「お墓参りをもっと明るく、もっと楽しく!」女性の力で墓石と人々を結ぶストーリーを

 墓石業界が〈墓じまい〉〈墓ばなれ〉に悩むなか、モダンポップな商品を提供する“日本一明るいお墓参りブランド〈墓詣で(HAKAMOUDE)〉を動かしているのが生田化研社(東京都豊島区)だ。「業界内では『もうお墓は売れない』といった声も聞こえてきますが、「先祖供養も墓参りも大事だ」という人たちの声をもっと伝えていきたいです」と訴える同社の大塚俊明代表は、商品開発リーダーとウェブ開発主任に、生活者目線、消費者目線を持つ女性社員を起用。墓石と人々との間に“新しいストーリー”を創造しようとしている。ブランドコンセプトは「お墓参りをもっと明るく、もっと楽しく!」

左より生田化研社代表の大塚氏と、吉田氏、成島氏の3人

開発趣旨は「自分が楽しめるか」

 生田化研社の商品開発リーダー・吉田香織氏は、マーケティング的な観点ではなく、自分たちが面白い・かわいいと感じるか、イメージやストーリーがわくか、友だちにも薦められるか、といった基準で、リアルに欲しいと思えるものを追求したという。
 また、それらのアイテムに共通するのは、お墓りをする人が従来の形式や常識にとらわれることなく、自分のやり方で自由に、自発的にご供養ができるという点である。言い換えると、お墓参りで遊べる、イベントにできる、テンションを上げて楽しめるということである。
見落としてはいけないのは、こうした「楽しい」「かわいい」「おしゃれ」といった若い女性的なセンスは、年輩者——女性はもちろん男性にも――広く受け入れられる時代になりつつあるということだ。
 「ライフスタイルが変わったために、日本人はお墓参りをしなくなった」とは昨今よく聞く話だが、仏壇のインテリア化が進んでいるのと同様、お墓参り、ひいてはお墓の在り方も人々のライフスタイルの変化に応じて刷新すべきではないか。それが、生田化研社による〈墓詣で(HAKAMOUDE)〉の提案なのである。

女性の視点は“一般消費者の視点”

 1951(昭和26)年創業の生田化研社は、建築石材、およびその関連商品の販売で成長してきた会社である。会社の基盤ができた後、墓石用の接着剤を扱ったのがきっかけで墓石業界にかかわることになった。同社にとって墓石関係事業での売上はまだまだ少ない。しかし、上場企業関連会社から転職し、同社の5代目を継いだ大塚俊明氏には強いこだわりがあった。
 「『週末にお墓参りに行くぞって言うと、家族全員がやった!って喜ぶ』──そういう仕事がしたい」と言って前の会社を辞めたんです。その言葉で、遺留していた上司も納得してくれました」
 建築石材の仕事はすべてBtoB、墓石はBtoBtoC。大手企業の元営業マンの大塚氏は、そのC(一般消費者)にこだわった。自社のビジネスとして墓石を売るためにはお墓が売れなくては→お墓が売れるためには一般消費者にその価値を見直してもらわなくては→お墓の価値を見直してもらうためには、もっとお墓参りによいイメージを抱いてもらわなくては――こうして社長就任後の2017年、一般消費者とのダイレクトな接点を作るために、長年温めてきたブランド構想を実現させた。そこで必要と考えたのが、女性の視点だ。
 「BtoBは顧客に気に入ってもらえさえすればOKですが、BtoCは消費者の心をつかむセンスが必要です。その点、女性は感性が優れています。それに、近所の八百屋やスーパーマーケットから銀座界隈の高級ブランドショップまで、バリエーション豊かな場所・シーンで買物をする習慣が身についている。買物をしない人には、消費者の動向はわかりません。そして女性は石材業界の常識を知らない。それはむしろメリットで、フラットに物事が見え、忖度抜きで意見が言えます」
そこで、事務職だった吉田氏に白羽の矢を立て、その明晰な頭脳とポジティブなパワーを見込んで、商品開発のリーダーに抜擢したのである。

新しいイメージを創る女性力

 前職ではジュエリー販売会社に勤めていた吉田氏は、商品開発力のみならず、臆することなく大きな声を上げてお客を引き寄せる“商売人”としての能力にも長けていた。会社近くにある南池袋公園で定期的に開かれる〈リビングループ〉のマーケットに出店した時は、その才能をいかんなく発揮。道行く人々に明るく声をかけると、大勢が〈墓詣で〉の商品に興味を持ち、売上は予想をはるかに上回った。
 また、お墓やお墓参りに対するエンドユーザーのリアルな声を聴き、作り手が意図していなかった使い方・意味づけを発見できたことも収穫だったと、大塚氏・吉田氏は言う。
 「〈墓詣で〉の商品に興味を抱いた人たちはみな、先祖供養も墓参りも大事だと言います。業界の人たちは、メディアで喧伝されていることを真に受け、お墓は売れない、どうしようと悩んでいますが、悲観的すぎると思います。狭い業界の常識に縛られず、リラックスした日常の雰囲気の中で消費者と向き合える機会、体験が必要ではないかと思います」
商品を購入した人たちの中には、ふだんお墓やお線香なんて触れたこともない10〜20代の女性も多かった。今の若者の中には生まれて一度もお墓参りをしたことがない人、幼い頃に1〜2度行ったきりという人も珍しくない。しかし、よくよく話を聞いてみると、そのことを少し恥じていることも少なくない。「お墓参りは日本人としての正しい習慣」という意識は、どの世代も潜在的に持っているようだ。それを目覚めさせる施策も、これから必要になってくるだろう。

想いをけむりにのせて伝える「けむりのお手紙」
会社近くで定期的に開催される「リビングループ」のマーケット

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 11月号に掲載されています

掲載記事

仏壇
2023.11.09