大都会・池袋に「祈りの大樹と大仏」“マルチな住職”が咲かせる演劇とアートの熱き花

日蓮宗松栄山 仙行寺(東京都豊島区) 朝比奈文邃住職

仙行寺の“池袋大仏”――体内に8550巻以上の写経が納経された、二丈の釈迦如来座像

 巨大ターミナル駅・池袋から歩いて5分。天空に向かって伸びる、緑に覆われたモダンアート建築のビルが仙行寺である。まるで山の奥深くにそびえ立つ大樹のような建物の山門をくぐり、本堂に入ると、雲上に座った大仏が現れる。暖かな金色の光を放つその姿・柔和なお顔を目の当たりにすれば、誰しも思わず手を合わせずにはいられない。
 その隣には小さいながらも、この一帯を演劇文化や様々なアートが花開く街に生まれ変わらせた歴史ある劇場。戦後80年近く、池袋の発展とともに歩んできた仙行寺には、舞台劇にしたくなる物語がある。

朝比奈文邃住職

大都会に新たな「祈りの場」をつくる

若手建築家と大仏師による再建

「都会にあるお寺の新たなあり方を追求していこうという気持ちでチャレンジしました」
 2018(平成30)年に仙行寺本堂を再建立した朝比奈文邃 住職は、モダンアート建築の8階建てビル、そして通称「池袋大仏」についてこう語った。このチャレンジは基本的に、住職自身の企画である。
 建築デザイン・設計を担当したのは原田真宏氏。かの世界的建築家、隈研吾氏の下で研鑽し、近年、数多くの建築賞を受賞している注目の若手建築家である。
「畏怖の念を起こさせるような深山の大樹をイメージしました。人間は大自然から受ける影響が大きいので、そういう外観にしたいとお話したんです」
 住職の示したコンセプトは見事に具現化された。人を包み込むような優しさと威厳を併せ持つ“大樹”は、雑多なビルが立ち並ぶこの界隈で、ひときわ存在感を放つ。
 それとともに、誰にとっても一目でわかる、手を合わせる対象が欲しいとして、大仏の設置を考案。著名な大仏師である滋賀県在住の彫刻家、渡邊勢山 氏に依頼すると快諾を得られ、実現した。ファンタスティックなニュアンスを持つ大仏像は、建立当初から話題をさらっている。

街の精神的支柱に

「世界のどの都市を見ても、教会、聖堂、礼拝堂……中心部には必ず祈る場所があります。“祈る”という行為がいかに人間の生活に必要不可欠なものか、精神の健康維持・増進に寄与しているか、日本人はもう一度考え直す必要があるのではないでしょうか」
 新たな本堂ビルと池袋大仏を作った背景について、住職はそう説明する。
「本堂再建の時に考えたのが、駅近にもかかわらず、いや、駅近だからなのか、人通りは多いのに誰もお寺に手を合わせる人がいないことです。だから、これから仙行寺を街の精神的支柱のような存在にしていくのが課題でした」
 大仏ができると、靴を脱いで五体投地を行うアジア人の姿も見られるようになった。そんな、お寺本来のあるべき光景を目の当たりにして、今、住職は大きな手ごたえを感じている。

深山の大樹のごとく緑をまとった8階建ての本堂ビルは、道行く人の足を止める
7階に位置する本堂は、堂内の前後から外光が射し込む開放的なつくり

演劇住職の誕生

シアターの支配人に

 30年あまりにわたって池袋の演劇文化を育んできたシアターグリーンは、2005(平成17)年に建物全体を建て替え、1つの建物内に大中小3つの劇場があるシアターコンプレックス(いわゆるシネマコンプレックスの劇場版)へと生まれ変わった。そのリニューアルに際し、新たに劇場支配人となったのが文邃住職なのである。
 大学院を卒業後、僧侶となり、日蓮宗の宗務院に勤務していた20代の若僧は、いろいろなお寺のあり方・日蓮宗の運営のやり方などを学んだ上で仙行寺を見直した。
「劇場を持っているお寺は、少なくとも日蓮宗では仙行寺が全国唯一。これはユニークだし、大きな強みになると思ってかかわりました」
 副住職として自坊に戻ってきた文邃住職は、「地域の文化を育て、街により豊かな文化的賑わいを創出する」という理念を掲げ、シアターグリーンを再スタート。演劇人・演劇ファン・芸術関係者のみならず、自治体(豊島区)からの応援も受け、当時の区長の提言で前の道は「シアターグリーン通り」と呼ばれるようになった。

脚本家としても活躍

 文邃住職は支配人を引き受けるまで演劇のことはまったくの門外漢だったが、やると決めると時間を捻出し、東京を中心にさまざまな演劇公演を見て回ったという。そして関東一円の学生劇団を集めて大学演劇祭を開催したり、各種の演劇フェスティバルを企画。演劇ファンのすそ野を広げるとともに、みずからもプロデュース公演を行い、脚本・演出も自分で手がけるようになった。
 2012(平成24)年には仙行寺座付のエンターテイメント時代劇一座「ざ☆くりもん」も旗揚げ。その舞台——仏教的エッセンスを入れ、僧侶の視点から描いた時代劇コメディ——は評判を呼び、脚本家・朝比奈文邃は演劇界全体で広く知られるようになった。また、それに合わせて芸能事務所「株式会社アリー・エンターテイメント」も設立し、テレビ・映画への出演など、より幅広い活動を展開している。

僧侶の活動の一環として

「そうした演劇関係のお仕事とお寺のお仕事を両立させるのは大変ではないですか?」と水を向けると、「自分の中では両立させるといった感覚はありません」という返答。読経や法話と同じく、脚本を書いて舞台を創ることも自分にとっては別々の仕事でなく、すべて僧侶としてやるべき活動なのだという。
「これは宗門・お寺のあり方に対する提言になってしまうのですが、やはりもっと自由に、住職の采配でいろいろなことができたほうが、お寺はもっと繁栄し、社会にも役立つと思うのです。これからは少しずつでもそうした改革をしていくことが必要なので、まずは自分ができることをどんどんやっていきます」
 今や池袋、ひいては豊島区全体の一連の文化活動に携わり、その育成役を担う文邃住職。この地域で仙行寺が果たす役割は日々、大きくなっている。

池袋の演劇文化を育てた劇場へのリスペクトから「シアターグリーン通り」と命名
朝比奈住職の戯曲を上演する時代劇一座「ざ☆くりもん」

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 11月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2023.11.16