日本の仏教文化を宿泊体験を通じてより広く発信するお手伝い

みんな本当はお寺が好きだ。お坊さんを愛している。暮らしに仏教を取り入れたい。
人々の心の声を聞き、今、多くの僧侶が志あらたに、地域のため、社会のため、文化継承のために活動を始めた。
だいじょうぶ、心配ない。そばには頼りになる人たちがいる。支えてくれる仕組みがある。さまざまな形で日本のお寺づくりをサポートしてくれる応援団をクローズアップ!

シェアウィング(お寺ステイ)

心と体を調える場としてお寺を活用すべく、日本最古の宿泊業である「宿坊」に着目し、お寺の宿泊事業を推進している、2016年に起業した株式会社シェアウィング。お寺が歴史的に担っていた機能と役割を見つめなおし、地域と世界に開かれたこれからのワクワクするお寺をつくっていく――同社はそうしたメッセージとともに一般の人々がお寺に求める体験を宿泊という形を主体に提供している。すでに全国で7ヵ寺のお寺と提携を結び、観光庁が進める〈寺泊事業〉の専門家としてアドバイザー業務を務めるなど、お寺が持つ潜在的な可能性を掘り起こし、広げ始めている。

食事(精進料理)

日本唯一(=世界オンリーワン)の寺泊支援企業

土地柄と歴史・文化的背景を強調した宿坊

高山善光寺(岐阜県高山市)、正傳寺(東京都港区芝)、観音院(群馬県桐生市)、端場坊(山梨県南巨摩郡)、武井坊(山梨県南巨摩郡)、大泰寺(和歌山県那智勝浦町)、正暦寺(京都府綾部市)。2021年12月現在、シェアウィングが提携し、運営支援している宿坊は全国で7ヵ寺ある。いずれもその土地柄、そのお寺の歴史や文化的背景に合った個性ある宿坊となっている。
たとえば弊誌2021年8月号「寺力本願」でご紹介した大泰寺は、近畿地方指折りの観光地である那智勝浦町の大自然が堪能でき、宿坊とともに境内にキャンプ場やRVパークも併設した。また、天台宗から臨済宗に改宗したという同寺の歴史から、仏像と水墨画を両方鑑賞できるといった点を強調している。

大泰寺(RVパーク)

都心にある正傳寺は、都内で広々と宿泊できる宿坊として外国人観光客の需要が多く、最近ではコロナ禍における海外からの帰国時の一時滞在場所として長期滞在需要に応えている。また、産学連携プロジェクトの舞台にもなっている。

  • 正傳寺・入口
  • 正傳寺・宿泊室

日蓮宗の総本山である身延山久遠寺(山梨県)のお膝元にある端場坊と武井坊は、もともと久遠寺の修行僧や参拝客が泊まっていた宿坊であり、その歴史と文化を体験できることが特徴だ。

武井坊

総合的ブランディングを担う

シェアウィングでは宿坊の運営を希望する、あるいはすでに宿坊を営んでいるお寺のコンサルティングを行い、それぞれの特徴を見きわめ、プランを提案したうえで提携。ウェブサイトを制作したり、プレスリリースを発行したりといったプロモーション活動も担う。
当日、現地での対応・接客は当然、そのお寺で行うが、そこまでのお客様とのコンタクト(宿泊予約、メールによるやりとり、外国人客との英語対応など)、および、トラブルなどに対するフォローアップ(現地にいなくても対応可能なケース)も同社が積極的に支援する。
ウェブサイト制作などを請け負っているところは他にもあるが、こうした宿泊客とのコミュニケーションや運営の細かい部分まで手間と時間をかけて寺泊事業をサポートしているところは、現時点において日本で唯一と言って過言ではない。いわばシェアウィングは宿坊の総合的なブランディングを担う会社である。

パートナーシップを結ぶ条件

信頼できる知人からの紹介

同社には現在、10人ほどのスタッフが所属している。今回の取材でお話しいただいたのは、メディア対応を含めて最前線で活動している森沙也加氏と、2016年の立ち上げ時から参加している鈴木雅晴氏である。
お二人の話によると、提携を結ぶお寺は紹介でご縁を頂くことが多いという。
「立ち上げ時、こうした事業をやりますと公言すると、不思議と今までなかったたくさんのご縁ができたんです」と話す森氏と鈴木氏。
社会的地位のある人、普段の仕事や生活では出会えないような人たちが寺泊事業に興味を持ち、様々なアイデアを提供してくれたり、実際にお寺との仲介役を買って出てくれたりしたと言う。これは同社が利益最優先ではない、ソーシャルベンチャー的な面を持っていることも関係しているだろう(※シェアウィングは、一般社団法人シェアリングエコノミー協会に加盟してる。)
こうした話を聞くと、お寺離れ・仏教離れが取りざたされても、心の奥では「お寺は面白い」「お寺文化を残したい」という気持ちを持っている日本人は少なくないことがわかる。そして何かきっかけがあれば、自分ができることなら協力するという人も大勢いるのではないか、と考えられる。

希望するお寺からの相談

こうした紹介の他に、シェアウィングにはホームページ経由で、宿坊を開業したい・興味がある、自坊で何か体験イベントができないだろうかといった相談が全国のお寺から寄せられる。気持ちはあっても、ノウハウがないため、どこからどう始めていいかわからないという相談に対して、同社では一つ一つ丁寧に話をしていく。
まず確認するのは、そのお寺の「本気度」である。寺泊事業は短期間で成果が得られるものではないし、気持ちだけでは実現できない。設備投資には当然、数百万円、場合によっては数千万円単位の初期費用が掛かるし、運営していくためのランニングコストや人材(現場での働き手)も必要になる。そうした問題をクリアできるかどうか、リスクを負ってでもやっていけるかどうか、そして、双方にとって長期間、信頼し合えるパートナーになれるかどうかが大きなポイントとなる。
「お話をしてみて『うちでは無理です』と言って諦めたお寺もありました」と、森氏は正直に打ち明けてくれた。

経済感覚を身に着けるという課題

その土地によって客層が変わってくるので、どういった宿泊客の需要があるのか、そして同じ地域にある旅館やホテルなどと比べて安い宿にするのか、それとも特別感のある高級宿にするのかといった価格帯も話し合いの重要なポイントになる。
同社に対する報酬は、事前の準備段階で掛かる費用と、維持・運用に掛かる必要経費で構成され、開業コンサルティングからその後の運営支援事業の契約内容は、各お寺と話し合いを通じて決める。

月刊仏事 2月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2022.02.15