先代急死後、妻子で切り盛りする仏壇店が“ご縁と豊富な商品知識”で地域に愛されるワケ

奈良県橿原市にある辻井本店は1894(明治27)年創業。創業128年目の昨年、先代社長が急死し、5代目として妻の紀子氏が事業を引き継いだ。代表取締役社長の紀子氏、次女の佐予氏に、地域の老舗として同社が大切に受け継いできたもの、今後挑戦したいことについて話を聞いた。

娘の辻井佐予氏(写真左)と、母親で現社長の辻井紀子氏

難しい相談でも「わかりません」は言わない

 1894に創業、1977より現在の奈良県橿原市曲川町に店舗を構える、株式会社辻井本店。お客様とのつながりを大切にしたサービスには定評があり、クチコミの評価も高い。
 昨年、先代社長の死去に伴い事業を引き継いだ辻井紀子氏は、「先代から守ってきたものは、お客様の気持ちに寄り添って接し、ひとつひとつの言葉に耳を傾けて、お仏壇に心を添えて販売することです。それを守っていきたいと思っています」と話す。
急な引き継ぎではあったが、廃業という選択肢はなかったという。長年の顧客に先代の死去の連絡と事業引き継ぎの挨拶をしたところ、わざわざ電話をかけて「応援するからね」と励ましの言葉を寄せてくれるお客様も多かった。
「たくさんの心強い言葉をいただきました。
 また私自身が実際に身内の葬儀を体験したことにより、これまでお客様に添えてきた言葉についても、タイミングや言葉選びについてさらに深く考えるようになりました。そして今は、心から寄り添ってお話すればその気持ちは伝わるのでは、と考えております」
 お客様の悲しみに寄り添う商材だけに積極的に営業しにくい面もあるが、縁を大切につながっていきたいという思いがある。
「難しいご相談があった場合でも、わかりません、できませんではなく、きちんとお話をお聞きして、できる限りの提案をして、その結果ご要望に合致しないこともあるというように、結果へ至る過程を大事にしております」
 強みは豊富な商品。近隣寺院の宗派の商品は揃えており、寺院の名前を聞けばすぐに提案できるようになっている。店舗がロードサイドにあることから、最近は檀家寺の宗派の仏壇を求めて遠方から来店する新規顧客も増えてきている。
「何軒まわっても檀家寺の宗派のお仏壇がないというお客様が、他店を見てから戻っていらっしゃったときは、『これが仏縁ですね』とお話ししてお迎えします。お客様に寄り添った結果、次もまた相談したい、ほかの方にも紹介したいという気持ちになっていただけたらいちばんです」

金融業界と供養業界の“共通点”

 昔は、大家族が仏壇のある仏間を住まいの中心に据えた生活が一般的であったが、今は、現代ふうの住まいに合わせての仏壇選びが増えたと辻井氏。しかし、子ども世代の負担軽減を念頭に置きつつも、三世代で故人の好みなどを話しながら仏壇選びをしているお客様の姿もよく見る。
「選ぶお仏壇は変わっても、お仏壇を引き継いでいきたいという考え方やご先祖を思う気持ちは変わらないと感じています」
 そうしたお客様の思いをくみ取りながら、1組あたり1~2時間ほどの時間をかけて、ゆっくり慌てずに話を聞いて、適するものを提案している。そして、納品に同行した際に、「よかったわ、部屋にぴったりやったわ」などと聞くことが何よりもうれしい。
 その思いは、他業界での接客経験を経て入社した次女の佐予氏も同じだ。
「祖父や父が代々人と人とのつながりを大切にする姿を見て育ったので、自分自身もそういう思いをつなげたら、と入社しました。10年ほど地元の金融機関に勤務し営業していた経験も生かしていけたらと考えています」
 業界は違えど、共通点も多い。
「まったく違った業界ではありますが、お客様の大事なものを守っていきたいという思いに対して、困りごとや現状を相談いただいてカタチにするということは、前職でも今でも共通しています。そして、お客様は一人ひとり、お好みも人生の背景も違います。ご相談の際によく耳にするのは、ご親戚やご近所に詳しい方がいないので、細かいことまで聞ける人がいないというお悩みです。お客様に合わせてご提案していくという姿勢は私たちの強みでもありますし、大切に守っていきたいです」(佐予氏)
 加えて、長年の顧客とのつながりがあり紹介もあること、立地のよさから若年層や遠方からの新規来店もあること、そして多彩な顧客層に応じられる豊富な商品群を店舗で見てもらえることを自社の強みとして挙げる。

ロードサイドにあり、車での来店には便利でわかりやすい立地とあって、最近ではネットで調べて遠方から来店するお客様も増えてきている
幅広い宗派の寺院が集まるエリアであるため、豊富な品揃えはお客様にとっては大きな魅力となっている

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 10月号に掲載されています

掲載記事

仏壇
2023.10.03