コロナ禍において対面でのコミュニケーションが以前よりも難しくなったなかで、空間の設計・施工を手がける株式会社丹青社は、遠隔での新たなサービスを提供するにあたり、鎌倉新書と共同で新たな供養の形を体現した。それが、リアルとバーチャルを融合させたお別れ会だ。サービスを開発した、丹青社CMIセンタープリンシパルプロデューサーの下村康之氏とCMIセンター空間メディアマーケティング統括部の石井志織氏、ハウスボートクラブ代表取締役社長COOの赤羽真聡氏に話を伺った。
※株式会社ハウスボートクラブは鎌倉新書の子会社です。2022年2月1日付けでStory事業をハウスボートクラブへ事業譲渡。
リアルな場でのお別れ会にパソコン、スマートフォン、タブレットを用いて、VR 空間から参加できるサービス。従来の一方通行な配信と違って、参加者もメッセージを届けることができるなどの交流も創出される。国内外から参加が可能。
VR 会場
円形のVR 会場は、入口から出口まで実際のお別れ会の会場のように導線に沿って会場を進んでいく。ライブ中継を閲覧しながら、VR空間にいる人同士が実際に会話できるなど、参加者が感情を共有できる機能も搭載している。
①記帳台
②主催者からの挨拶
③祭壇・献花/メッセージを入れる(画面からメッセージを入力)
④ライブ中継(リアルとバーチャルを繋ぐ/時間差での閲覧可能)
⑤ヒストリー動画/思い出画像のスライドショー
⑥主催者からのメッセージ掲載
空間を通してエンドユーザーにどのような体験を届けるか
開発の経緯を教えてください。
下村:コロナの影響で対面でのコミュニケーションが難しくなり、空間づくりを行う当社は遠隔でコミュニケーションが図れる新たなサービスを展開できないかと考えていました。葬儀でもできることがあるのではないかと思い、赤羽さんに相談しました。そこで、お別れ会の提案をいただき、共同で開発することになりました。
赤羽:コロナ禍で以前よりも葬儀がコンパクトになり、人がたくさん集まることが難しくなりました。その問題に対して、私たちにもなにかできないかと考えて、新しいサービスの開発に至りました。これまで、たくさんのライブ配信サービスを見てきましたが、どうしても主催者側が配信するだけといった一方通行に感じておりました。当社の『Story』においても、一方通行なライブ配信ではなく、体験できる新しい供養の場が必要だと考え、丹青社様と意見が合致しました。
開発の際に最も気をつけたことを教えてください。
下村:空間を通じた体験をお届けするにあたり、一番大切にしたことは『参加される方が現実と同じように心を落ち着ける空間であること』です。VRの場であっても、故人を思い出し、故人を送り出すことができるのがお別れ会での体験となります。しかし、あまりにも現実からかけ離れた世界観では参加者は違和感を覚えてしまいます。そのため、デザインは派手すぎず、動作は極力簡単にして、スムーズな導線にこだわりました。円形の空間を用いることで、VR空間を一つの流れとして体験いただけるようになっています。
VR空間だからこそ可能になった点はありますか?
下村:時差がある場所や遠方の方が参加できるようになるのは大きな利点ではないでしょうか。従来のお別れ会は、物理的に参加することが難しい方や、仕事の都合などでどうしてもその場に行けない方もいたと思います。ですが、VR空間を用いることで遠方にお住まいの方だけでなく、特定の時間以外での参加も可能になります。VR空間は現実と非現実の中間に位置する新たなサービスになると思っています。リアルな場も大切にし続けたいですが、VR空間はリアルな場とはまた別の価値があると思います。
現実とは異なる体験価値が生まれるVR空間であれば、新しいスタイルのお別れ会として普及が進むのではないでしょうか。このサービスを通して、葬儀社様の新たな利益創出に繋がることも考えられます。
実証実験の様子
事例1 お別れ会
【参加者の感想】
コロナ禍で会場に行くことが難しかったので、VRで参加できて嬉しかった。/デザインが良かった。/ゆっくり偲ぶことができた。/時差があるので自分の都合が良い時間にお別れができてよかった。/他
【結果】
ドイツや香港など、時差のある場所でもリアルタイムに参加される方もいた。参加者100名中、約80名はリアルタイムで参加。約20〜30名は時間差での参加。一ヶ月間閲覧できるため、再来者も多数みられた。
【課題】
海外需要を踏まえて、翻訳機能なども検討したい。
事例2 社葬
【参加者の感想】(開発・参加者として)
石井:対象の方は関東や九州で活躍された当社の社員でした。私は開発側として社内に写真提供を呼びかけ、思い出話を聞くなどして準備を進めました。VR社葬を通して多くの人が彼の活躍を知ることができて、同じ会社で働く社員として誇らしい気持ちになりましたし、このような場を設けた会社への信頼度もあがりました。葬儀後にも故人を思い出して社員と話をすることが増えて、人と人との繋がりを感じられました。
下村:私自身は彼との接点はなかったのですが、VR社葬に参加して、思い出やメッセージを拝見し、昔からの知り合いの如く、思いが込み上げてきてしまって。最後には涙するほどで、体験性の高さを実感できました。参加の障壁が低いので、故人との思い出を振り返る方も増え、さらに良いものにできると感じました。私もぜひ活用したいと思いました。
【結果】
故人へのメッセージを記入する際に、リアルな場と違ってpcの前でじっくり考えて書くことができるなど、参加者・主催者ともに満足度が高かった。
今後の展望
下村:今後、葬儀や法事だけなく、結婚式や会社のイベントなど多種多様な拡がりが期待できるサービスだと考えています。私たちは人に寄り添う空間づくりを目指しているので、メタバース(※インターネット上に構築される多人数参加型の3次元仮想世界)でありながら、その空間でしかできない体験を創出して「こころを動かす」場をつくっていきたいと思っています。「リアル×バーチャルのお別れ会」についても、当社の空間づくりの知見を活かして、体験の価値をさらに高めていけたらと思います。
赤羽:参加への障壁が低くなることで、声をかけやすくなる、参加しやすくなるといった点は画期的だと思います。著名人の場合はファンの方が参加できたらいいですし、一般の方が活用しやすくなることでお別れ会、偲ぶ会や生前葬のマーケットは拡大していくと考えています。個人の方の場合や社葬の場合も、失敗したくないからという理由で定型的なやり方で行うことがほとんどですが、本当にそれでいいのかと疑問を感じていました。故人はどんな仲間と、どう生きてきたのか。それを体現できないとお別れ会は成立しないと思っています。それぞれに合わせた「ありがとう」を言えるような場を提供していきたいです。
月刊仏事 3月号に掲載されています
センターと社内のリソースを連携し、アライアンス先および顧客の先行開発業務に携わる。2022年より現職。
営業職を経て、2021 年よりCMI センターに配属。
デジタル技術を基盤とした新商品等のプランニングを手がける。
楽天株式会社に入社。 楽天では、日本最大の就職活動SNS「みん就(みんなの就職活動日記)」の営業責任者を歴任。その後、プロスポーツ事業 楽天野球団では、球団公式アプリ「At Eagles」、FM ラジオ局「Rakuten.FM TOHOKU」の立上げを実施。
2018年、株式会社鎌倉新書に入社。新規事業及びアライアンス業務に従事し、2019年7月、株式会社ハウスボートクラブに社長室室長として出向。2022年2月より現職。