終活アンバサダー 村田ますみと考える「後悔しないの人生の仕舞い方」第7回
「ゴスロリ棺桶」「クローゼット型棺桶」など、既成概念にとらわれないオーダーメイド棺をデザインし、ラフォーレ原宿や横浜ビブレなど若者の集まるファッションビルにポップアップストアを出店する葬送クリエイター、みけらさん(本名:布施美佳子)は、2023年8月27日に自身の50歳の誕生日を記念し、ホテル東京イースト21(東京都江東区)で盛大な生前葬を開催しました。ピンク色に着飾った100人を超える招待客一人ひとりが弔辞を読むなど、4時間を超える笑いあり涙ありの会でした。
みけらとは何者? GRAVE TOKYOとは? なぜ生前葬をするの?
「みけら」こと布施美佳子さんは、1973年秋田県生まれ、文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、高校生の時から憧れだったアパレルメーカーへの勤務を経て、玩具メーカーにて商品企画開発に従事し、キャラクターとアパレルブランドの融合や、女性用ブリーフなどの新規事業を担当されていました。
2015年には、骨壺ブランドとしてGRAVE TOKYOをローンチ。紆余曲折を経て2022年にブランド再始動。棺桶を中心に、かわいい葬儀具を作っています。
GRAVE TOKYOの立ち上げなどについて「いい葬儀」にて紹介されたインタビュー記事は以下
2022年には、東京都江東区に内装をみずから手がけたアトリエを構え、現在はオリジナルデザインの棺桶の制作に注力しています。今年に入り、ラフォーレ原宿や横浜ビブレなどのファッションビルにポップアップストアを出店し、またアトリエで行われる入棺体験ワークショップは、多くのメディアに取り上げられています。
そんなみけらさんが、今年8月27日に自身の満50歳の誕生日を迎えるにあたり、かねてより企画していた「生前葬」を執り行うことになりました。
このコラムでも、これまで複数の生前葬を取り上げてきましたが、この度、みけらさんが開催する生前葬のコンセプトは、「人生の披露宴」。なぜ生前葬を開催するのか、なぜ葬儀のブランドを立ち上げたのか、その想いを本人に聞きました。(以下、文字が斜体の箇所はみけらさんの言葉)
「私は幼いころから希死念慮を持っていたことや、若くして亡くなる友人知人が多数いたことから、自分の死生観、生きる・死ぬとはどういうことかをずっと考えていました。
若い人のお葬式では、喪主を務める親御さんの悲しみが強すぎて、本人らしいお葬式で見送ることが難しいパターンをよく見ました。
もし私が今亡くなるとしたら、自分らしい、かわいい棺や骨壷に収まりたい。それがGRAVE TOKYOを立ち上げようと思ったきっかけです。
希死念慮を抱いていた若い頃、私は27歳で人生を終えようと思っていました。
しかしそれが叶わなかったため、理想の寿命を50歳とし、その年になったら生前葬を開催して、自分の人生に一度区切りをつけたいと随分前から考えていました。
人生100年時代になり、多くの人にとって、人生のゴールが見えなくなっていると私は思います。本当のゴールが来る前に、自分で仮のゴールを設定することは、これからの人生をより楽しく生きていくために必要ではないかと思うのです」
開宴2時間前からの葬送体験コーナー、そしてオープニング
「ドレスコードはピンクです」と事前に案内された生前葬のプログラムは、正午から夕方6時までと、6時間の長丁場。
アパレル業界時代の友人や、グルメやお酒の仲間など個性的な招待客は総勢120名。目がチカチカするぐらい、どこを向いてもピンク色のファッションに身を包む人々は、宴席が始まる2時間前から会場に到着し、GRAVE TOKYOのオリジナル棺に入ったり、遺影撮影コーナーで写真を撮影したり、死化粧コーナーなどで葬送の雰囲気を体験しながら開宴を待ちます。
いよいよ開宴。主催者挨拶の後、MCの方が、「みけらさんのお嬢さんが書いた」という設定の「弔辞」を読み上げます。「ママへ。」で始まる弔辞は、まだ生きているけれど亡くなる予定の母に向けて書かれた、感謝のメッセージ。
朗読前に、「どういうテンションで読めばよいのかわかりませんが……」との前置きがありましたが、今回の生前葬は、この「弔辞」がひとつのキーになっていました。
テーブルに置かれた席札には、本人からのメッセージが印刷されており、内側に、みけらさんへの「弔辞」を書くように以下のような指示があります。
「人は人生で必ず3回褒められるといいます。
ひとつめ、生まれてきたとき。ふたつめ、結婚したとき。みっつめ、死んだ時。
ご存じのとおり、ひとつめとみっつめは意識がなく、ふたつめも確実ではありません。
人生でめちゃくちゃ褒めてもらえる機会、それが生前葬だと思っております。
はい、そうです。私のことをめちゃくちゃ褒めてください!!!
素晴らしきお別れの言葉、お待ちしております!!!」
実はみけらさんは1年前、「生前葬リハーサル」と称して、20人の友人をアトリエに招いて“プチ生前葬”を行いました。
生前葬は「主催者がお世話になった人へ感謝を伝える場」だと彼女は考えていましたが、その日、そうした考えを価値観を覆すような出来事を体験しました。
プロの納棺師による納棺式のプロセスで、参列者から口々に耳元で語られるお別れの言葉が、どれもこれも温かく、本人を大切に思っている珠玉の言葉だったのです。
「これは死んだ後に聴いたらもったいない! 自己肯定感爆上がりだ!!」
みけらさんが自身のアトリエで月に2回開催している入棺体験ワークショップでも、参加者の多くが、「自己肯定感が上がった」との感想を抱きます。ワークでは、自分を見つめる時間の後で、棺に入る際、できるだけ本人の外面や内面、そして生き様を褒め称えるようにしています。
「日本人の自己肯定感の低さが生きにくさ、生きづらさに繋がっているとの指摘があります。
生まれたときは手放しで褒められていたのに、学校、会社、そして家庭の中で、褒められる機会は減っているのではないでしょうか」
人生において究極の自己肯定の機会。
自分のこれまでの人生を肯定し、生きていてよかったと心から思える機会、それが生前葬なのではないか?
そう考えたみけらさんは、生前葬を「人生の披露宴」と名づけ、みずからを褒めてもらう弔辞を集めることにしたのです。
最期の晩餐は炭水化物まつり!腹パンからの入棺タイム
ライフヒストリー映像が上映された後、待ちに待った乾杯で、お食事が始まります。
ホテルの宴会場なのでコース料理が出てくるかと思えば、最初に運ばれてきたのは、なんとお寿司でした。
メニューカードの献立表には、「人生の最期に食べたいものランキング」と書かれています。
入棺体験ワークショップではいつも、ワークの終わりに、「人生の最期に食べたいもの」を聞いているそうです。今回の生前葬でも、多くの人が最後の晩餐に食べたいと思っているものをランキング順に提供することをホテル側にお願いしたそうです。
人生の最期に食べたいものランキング
1位 お寿司
2位 和牛ステーキ
3位 ラーメン
4位 カレーライス
5位 白ごはん
こうして並べてみると“炭水化物まつり”ですが、本当にこの順番通りにお食事が提供され、カレーライスが終わって白ごはんが豚汁と一緒に提供された頃には、みなさん、お腹がはち切れそうになっていました。
さて、お腹がいっぱいになったところで会場が暗くなり、正面で納棺式が始まります。
プロの納棺師のお2人が、舞台上で花柄のエンディングドレスへの着せ替えをします。
着替えが済むと、数人の男性にお手伝いをいただき、主役であるみけらさんは、この日のために制作された新作棺桶の中に納棺されました。
2時間半かけて全員が弔辞を朗読!そして本人がこの世に帰還
無事主催者本人が棺桶に入り、食事もあらかた終わったところでも、残り時間はまだ2時間以上あります。
そこでMCから、アナウンスが入ります。
「これから、みなさんに書いていただいたカードをひとりずつ読み上げていただきます」
「えぇぇ?? 全員??」
「100人以上いるよ??」
会場がどよめきます。
実は、この「棺に入った本人に弔辞を読む」というパートこそが、今回の生前葬のメインだといってよいかもしれません。
そこから2時間半、一人ずつマイクを持ち、舞台上で棺に向かってメッセージを伝えます。
涙あり、笑いあり。それぞれが、みけらさんとの想い出や感謝の気持ちを読み上げます。
仕事の仲間、ママ友、食べ歩き仲間、昔の同級生などそれぞれが本人の一面を語り、今まで伝えられなかった気持ちを表現する時間は、確かに「死んでから聞くのはもったいない!」と思えるようなものでした。
全員のメッセージを、長時間棺の中で聞いていたみけらさん。いよいよ生還の時が来ます。
笑顔と涙に囲まれて、“この世に復活”したご本人。会場全体が幸せな空気に包まれました。
本当に、前代未聞の会でした。会場の熱気と言葉の力を、以下のダイジェスト映像でぜひご覧ください。
生前葬を終えてみて……
生前葬から1カ月以上が経ち、ラフォーレ原宿で2回目のポップアップストアを出店しているみけらさんを訪ねました。
「今もまだあの人生最大の多幸感が続いています。
50年間色々縛られて、ずるずる引きずっていたものが消えてスッキリしているのは気のせいじゃない。
生前葬の後、参列してくれた方々から、『人に会うたび、まわりに話している!』と言われました。
120人の参加者が10人に伝えてくれるだけで、1200人に伝わる!」
「今、まわりのみなさんから見えているのは
『みけら何やってんの?』
『棺桶屋さんじゃないの?』
『あちこち手を出して大丈夫?』
みたいなことかもしれませんが、点と点が繋がって、線になって、面になる過程を何より自分自身が実感しています。
かわいい葬儀のためにかわいい棺桶があって、かわいい棺桶のために入棺体験があって、入棺体験のためにファッションビルでのポップアップショップがあって、そして未来のために生前葬とのコラボレーションがある」
彼女は今、2025年を目標に、GRAVE TOKYOのブランドを世界をも見すえて広めていく構想を胸に抱いているそうです。
最後に、生前葬への想いを改めて伝えていただきました。
「GRAVETOKYO的生前葬の解釈は、
「人生の披露宴」そして「人生で一番褒められる日」です。
人生で一番褒めてもらう日を自分で作ろう。
それが「人生の披露宴という名の生前葬」です。
人生で一番褒めてもらうためには、「感情のふたを開く【儀式】」が必要だと思っています。模擬納棺式という人生で初めて体験する【儀式】を経て、参加者も主催者も今まで体験したことのない、人生で初めての感情が溢れてきます。
参加者の数は関係ありません。5人でも10人でも、そこには喜びと笑いと感動と涙でいっぱいの場があるはずです。(実際、生前葬リハーサルと称した昨年の会の参加者はごく少人数でしたが、それがあまりに素晴らしかったので今年の開催を決めたのでした)
自分は何歳まで生きるのだろう
自分は何歳まで健康なのだろう
自分は何歳まで健康で生きたいのだろう
自分はそれまでに何がしたいのだろう
自分がもし生前葬を行うとしたら誰に来てもらいたいのだろう
自分は誰に褒めてもらいたいのだろう
生前葬が、そういうことを考えてみるきっかけになるとうれしいです」
「かわいい」をキーワードに葬送をアートやファッションの文脈から世に広めようとしているGRAVE TOKYOの活動から、目が離せません。
これまで多くの生前葬を取材してきて、自分自身の生前葬を開催することはイメージできませんでしたが、今回のみけらさんへの取材をへて、55歳(母が他界した年齢)に自分がなったら、ひとつの区切りとして生前葬を開催してみようと思えるようになりました。
終活の具体的な行動として、こうした“区切りの会”を開くというのは、とても理にかなっていると私は思います。