「中国資本問題」に揺れる首都東京の火葬事業者の歴史とは?/東京博善トップ記者会見ルポ①

       
葬儀 お墓
2026.03.03

 近代以降、首都東京の火葬を担ってきた長い歴史を持ちながら、昨今は、いわゆる〝火葬料値上げ本問題〞〝中国資本問題〞などに揺れる東京博善株式会社。同社トップの野口龍馬社長と、その親会社に当たる株式会社広済堂ホールディングスの常盤誠社長が昨年末、都内の火葬場にて一般メディア向けの記者会見を開いた。同社に対する一部メディアやオンライン空間での一連のネガティブな言説に対し、正確な情報を率先して発信することで、同社ひいては業界全体へのイメージ向上の足がかりとしたいと見られる。両トップはどのような言葉を紡いだのか?1時間以上におよんだ会見の一部始終を全3記事に分けてリポートする。(構成:有馬ゆえ)

記者会見は桐ヶ谷斎場で開催された

東京博善の歴史から見る「東京だけ民営依存」の理由

 2025年12月23日、東京23区内にて6カ所の斎場、火葬場を運営する東京博善株式会社(以下、東京博善)が、同社運営の桐ヶ谷斎場(同品川区)を会場にし、「東京都の火葬場を取り巻く環境について〜A・T・カーニー株式会社による『東京都火葬場 調査レポート』概要説明〜」を掲げた記者会見を開催した。本誌のような業界メディアのみならず広く一般メディアを対象として実施され、集ったメディア企業は実に20社以上。これだけでも世間からの注目度の高さがうかがい知れるが、その根幹にあるのはもちろん、同社周辺で昨今かまびすしい「火葬料値上げ問題」および「中国資本問題」であろう。

 東証プライム上場企業である広済堂ホールディングス(以下、広済堂HD)の100%子会社である東京博善の火葬事業は、広済堂グループ全体の売上約383億円のうちおよそ59億円となっている(ともに2025年3月期)。親会社・広済堂HDの事実上のトップ、代表取締役会長CEOの立場にあるのが、羅怡文氏。中国・上海出身で、1980年代に来日後、横浜国立大学大学院在学時から数々の事業を手がけ、2009年に家電量販店ラオックス(当時)を買収したことで一躍時の人となった中国人実業家だ。

 2018年には同氏が広済堂HDの筆頭株主となり、その後同社会長、そして東京博善の役員にも就任したことから、「首都・東京のインフラたる火葬場事業が“中国資本”に乗っ取られる!」といった不確実なストーリーが一部メディアによって喧伝されるようになったわけだが、以下述べる通り、ことはそう単純ではない。しかしながら、日本国内における中国という国家そのものへの警戒感は広まりつつあり、そうした“わかりやい”ストーリーは巷間に流布しやすい。一方で東京博善内部からも、「今まで我々は情報発信をしなさすぎた。より正確な情報をきちんと発信していくことで、誤解に基づく不要なバッシングを避け、我々の事業を健全な形で発展させていきたい」との声も聞こえてきていた。そうした中で今回の記者会見開催のニュースが飛び込んできたわけであり、まさにそうした意図のもとに企画された記者会見ということなのだろう。

 会見に登場したのは、東京博善代表取締役社長の野口龍馬氏と、広済堂HD代表取締役社長の常盤誠氏の2名。そして、本会見のベースとなる調査資料をまとめ上げた、米国系コンサル会社A・T・カーニーのスタッフたちだ。会見を詳報していく前に、まずはあらためて首都・東京における火葬事業のありようと、東京博善という会社の歴史との切り結びを整理していこう。


資料画像は東京博善提供

23区内の特殊な火葬場事情と東京博善の火葬料金問題

 現代日本においては、全埋葬数のうち実に99%以上を火葬が占めている。それを執り行う火葬場は全国に1400〜1500カ所程度といわれるが、市役所や町役場などが運営する公営がほとんどだ。しかし東京23区内は、全9カ所ある火葬場のうち、公営は都が運営する瑞江葬儀所(江戸川区)と、港、品川、目黒、大田、世田谷の5区の広域組合が運営する臨海斎場(大田区)の2カ所のみ。残りの7カ所を民営が占め、そのうち町屋(荒川区)、桐ヶ谷(品川区)、代々幡(渋谷区)、落合(新宿区)、四ツ木(葛飾区)、堀ノ内(杉並区)の6カ所を東京博善が運営している。現在23区内では年間約9万人以上が死亡しているが、その7割が東京博善の葬儀場で火葬されるともいわれるほどだ。

 東京博善は1887(明治20)年に創業、1921(大正10)年に株式会社化(設立)したという歴史を持つ火葬業者だ。設立時にはすでに江戸時代から続く火葬所4カ所を運営しており、100年以上にわたって東京における火葬を支えてきた。大正時代からは宗教的な精神に基づいて経営を行うため、僧侶を経営層に配置し、その株式は都内の寺院の僧侶などが所有。昭和初期には無煙化、無臭化など環境へ配慮した火葬炉を開発するなど、日本の火葬技術を牽引してきた企業でもある。

 現在、東京23区内で東京博善が事実上火葬のシェアを独占しているという特殊な状況は、この歴史が関係している。もともと土葬の習慣があった日本で火葬が広まったのは、明治政府が公衆衛生の観点から火葬を促進した1897(明治30年)年以降だ。さらに火葬の一般化を進めたのは、1948(昭和23)年に墓地、納骨堂、火葬場の管理や埋葬について定めた「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)の制定だ。これを受けて各自治体では、火葬場が続々と新設されるようになり、1960年代には日本の火葬率は60%を超えている。その中で、東京都は少し事情が異なっていた。戦後、都市部への人口集中が進んだことによる人口密集により火葬場の新設が難しく、土地に根付いていた東京博善の火葬場に依存せざるを得なかったのだ。

 前述した通り、東京博善は僧侶などの宗教家がトップに立つことで、公益性の保たれた経営が続いてきた。しかし1980年代に入ると、潮目が変わる。実業家による東京博善の株式の買い占めが行われるようになり、1984年には現在の広済堂HDのグループ企業として運営されるに至ったのだ。2000年代に入り、親会社である広済堂HDが過剰債務や経営不振に苦しめられるようになると、10年以上にわたって企業や経営陣、投資ファンドによる買収合戦にさらされることに。そして2018年に中国人実業家の羅怡文氏が筆頭株主となり、羅氏は現在、広済堂HDの会長兼CEO、東京博善の役員を兼任しているというわけだ。

 冒頭でも述べた通り、近年、東京博善は火葬料金をめぐる諸問題でメディアやSNSを騒がせている。同社は2021年以降、火葬料金をそれまでの5万9000円から段階的に値上げしており、2024年にはその料金を9万円へと改訂している。また、2022年には、葬祭大手の燦ホールディングスと合弁会社を設立し、葬儀事業にも本格参入。エンディング業界には公益性担保のために「葬儀」と「火葬」は別の業者が担うという暗黙のルールがあったことから、同社の葬儀事業参入に対しては“タブー破り”だとの声もあった。2025年には、2026年3月31日を最後に、東京都23区が提供する低価格の葬儀制度「区民葬」の取り扱いを終了すると発表。代替措置として2026年4月より一般の火葬料金を現在の9万円から8万7000円へ値下げするとしている。近年のこうした矢継ぎ早の方針転換が、別の選択肢に乏しい23区内の火葬事情を顧みない利益重視の姿勢だとする批判や、その利益が“中国資本”に流れているのではとの声が挙がっているのである。

 23区内の火葬料金の高額化は区議会や都議会への議論にも発展。2025年9月、小池東京都知事は、国に対して火葬場の適正な経営管理のために墓埋法の見直しを求めると同時に、東京都における火葬場の実態調査を実施し、火葬場の新設も含めて火葬能力強化を検討するという方針を明らかにしている。



パート2では「火葬料金9万円」の妥当性について詳報
→パート3では「公営化」から「区民葬禁止」まで質疑応答の様子を詳報