第9回エンディング産業展:事業の創造と成長のヒントを得るために セミナー編

 8月29日~31日の3日間にわたって、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催された「第9回エンディング産業展」。質が高くバラエティに富んだセミナーを自由に聴講できることも、エンディング産業展の大きな魅力だ。
 今年は、3日間で計41本のセミナーが開催された。講師陣は各分野の専門家、実績を伸ばしている経営者、老いや死の問題に取り組む研究者など多彩な顔ぶれ。それぞれの講演タイトルを眺めるだけで、エンディング産業に携わる各業界の人々が今、どのような課題に直面し、どのような対応策を考えているのかが一目瞭然だ。
 グリーフケア、お寺と葬送、若手リーダー、終活相談、相続の未来、施設死・居宅死、アフターコロナ、DX、散骨、M&A、人手不足解消、火葬場の運営状況……。多くのエンディング事業者が、こうしたキーワードに惹かれるのではなかろうか。ここでは、編集部がピックアップしたセミナーについて、その概要を紹介していきたい。

ピックアップセミナー1/「お寺と葬送の未来予想図──今、葬送に何がおきているのか、お寺は何ができるのか」

8月29日13時より開催
講師
(株)寺院デザイン代表取締役 薄井秀夫氏

 今、エンディング産業界で起きていること、それがお寺に与える影響、それに対してお寺ができること、お寺が存在感を持ち続けるためには何が必要なのかを考えた。

薄井秀夫氏

人々はお寺(僧侶)がかかわる葬送に不満を抱いている

 今回、薄井氏はこんな「仮説」を立てた。地域活動・文化活動などに取り組むお寺が増えており、それは素晴らしいことだが、経済的なプラスにはならない。そこで、葬送におけるお寺の役割を改めて深く考えてはどうかと問いかける。
 お寺離れについてよくいわれるのは、社会の変化、家制度の崩壊、地域の変質といったこと。それに対して、「葬儀・供養はかくあるべし」というお寺の主張は正論だが、人々の心はお寺から離れていくばかりだ。
 檀家制度に基づく慣習は、戦後間もなくから崩れ始め、日本経済が低迷を開始してからは、お布施システムも成り立たなくなった。“家族葬や永代供養を選ばざるを得ない”人たちの気持ちについて、お寺はもっとおもんぱかる必要があるのではないかと語る。

葬儀は演劇、演劇にはよい脚本を

 薄井氏は葬儀を、故人の魂がどこへ行くのかを物語る演劇に見立てる。かつての野辺送りは、遺族・僧侶・地域住民、全員が出演者だった。しかし今は僧侶による“一人芝居”で、遺族・参列者はその観客に過ぎず、彼らはなんのために葬儀があるのかを理解できておらず、故人を見送るという実感を持ちにくい。
 今、求められるのは、遺族も参加可能な葬儀という演劇の脚本である。なぜこうした順序で儀式が進むのか、それぞれのシーンにはどんな意味と物語があるのか、僧侶は遺族に説き、あの世で大切な人が幸せに暮らすという実感を持ってもらう必要がある。そうしないと、いずれ葬儀は単なるお別れ会になるだろう。大切な人を無事に安らかにあの世に送る――このシンプルなことをどう伝えればいいのか、葬儀社と一緒に考えてほしいと締めくった。

ピックアップセミナー2/「僧侶だからできるグリーフケアー長期的な関わりのなかでの地道な実践」

8月29日15時より開催
講師
浄土宗蓮宝寺住職/大正大学地域構想研究所・ BSR推進センター主幹研究員 小川有閑氏
浄土宗願生寺住職 大河内大博氏
浄土真宗本願寺派覚円寺副住職 霍野廣由氏

 東京・大阪・福岡。それぞれの地域でグリーフケア団体、訪問看護ステーション、デスカフェなどで活動している3人の僧侶が日々積み重ねている地道な実践をもとに、「寺院・僧侶だからできるグリーフケア」を考える講演。

小川有閑氏
大河内大博氏
霍野廣由氏

グリーフケアにはほどよい距離感が最適

 檀信徒と永続的にかかわる僧侶は、死別直後の葬儀だけではなく、月参りや年回法要など、折に触れてコミュニケーションをとりながらグリーフケアを行っている。また、もともと信徒であったのではなく葬儀から関係が始まる場合は、グリーフケアの視点を持つことで、遺族との信頼関係がスムーズに構築できることもある。
 グリーフケアにおいては、相手が家族や友人だと距離が近すぎ、心を開いて接することが難しい。相手に心配をかけること、その後の関係が変化することを恐れるからだ。その点、お寺さんはほどよい距離感を保てる他者であるため、適切な話相手になれる。今後の超高齢社会において、僧侶(宗教者)の存在感は、より重要になるのではないだろうか。

生活空間に入れる特権から見えてくるもの

 月参りなどで家の中に入れるのは僧侶の特権といえるだろう。そこでは、その家族の健康状態などが自然に伝わってくる。高齢者の言動に異常を感じて認知症を疑う場合もあれば、家族関係の変化、相続に関する家族同士の諍いなども察知できるという。
 距離が近すぎる家族は問題――例えば親や伴侶が認知症になっているのではと気づいても、認めたくないので否定することが多い。中には指摘すると怒りだす本人、家族もいる。
 そのため、家族の意見を鵜呑みにせず、こうした僧侶の特権、ほどよい距離感を保てることの社会的意義を理解し、医療や福祉の分野で積極的に活かせるのではないかというのが、3氏の共通見解だ。
 僧侶(宗教者)はエンディング事業者のなかでも、結果を求めることなく継続して遺族とかかわり続けられる貴重な役割を担っている。他の事業者もそうした役割に目を向け、よりよい協力関係を作って、グリーフケアに臨むことが求められている。

ピックアップセミナー3/「3社で300年! 老舗企業の次世代リーダーたちが語る。実践・攻めの経営哲学」

8月29日15時より開催
講師
(有)佐野石材 代表取締役 佐野雅基氏
鳴本石材㈱代表取締役社長 鳴本太郎氏
(株)生田化研社 代表取締役社長 大塚俊明氏

司会進行
(株)EBiSU/石産協女性ネットワーク委員長 西村周子氏

次々と新しい商品やサービスを提供して注目を浴びる、老舗石材店の“次世代”経営者たち。彼らはどんなものを見て、新企画を生み出しているのか? 一般社団法人日本石材産業協会が主催。

佐野雅基氏
鳴本太郎氏
大塚俊明氏
司会:西村周子氏

3社で300年企業の斬新な取り組み

 静岡県藤枝市の創業169年、佐野石材の6代目、岡山県笠岡市の創業52年、鳴本石材の2代目、そして72年の歴史を持つ東京都豊島区の生田化研社の5代目。現代の厳しいビジネス環境に立ち向かうリーダーたちが、業界団体である日本石材産業協会の呼びかけに応じて集結。それぞれ、「現状維持は衰退」「何もしないことが最大のリスク」を合言葉に、売上向上を目指して画期的な商品・サービス開発に取り組んでいる。

終活・ストーリー・スクラップ&ビルト

 たとえば佐野氏の「すまいる・くらぶ静岡」および「しずおかシニア生活支援センター」は、地域高齢者の困りごとを解決するため、墓石販売に介護、相続や生前整理・遺品整理の相談まで含めた終活全般のサービスを連結させた事業。
 鳴本氏は商社として取引先の石材店に高付加価値の商品を提供するため、素材・加工・デザインの面で新しい挑戦をしたり、石にまつわる歴史・ストーリーを探索する銘石めぐりのツアーを企画したりしている。
 大塚氏はユニーク商品「石材かるた」、石材関連のECショップ「いくたす」をスタート。若い女性社員を重用し、自由で新鮮な発想、ポップなイメージを大切にした開発を行っている。「一度、壊してみる」「財布を開く人がどう考えるか?」が企画のポイントだという。

この業界で生きていく世代として

 いずれもTシャツスタイルで、明るく軽やかなノリで講演した3氏だが、40〜50代の自分たちが“次世代リーダー”といわれることには違和感があるという。しかし、今後20~30年にわたってこの業界で生きていく世代として業界を盛り上げていきたいと話し、時代に合わせた新しい理念の構築とその実行、継続を強調した。さらに、より若い人たちが前に出てきてほしいと、業界の次々世代を担う20〜30代にエールを送った。

ピックアップセミナー4/「『施設死』『居宅死』急増時代の多職種連携と葬儀社の提案力」

8月30日15時より開催
講師
吉川美津子氏

 アルック代表、葬送ソーシャルワーカー、社会福祉士、介護福祉士である講師が、介護現場における多職種連携の「看取りカンファレンス」の必要性を強調した講演。葬儀・介護・終活事業者が顧客・リピーターを獲得するための介護・福祉との連携の極意と、施設死・居宅死が増える今後、他の事業者が持つべき視点を伝えた。

吉川美津子氏

多職種連携はこれからの課題

 近年、医療施設ではなく、介護保険適用の施設や居宅(自宅のほか、サービス付き高齢者住宅なども含む)で亡くなる人が増えている。これは医療保険・介護保険で介護施設などのターミナル加算が増え、日常生活の延長線上での看取りがすすめられているからだ。
 この傾向は今後も継続するため、介護・福祉事業者と葬祭・供養事業者との連携が期待されている。しかし、死亡診断書1枚で業界が分断されるため、本当に必要なサービスが提供できていないのが現状というのが吉川氏の見解だ。

介護事業者の看取りプランニングをもとに

 そこでまず必要なのは、施設側で「看取りのプランニング」を行うこと。そこから葬祭事業者との連携が生まれ、死亡診断書が出たら葬祭事業者に連絡し、施設内に安置。弔問者にも介護スタッフが対応する。ご遺体のケアにかかわる事業者も、ここから関与する。
 その後できれば、介護スタッフが葬儀や納棺の場に立ち会うこと(葬儀社からご案内を送るなどしてうながす)、さらに葬儀の実施報告書を提供することを推奨する。自分が世話をした人の旅立ちにかかわることは、介護スタッフらの充足感や仕事へのやりがいの増加に繋がるからだ。

生と死の橋渡し的ケアの重要性

 供養関連については、施設内で仏壇へのお供え物・お盆用品などの出張販売が行われた例を挙げた。入居者の中には小さな仏壇を持ち込む人も多く、お供えなどは精神的ケアになる。重要なのは売上ではなく、販売を通して入居者との交流を深めること。そうすれば、自然な流れで、寺・墓などについて将来どうしていくか、入居者と話せるようになる。
 また、介護施設で入居者の共同墓を建立している例もあり、供養事業との連携によって、生と死の橋渡し的なケアができると解説した。日本における介護の歴史はまだ浅い。看取りや死の文化に精通している事業者の協力で、死は禁忌でなく、尊いものというマインドを介護の領域でも育むことが大切だと、今後の多職種連携に期待を寄せた。

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 10月号に掲載されています

掲載記事

終活
2023.10.31