寺院の存在感が危惧される“寺離れ”傾向の中で、都心の新興寺院として地域コミュニティを確立する。仏教を通して寺院の役割と生活規範の創造を模索。

宗教法人 立正寺住職  吉崎 長生 師

「業界スペシャリスト・インタビュー」。東京・新宿駅に近い渋谷区代々木の法華宗立正寺。立正寺が、この地に移転したのは1952(昭和27)年ことである。都内の寺院の多くは歴史もあり、檀家寺である。それに対して立正寺は檀家のない、いわば新興寺院といえよう。一般的に寺院と檀家を結びつけるのは、いわゆるお墓である。そこで、最初の霊園を東京の調布市に。というのも立正寺のある代々木は、第一種住居地域で霊園の許認可が厳しい。とはいえ、初の立正寺エリアの誕生である。今回は都心のコミュニティ寺院の存在と役割を摸索する立正寺の吉崎長生住職に、成長の経緯と要因、今後の展望を語っていただいた。

宗教法人 立正寺住職  吉崎 長生 師

霊園は立正寺のエリアを作るための手段

本日はよろしくお願いします。霊園の経営主体として、「メモリアルガーデン調布」と「メモリアルガーデン三鷹」がありますね。どちらも認知度の高い霊園ですが、開園の経緯や現状をお聞かせください。

吉崎住職:霊園を作るまで、ここにはお墓はありませんでした。しかし、一生懸命お題目を唱えてきた信者さんが、高齢になりお寺に来れなくなったら、次にお子さんが来るかというと来なくなってしまうのです。なぜかというと、檀家になっていないからなんです。
立正寺は、もともと立正題目教会といいまして、お題目を唱えるための教会でした。ですから檀家はおらず、それはそれで正しいと思うのですが、次が育たなくて、これが悩みでした。
一方、都内の他のお寺さんに目を向けますと、どちらも皆さん檀家寺です。檀家さんがしっかりいるのですね。それがやっぱり羨ましい。では、何がお寺と檀家さんを結び付けているのかというと、お墓だったのです。
それで、お墓を作ろうと考えましたが、立正寺は住宅地にあり、大きなマンションもあります。当時、墓地を作るには隣接する世帯の同意書が必要で、それは無理だと判断しました。一応はあたってはみたのですが、「この辺は第一種住居地域ですから、お墓なんか作られちゃ困る」「お墓を作ったら価値が下がってしまう」と、いった話も出ましてね。お墓どころか、お寺ごと出て行けとなってはいけませんから、霊園は外に作らざるを得ないということで、まず調布を作ったんです。
このとき、ただお墓を作るだけではなく、立正寺のエリアを作りたいということも含めて作りました。当時はお墓というと、都営は別にしてほとんどが高尾や八王子方面にありましたので、お墓も家の近くがいいという風潮になってきた時期だったんですよ。

いわゆる霊園ブームの頃でしょうか。いい時期でしたね。

吉崎住職:そうですね。立正寺のエリアを作ったものですから、ありがたいことに法事が増えました。そこで、次に三鷹も同じような考えで作りました。おかげさまで調布は完売、三鷹もほぼ完売の状況になっています。

立正寺の最初の霊園「メモリアルガーデン調布」(東京都調布市)
第2弾の霊園「メモリアルガーデン三鷹」(東京都三鷹市)

仏教を通してお寺の役割と生活規範を摸索

お寺の活動について伺います。立正寺は年間行事のほかに、法話ですとかウォーキング、ヨガ教室などを積極的に開催していますが、その方針などを具体的にお聞かせください。

吉崎住職:まず、お寺の役割は一体何なのかということがあります。日本の仏教は、我々の生活の規範として目指さなければならない根本的な教えです。その教えを、多くの人たちが自分の生活の中に取り入れることができるかということが、大事な観点であろうと思っています。ただ現代の世の中は、なかなか取り入れることが難しいかとも思います。
我々が、信仰の中で大切にしているのは『法華経』の教えです。ただ、『法華経』の一つひとつを解説しても、多くの人は受け入れることがなかなか難しいでしょう。ですから、いろいろな形でその教えを分かりやすく、また取り入れやすいように、そして実行できるようにしていくために、皆さんが参加できるような行事に置き換えていくというのが、日々の行事の中にあるのです。
一般的に、仏教の行事といいますと、お盆、お彼岸あるいはお正月などがあります。こういったときは、我々が呼びかけなくても皆さんお寺に来ます。これとは別に、来てくれた方が、次の違う方を呼び起こしていくようなイベントも含めていきませんと、一般の方が仏教に触れる機会はなかなかありません。
そして、そういった方を呼び込むためには、その方たちが持っている思いや行動の在り方を、お寺が受け止めることが必要です。そのために、たとえばヨガ教室、子どもたちが居場所づくりをするための子ども食堂、あるいは寺カフェなどを積極的に取り入れています。
ですので今は、より多くの人たちに、自分たちの生活の一部がお寺の中にあるのだということを実践させていくことを主眼にしています。そのため、年間の行動スケジュールを組んだときに、お寺に来られるイベント、来やすいイベントを取り入れています。

現在、かなり地域に定着してきていますが、何年ぐらい前から始められたのですか。

吉崎住職:最初に試みたのは30年前で、「桜を愛でる会」を始めました。近くに特別養護老人ホームがあるのですが、人手不足もあり施設から出かける機会がないということでした。そこで、立正寺の境内にすばらしい桜が咲くものですから、お釈迦様の御生誕である4月8日に、特別養護老人ホームの方々と桜を愛でる機会を作りましょうということになりました。ただ桜を見るだけではなくて、たとえば野点をしたり、地元の人たちのコーラスグループにきていただいて一緒に歌ったりしました。地元の中学校の合唱部やブラスバンド部を呼んだこともあります。
ところが、30年もやっていますと、60代から入っていた方が90代になって。そうしますと、今度は外に出ることがなかなか難しくなってきた方もいらっしゃいます。ですので、それなら今度は皆で施設の方へ行きましょうということで、日本舞踊の方を連れて行ったり、ボーイスカウトの子どもたちも一緒に行ってもらったりするようになりました。
このように地域の人たちを巻き込み、お寺というのは何なのか、命というのは何なのかということを、自然に皆さんの中に植え付けていくところから始めました。
立正寺は私でまだ3代目で、代々木の地にきたのは戦後です。昭和27年にお寺がここに建立されたのですが、300年、400年の歴史があるお寺と違って地域の中での認識度が低かったんですね。ですから、まずその辺りから掘り起こしをして、この地域に「立正寺というお寺があるんです」と、アピールしていくという手段をとっていきました。おかげさまで、「立正寺さん」と地域の誰もが知っているお寺にやっとなったところです。

春には立正寺門前の巨木の桜が咲き誇り、訪れる人も多い

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 1月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2023.01.24