曹洞宗東長寺 (東京都新宿区)
ライフスタイルや家族観、夫婦観など、人生観が多様化する今の時代に、“自分らしさ”を大切にする新しい形のお墓を提案する東長寺 結の会 納骨堂「龍樹堂」。そこには古き良き伝統から最新鋭の技術まで、時世に必要なものを厳選し、新旧問わず柔軟に取り入れる姿勢が窺える。複雑な今の時代を生きる人々に選ばれる新しい形の供養とはなにか。その魅力と将来性を探る。
「結の会」の成り立ち
東京都内の中心部、新宿区四谷にある曹洞宗萬亀山東長寺は、1594年に創建され、諸藩士の菩提寺として、また学問寺として親しまれていた。火災や大戦の空襲に見舞われながら、住職と多くの檀信徒の力で都度再興され、1989年には開創400年を記念して新たな伽藍を建立している。
東長寺では90年代から継承不在で悩む人々のために、永代供養付き生前個人墓の「縁の会」を発足するなどの活動を行い、さらに2015年に納骨堂龍樹堂を併設した檀信徒会館 文由閣を建立するのと同時に、「縁の会」をより進化させた「結の会」を発足した。
「結の会」の大きな特徴は「個人墓」「両墓制」だ。継承者がいない、子や孫に迷惑をかけたくない、自分のお墓を自由に選びたいなど、様々な理由で、昔ながらの家族墓という形を望まない人に、一代限りの「個人墓」を提供する。そして都心の人口集中と高齢化による墓不足の課題を解決するための両墓制の採用である。
時代のニーズに応える「個人墓」と「両墓制」
東長寺の個人墓では、ひとりひとりが個別に契約し、家族の厨子ではなく自分だけの骨壺にお骨を納め、東長寺の責任のもと、永代にわたり供養してもらうという形をとっている。
「結の会」入会にあたって、それまでの宗旨宗派、国籍は問わない。入会の際に与えられる輪島塗りの位牌は、全8色の中から自分が好きな、自分らしい色を選び自己表現を楽しむことができる。また、位牌と遺骨を祀る位牌段の位置も、家族の隣や大切な友人の側、またはひとりで静かに眠るなど自分が望む場所を選ぶことが可能だ。さらに2023年4月より、ペットの遺骨を同じ骨壺に収めて供養する「ペット共葬」が可能になり、個人の生き方、人それぞれの幸せの形に寄り添った選択肢を増やしている。
また、古来土葬を行っていた日本では、遺体の埋葬墓地(埋め墓)と墓参の墓地(詣り墓)の2つの墓を作る両墓制という風習があった。その古き風習に新たな利点を見出した東長寺は、現代版両墓制を採用している。33回忌までは参り墓として少量の遺骨を龍樹堂に納骨。残りの遺骨を境内にある永代供養墓、あるいは縁のある地方寺院の樹木葬墓苑に埋葬することで、都心の省スペース化と地方墓苑の活性化を計っている。同時にいずれ自然に還りたいという故人の願いと、故人を偲ぶお参りの場が身近にあってほしいという遺族の想いを叶えることもできている。33回忌後は、全ての遺骨が各墓苑の合葬墓に埋葬される。
現在東長寺が共同事業を行っているのは、千葉県と宮城県にある2つの寺院だ。両寺院とも里山保全に取り組んでおり、結の会入会金の一部は山林の整備にあてられている。
《千葉県袖ケ浦市 真光寺 樹林葬》
東長寺前住職の岡本和幸師が無人だったお寺を復興し、檀信徒の協力のもと自力で整地、修復を行った、緑豊かな美しい寺院である。約5千坪という広大な敷地の墓苑を持ち、里山として守り続けている。生命力あふれる樹々や美しい桜の木、可愛らしい野花が広がる大地に個人で、または家族やパートナーなど大切な人、ペットとともに眠り、いずれは自然に還ることができる。
《宮城県気仙沼市 清凉院 樹林葬》
400年以上の歴史をもつ由緒ある寺院。東北大震災の際は、甚大な被害を被った被災者の避難所として、またボランティア団体の活動拠点として様々な活動の支援を行った。現在は震災の恐怖から海に近づけなくなってしまった子ども達に、海での暮らしの楽しさを知ってもらうための活動「はまわらす」に参加し、ワカメの種付けやシーグラス探しなどの様々な体験の支援や、東京の子供たちと気仙沼の子供たちとの交流などに努めている。豊かな自然環境を保全するという目的を持った墓苑運営で、遺骨埋葬後は清凉院が責任を持って供養・管理維持をしてくれる。