仏事を中心にしたつながりを作り、地域と共に成長する

大正8年に創業した野上神仏具店は、商店街の中にあり、地域で愛される店として営業し続けている。2019年からは循環型の地域イベントにも参画し、その一環として環境に配慮した商品も企画・販売を開始した。その狙いや今後の展望について、2023年に新たに代表取締役社長に就任したばかりの野上哲平氏にお話を聞いた。

代表取締役社長 野上 哲平 氏

時代の変化へ対応するために世代交代

コロナ禍で加速した、業界内外の大きな変化に対応するため、今年、野上哲平氏に代表取締役社長をバトンタッチした株式会社野上神仏具店。時代が変わるこのタイミングを、次世代が先陣を切り開いて進む好機と捉えたという。野上英幸(嗣之)前社長は取締役会長に就任し、哲平氏ら兄弟4人が経営に携わる体制となった。経営、店舗マネジメント、経理、オンラインと兄弟が役割を分担し、多角的な視野で事業に携われること、リスクを排除して成功率を上げられることが強みだという。
「次の時代の会社の成長を考えると、お仏壇とお仏具の販売が主要事業であるのは変わりませんが、それだけでは業界が衰退していってしまう。仏壇屋から新たな顧客層に宗教への理解、関心、役割を啓蒙していくことに積極的に取り組んでいます」。
そう語る野上氏は、代替わりに迷いはなかったという。業界全体が縮小していくことに耐えるだけでなく、変化を促し、動くべきだと考えていた氏。そのためには、地元・小倉北区、さらには北九州市と共に成長して生きることが重要だと考えた。就任前から地域イベントに積極的に参画してきたのも、そうした展望があったためだ。

SDGs・循環型の地域おこしに一役買う

地域との共栄を図る商品として、今年5月には線香『小倉竹の香』を発売した。
北九州市の合馬は筍の産地として有名だが、近年は放棄竹林での竹害も問題になっている。そこで、「竹害を竹財に! 地域を元気に地域を創る。」とのコンセプトのもと、市民ボランティアによる催し『小倉城竹あかり』が令和元(2019)年から始まった。これは、伐採した竹で作った竹灯籠で小倉城をライトアップする町おこしイベントだ。伐採した竹を焼却処分するのではなく、活用して竹林伐採の費用捻出も見据えた循環型のイベントを創設するという発想に基づいており、秋冬期の北九州市のイベントで最大級規模となった。野上氏はこのイベントに役員として参画してきた。
「街づくりに合致した方向でお仏壇店ができることとして、使用後の竹灯籠を粉末にして線香にすることを考えました。竹は様々な理由で非常に扱い難いため実用化は非常に難しかったのですが、メーカーの協力のもと、開発に3年をかけて完成しました。パッケージにも、竹筒や竹紙、残糸から再利用された小倉織紐などの素材を用いています」(野上氏)。
『小倉竹の香』は小倉の名産として、自社店舗だけでなく地元百貨店や土産店等でも発売しており、竹の魅力を知っているアジア系旅行客などの土産品としても好評だ。
「野上神仏具店の取り組みをきっかけに、街全体でつながり合えればいいと考えて、仏具以外の分野でも竹灯籠の再利用が実用化できるよう、地域の様々な職人さんたちに呼びかけています」。
お香が名物として評価されるところから、仏壇仏具や仏事に興味をもってもらうことを狙っているが、期待できる効果は大きい。伝統工芸職人と連携することで行政や大学から声がかかり、共同研究が始まる可能性もある。大学生との共同プロジェクトを行えば、学生たちは10年後も野上神仏具店を覚えてくれているだろう。また産学連携の地元企業として、中学・高校などで講演する機会も得られる。お香に関するワークショップを行なうことで小学生に小さな頃から仏事に触れ合い関心を持ってもらうことができる。こうした時間の積み重ねで、地元での知名度を強化する試みだ。
「『大元は仏具なんです』と説明することが『小倉竹の香』をはじめとした計画の着地点です。そのためのルートをできるだけ多く作れば、いろいろな角度から興味をもってもらえるようになりますよね。
今、『小倉竹の香』を知った人がすぐにお仏壇を買ってくれるわけではありません。またこの町で100年営業しているからと言っても、街の人が皆、野上神仏具店の名を知っているとは限りません。ネットで調べて来店する今の時代、広告を打つだけでは昔ほど枠を広げることにはつながりません。だから「知ってもらうにはどうしたらいいか?」と考えて、発想を転換したんです。今から100年後を見据えてやっていくから意味があります」(野上氏)。

『小倉城竹あかり』で使用した竹灯籠など、線香やパッケージに再利用素材を活用した『小倉竹の香』(税込2,000円)

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文月刊終活 9月号に掲載されています

掲載記事

仏壇
2023.09.07