぜこの会社はこれほど人気を集めているのか? “就職したい介護サービス企業”とは? その背景に何があるのか、取材のために同社が都内で運営する施設を訪ねた。
ヨーロッパのプチホテルのようなホーム
東京メトロ東西線の葛西駅から徒歩5分。住宅街に溶け込んだ介護付き有料老人ホーム「ロングライフ葛西」。もともとは会社の寮として使われていた建物を改装した施設である。西欧風のお洒落な玄関。明るい陽の光で満たされたエントランスは、アンティーク感漂う落ち着いた佇まいになっており、一見、居心地の良いプチホテルといった印象がある。昔ながらの高齢者住宅のイメージを抱いている人はそれを覆されるかもしれない。
草木の繁る美しい中庭があり、一人の女性スタッフが箒を持って掃除に精を出していた。と思っていたら、その彼女が仕事を済ませて「ようこそお越しくださいました」と笑顔を見せる。代表取締役社長の桜井ひろみ氏である。
取材に来た私たちがちょっと驚いた顔を見せると、同氏は「(逆ピラミッド型の)トップに位置するスタッフの皆さんが働きやすいように私が支える立場でもあるのです」と言った。
サーバントリーダーシップ
桜井氏の言葉を解説すると、ロングライフホールディングは、組織づくりとして「サーバントリーダーシップ」を採用・実践している。これは顧客(利用者)に最も近い現場スタッフが、要望に応じてすぐに動けるように、上司がサーバント(奉仕者)の精神で支えるという考え方だ。最上位が顧客(利用者)、その下に現場スタッフ、さらにそのリーダー、管理職、役員と下りて来る構図になっている。
つまり、組織の経営・マネジメントを行う“トップ”は、じつは“ボトム”というイメージでサービス全体を動かしている。だからここでは社長も時に現場と共に環境整備をするのはごく自然なことなのだ。
桜井氏の話す言葉には関西弁のニュアンスが滲む。同社は大阪創業で彼女も大阪市出身。創業間もない頃から介護の現場で奮闘してきたスタッフの一員である。経営者の立場になった今も、その気さくで親近感のある笑顔と物腰は変わらず、普段は女性スタッフから役職ではなく「ひろみさん」と呼ばれている。
この仕事において現場を経験していること、現場の課題を共有できるという信頼感は大きい。就職したい企業として人気が高いのは、そんな彼女の存在感が、学生、特に女性の胸に強く響くからだろう。
採用活動の工夫
この「就職人気企業ランキング」は、就職情報サービス会社の学情が毎年発表しているもので、2024年度版は、24年3月卒業予定の全国の大学3年生・大学院1年生を対象に2022年4月から10月にかけて調査し、11月に発表された。前年度97位だったロングライフホールディングは15も順位を上げている。
介護職の顔を持つ人気YouTuberに仕事を体験してもらった様子を配信、就職フェアなどのイベントに数多く出展するなどの活動が功を奏した形だが、もちろん認知度を高めただけで就職したい会社に選ばれるわけではない。問われるのは事業内容や企業の在り方に共感できるか、そして一人一人の学生が、自分はこの会社でどう活躍し、どう人生を築いていくのかイメージできるかどうかといったことである。
ロングライフグループの活動と社会的評価
介護ケアから生まれた幅広い事業領域
ロングライフグループは介護サービスから始まった企業だが、創業から37年間で大きく事業領域を広げ、統括役である同社の他に現在6社が事業を展開している。
母体は介護サービス(有料老人ホームなどの施設運営)を行う日本ロングライフ(株)。エルケア(株)は在宅介護サービスを提供する。そして、グループ施設への食事提供やデイサービスへの配食等、「食」を提供するロングライフダイニング(株)、薬局を運営し、医療を提供するロングライフメディカル(株)、リゾートホテルを運営するロングライフリゾート(株)、海外事業を担うロングライフグローバルコンサルタント(株)。海外(現在は中国・インドネシア・韓国)にも培ってきた介護サービスのノウハウを輸出しているのである。
それぞれの施設・店舗などをすべて合わせると世界で232拠点があり、社員数は2,438人(2023年2月現在)。その8割を女性が占める。国内ではホーム・在宅合わせて1万3千人以上が介護サービスを利用している。業績面は、2022年通期の売上高がグループ全体で約126億円。今年はそこから約4億円アップの130億円を目指している。
介護はサービス業という理念
一口に介護サービス業と言っても、これだけの広い事業領域を持っていることが魅力として映るのではないか、と桜井氏は分析する。
「学生さんは自分の特性・適性がまだ絞り込めていない方、また、就職してからじっくり自分の可能性を見出していきたいという方が大勢おられます。ですから私たちの会社ならば活躍の場を探すことができる、これからさらに発展する可能性がある、グループ会社も増えていくのではないかなど、いろいろ期待を寄せて下さっている点が多いのだろうと思います」
そして同社が最も強調するのは、1986年9月の創業時から「介護はサービス業」という一貫した考え方があることだ。従ってリゾート業界で働きたいという人がリゾートホテル会社と併願したり、サービス業という大きな括りで同社を希望する人も少なくないという。
ちなみに就職フェアなどでは20代の若手社員が会社紹介のプレゼンターを担っている。年齢の近い人たちがそうしたフロントステージに立って生き生きと活動している姿を見て、学生は入社後の自分の成長を想像できる――そんな効果も表れている。
ホワイト企業認定・健康経営優良法人認定
もう一つ、今日の学生は企業を選ぶ際、世間的な評判や規模以上に「働きやすい会社か」「働きがいのある会社か」「優良なビジネスを行っているか」といったことを重要な基準にしている。その基準に合っているかどうかを第三者目線で裏付けるのが、一般財団法人日本次世代企業普及機構が2015年より実施している「ホワイト企業認定」だ。同社は2019年と2021年にこの認定を受けている。
「介護サービス業界は、労働環境が辛い、拘束時間が長い、長期的に務めることが難しい(女性は出産・育児などでキャリアが途絶える)というイメージが持たれています。私たちは業界のリーディングカンパニーとして、そんな現状を覆す努力を重ねてきました」
桜井氏が言うように、このホワイト企業認定では、IT化を進めて生産性を上げている、現場以外のスタッフはリモートワークで在宅勤務ができる、グループ間で情報の共有ができている、幅広い年齢層のスタッフの間で世代間がギャップなく交流が出来ている――そうした幾つものポイントも評価された。
また今年3月、『健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)』の認定も受けた。これは経済産業省と日本健康会議が共同で、地域の健康課題に即した取り組みや健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度である。ここでもスタッフに対する心と体の健康増進に向けた取り組みが、社会的に高く評価されていることがわかる。