第二回:生きている間にお葬式!?「生前葬」に参加しました。

終活アンバサダー 村田ますみと考える「後悔しないの人生の仕舞い方」 第二回

「生前葬」をご存じですか?最近、流行の兆しがありそうです。
私の知人で、今年、生前葬を開催される方がなんと3人もいらっしゃいます。
ゴールデンウィークの初日、その一人目となる方が60歳という節目に生前葬を執り行うということで、大阪まで参列(?)に行って参りました。

そもそも生前葬とは?

生前葬は、アメリカでも最近、“Living Funeral”という名称で注目されつつありますが、「生きている間にお葬式をおこなう」という文化は、1990年代の日本ではじまったとされています。その根拠は諸説ありますが、生前葬が日本で話題になったのは、2017年に元コマツの社長、安崎暁さんが開催した「感謝を伝える会」ではないでしょうか?末期がんで余命宣告をされた安崎さんは、元気なうちに感謝の気持ちを伝えたいと「生前葬」を開き、会社や母校の関係者1,000人が集まり、終活のあり方に一石を投じたと大きく報道されました。
このように、生前葬は、余命宣告を受けた人がおこなうケースもあれば、今回のケースのように、50歳、60歳、70歳といった節目の年齢を迎える時期におこなう方もいらっしゃいます。

生前葬前日の夜に、突撃インタビュー

今回、大阪のホテルで生前葬を開催されたのは、谷口佳津子さん。葬儀の司会者としてのキャリアから、『おもいを遺す生き方ナビゲーター』として多方面で活躍されています。
そもそも、なぜ生前葬を開催しようと思われたのか?
大阪入りした前日の夜に、無理を言って時間を作っていただきお話を伺いました。

突撃インタビュー

村田:生前葬のプレスリリースを出されていましたね!驚きました。

谷口:プロジェクトチームの中にそういうのが得意な方がいて、出していただきました。

村田:チームの方は何人いらっしゃるのですか?

谷口:8人で、約半年前から、毎週ミーティングを続けてきました。

村田:協力者がそれだけいらっしゃるのが凄いですね。そもそもなぜ生前葬を開催しようと思ったのですか?

谷口:葬儀の司会の仕事をしている時に、「生きている時に●●しておけば良かった」という声を何度か聞いて、生きている間にきちんと感謝を伝える場が必要なのではないか?という想いから、生前葬が当たり前の世の中にしたいと思いました。もう、5~6年も前のことです。

村田:それで、『おもいを残す生き方ナビゲーター』として活動をはじめたのですね。

谷口:生前葬のお手伝いをしたいと言うならば、まずは自分がやってみなければ、と背中を押してくれる友人の声で、60歳の誕生日に開催しようと決めました。

村田:しかし2022年の60歳のお誕生日はコロナで断念。1年延期となった事で準備期間が増えて内容もブラッシュアップされたのではないですか?

谷口:いろいろ考えましたが、私が明日の生前葬でテーマとしていることは2つです。1つは、私を介して人と人をつなげたいということ。生前葬というと、その人の人生を振り返るイメージがあるかもしれませんが、私はそれよりも、自分の周りにいる多才な人を皆さんに紹介して、今のありがとうを伝えたいのです。もう1つは、納棺式を皆さんに見て欲しいということ。葬儀に関わる仕事をしているからこそ、葬儀における大切な儀式をもっと知って欲しいと思います。お葬式って何でやるの?ということを皆さんに考えて欲しい。布団に寝ている人が棺に入ることでどのような変化がおこるか、そこをリアルにお見せしたいと思います。

村田:なるほど。だから納棺式からスタートなのですね。明日が楽しみです!

そして迎えた当日。まずは納棺式から。

東京から大阪まで棺を運んできた納棺師の大森あきこさんと一緒に、会場のホテルセイリュウに入ると、お手伝いの皆さんがすでに会場設営をされていました。
今回の生前葬の祭壇は、笑い文字とスーパーフラワーと呼ばれるアートフラワーで飾り付けされていました。谷口さんは笑い文字普及協会のトレーナーでもあり、「書いて半分渡して完成」というコンセプトの笑い文字は、おもいを遺す生き方ともリンクしていると言います。

祭壇

リハーサルを終えて、12時40分から受付開始。参列者は約90人。受付では、お幸伝と呼ばれる参加費と供花代をお預かりし、記念品のタオルと挨拶状をお渡します。供花の芳名版もすべて笑い文字で表現されていました。

受付

13時より「かっちゃんの生前葬」開式。
舞台には布団に横たわる谷口さん。司会者のアナウンスで、今から40年後の未来、100歳で他界されたご本人の入棺式がはじまるという説明があります。
大森さんが丁寧に谷口さんに仏衣を着せて、参列者が足袋や脚絆などの旅支度を手伝い、死に装束が整ったところで、納棺。棺桶に入ると、谷口さんが前日説明されたように、人からモノに変化したように感じます。一人ずつ思いを綴ったメッセージを棺に納め、蓋を閉めると、いよいよあの世への旅立ちのようです。

左:納棺式/右:お別れメッセージ

121歳という設定の友人代表が弔辞を読み、お別れムードが頂点に高まったところで、棺の蓋が開けられて、「私は死んでへんで~」とご本人登場!!
ここからは、まさに大阪の新喜劇のようなノリでテンポのよい展開へと進んでいきます。

かっちゃんお帰りなさい!

即興劇、歌あり踊りありのエンターテイメントショー

「かっちゃんの生前葬」は、40年後の未来からスタートし、徐々に現在、過去へと時間軸を逆回転させていく演出となっていました。
棺から出てきたご本人を「おかえり~」とまず出迎えたのは、即興劇のプレイバックシアターtomorrowの皆さん。代表の中家八千代さんが、未来にいる谷口さんや客席に即興でインタビューをして、そのコメントをアクターの皆さんがその場で表現する演出に引き込まれます。

左:中家八千代さんと/右:プレイバックシアター


第二部は、時間軸が現在に戻り、ピアノ演奏や歌、社交ダンスなど谷口さんとご縁のある多才な方々のショーが繰り広げられました。谷口さんが、一押しの人たちを厳選してご依頼されたというだけあり、それぞれの舞台のクオリティが高く、エンターテイメントとしても、非常に楽しめる内容でした。

左:ピアノ演奏/中央:看取り士の歌/右:社交ダンス


そして、ご本人が自ら編集したというヒストリームービーの上映。通常は、子供時代から徐々に成長し大人になるという流れでアルバムを流しますが、時間軸を逆回転し、現在から徐々に若返り、最後は赤ちゃんになって映像が終了、という構成も非常に面白かったです。
映像の後で、ご本人が挨拶をしたところで、ご主人がサプライズで登場し、「愛は勝つ」を熱唱され、会場は笑いと感動に包まれましたが、時間ぴったりに終演となりました。

左:ご主人熱唱/右:最後の挨拶

生前葬を終えて・・・

ゴールデンウィークを経て、少し落ち着いたところで、谷口さんに生前葬の振り返りのインタビューを再びおこないました。

村田:先日は本当にお疲れ様でした。生前葬を終えられて、いかがでしたか?

谷口:村田さんは、どう思われましたか?

村田:最初は、大人の文化祭のようなものかな?と思っていましたが、想像以上でした。細部に至るまでよく考えられていて、エンターテイメントとしても非常に面白かったです。

谷口:もう、その感想をいただけただけで大満足。満足度200%です!

村田:プロジェクトチームの皆さまの協力体制が凄かったですね。

谷口:ある人が、チームワークではなくパッチワークだと言っていました。それぞれの得意分野をうまくつなげて出来た感じです。

村田:反省点のようなものはありましたか?

谷口:告知の時に、もう少し丁寧に趣旨と内容を伝えるべきでした。「生前葬」という言葉だけでは、どのような趣旨の会か分からず、死に向き合っている人に対しては配慮が足りていなかったかもしれません。友人の中には、余命宣告でも受けたのかと心配して「大丈夫?」と聞いてくる人もいました。

村田:確かに、まだ「生前葬」がどういうものかというのが世の中に広まっていないですよね。これからは、ご自身の体験を元に、生前葬を広めていかれるのでしょうか?

谷口:そうですね。参列者へのアンケートで、生前葬を「やってみたい」という人が50%、「やれたらいいな」という人が25%でした。私としては、その25%の方ができるようにサポートしていきたいと思っています。

村田:ビジネス目線で見ると、収支が気になりましたが、持ち出しがけっこうあったのではないですか?

谷口:参加費を「お幸伝」という形でいただいていて、実際に参加されなくても「お幸伝」のみお送りいただいた方も多く、収支はほぼトントンでしたよ。

村田:さすがです!谷口さんは、また生前葬を開催したいと思いますか?

谷口:はい、勿論です!70歳になったとき、または余命宣告を受けたときに、今回と同じプロジェクトチームでやってみたいですね。

村田:なるほど。「生前葬はクセになる」と仰っている人がいましたが、一度やったらまたやりたくなるものなのですね。今回は貴重な機会を有難うございました!

実は私は、アンケートには、自分が生前葬をやるなら、余命宣告を受けたとき、あるいは今の環境をリセットしたいとき、と書きました。「葬」という言葉を使う以上、そこにお別れの要素が必要ではないかと。でも、納棺という儀式をいれること、また、感謝を伝える場であること、など人によって生前葬の定義は色々あって良いのかもしれません。
「生前葬とは何か?」というテーマについて、これからも取材を通じて考えてみたいと思います。

コラム
2023.05.16