株式会社天光社(福岡県福岡市)
福岡エリアや関西エリアを中心に、49ヵ所の葬祭ホールを展開する株式会社天光社(福岡市)は、コロナ禍の2020年、21年の2年間は、4店の新規出店にも関わらず、施行件数は約8%増加した。
単価については、会葬者数は大幅に減少したものの、8%のダウンにとどまった。その結果、売上高は、多くの葬儀社が減少を余儀なくされた中、コロナ禍前と横ばいの37億円をキープしている。
同社はまた、新たな取り組みとして、昨年7月より「お坊さんの有無を選べる自由な家族葬」をコンセプトとした新業態店の展開を開始。さらに、異業種をメインとしたFC展開の準備も進めている。コロナ禍でも比較的堅調な業績を上げている要因や、2つの新たな取り組みについて、江村哲也代表取締役社長に詳しくお聞きした。
まず、コロナ禍になってからの葬儀事業の売上高の推移と、施行件数、単価の内訳を教えてください。
江村コロナ禍前の1年間の数値に対して、コロナ禍になって2年後の比較でお話しします。売上高は、コロナ禍前の1年間は約37億円であったのに対し、コロナ禍2年後も約37億円で横ばいでした。内訳では、施行件数は、コロナ禍前の1年間は約3,700件であったのに対し、コロナ禍2年後は約4,000件と約8%の増加でした。
一方単価は、コロナ禍前の1年間は約101万円であったのに対し、コロナ禍2年後は約93万円と8%の減少でした。
それらの数値を社長ご自身は、どう評価されていらっしゃいますか。
江村:比較的頑張っているのではないかと思います。と言うのは、件数は2年間で約8%と1桁の増加ですが、コロナ禍で出店を控えたため、2年間で4店の出店となっております。ですから、既存店で件数が増えているのです。
また、競合他社がどんどん出てきて、当社が力を入れてきた家族葬ホールは差別化要因ではなくなってきた中で、8%増というのは、ほめられてよいのではないかと思います。
単価は、2年間で8%の減少ですが、会葬者数はコロナ禍前と比べ福岡などの地方では3~4割、関西でも2割減少していることなどを考えると、こちらも比較的頑張っているのではないでしょうか。
単価は、コロナ禍後2年間で2~3割ダウンしている葬儀社が多いなか、おっしゃる通りだと思います。
施行件数が8%増えた要因
オリジナル会葬礼状や「献杯の儀」で施行レベルをアップ
では、施行件数と単価それぞれについてお聞きします。まず、施行件数は2年間で約8%増えた要因についてお聞かせください。
江村:当社はリアル店舗を生かして地域のお客様との接点を大事にする「地縁活動」に力を入れてきましたが、コロナ禍になって、フェイス・トゥー・フエイスの地縁活動はあまり出来なくなりましたので、それ以外のことを地道に取り組みました。
例えば、施行レベルを上げようということで、マコセエージェンシーさんと提携して、オリジナル会葬礼状や「ラストレターサービス」などを1年半前から始めました。これを導入しているほかの葬儀社さんでは、オプションとして有料で行っていますが、当社は、ほとんどのプランで標準サービスにして無料で提供しています。
その結果、施行レベルはかなり上がりました。
施行レベルがかなり上がったというのは、どういうことでしょうか。
江村:ご喪家に故人様のことをヒアリングし、ご遺族様のお気持ちをきちんと汲んで会葬礼状にしたり、映像にして式典の中で流すのですが、マコセさんのお名前は出さずに、当社が行っている形で進めます。それを、無料で行いますので、お客様には当社の施行レベルが高いと受け止めていただけます。
また、QRコードでショートムービーを拡散出来るようになりましたので、例えば、コロナの影響で葬儀に参列できなかった方々にも、天光社はこんな風にお送りしてくれるのだということを訴求できるという効果もあります。
施行件数が増えたそのほかの要因をお聞かせください。
江村:納棺後や通夜前に、ご親族様に集まっていただき、「献杯の儀」を行うようにしました。これは、ご親族様お一人お一人が故人様と杯をかわし、お別れの言葉を述べるという儀式です。3年位前から始めたことですが、コロナ禍となり会葬者が減って時間が取りやすくなったということもあって、力を入れて行っています。
効果はいかがですか。
江村:親族様には、すごく喜んでいただけています。故人様にお別れの言葉を述べていると、感極まって涙を流される方も多く、それを見ている親族様ももらい泣きして、とても感動的なお別れになります。焼香だけでは、なかなかそうはいきません。
病院や施設に遺族の感謝の気持ちをフィードバック
施行件数が増えた要因はほかにもありますか。
江村:近年は病院や施設で亡くなる方が増えてきましたので、「メッセージフラワー」や「ナースレター」という取り組みを行っています。
「メッセージフラワー」というのは、施設のスタッフは、入所者の葬儀には仕事の関係で参列できないことが多いのですが、亡くなられた方は、何年も施設で一緒に暮らされてきた方です。
そこで、お棺に入れるメッセージカードに想い出などを書いていただくのですが、式典では、当社がお花を出し、そのお花に施設のスタッフに書いていただいたメッセージを添えることから、この名前をつけました。
このメッセージフラワーは、「このように飾らせていただき、お棺にも入れさせていただきました」ということを写真に撮って、後日、施設の方にお届けします。
「ナースレター」とは、どのようなものでしょうか。
江村:葬儀の後に、当社の担当者から病院のナースステーションに宛てたお手紙です。例えば、「故人様やご家族様は、看護師さんからこんな風に良くしていただき、満足されていらっしゃいましたよ」などということをフィードバックしています。「メッセージフラワー」や「ナースレター」は、施設やナースステーションの皆さんと、ご遺族の両方から、とても喜んでいただいています。
この2つを行っている、そもそもの意図は何でしょうか。
江村:当社は、お客様の終焉に関して最期のバトンを受け取った者の役割として、お客様に満足していただけように努めたいと思っております。それがお客様の心に残り、周りの方にも当社をご紹介いただけるという効果もあります。
Web受注が5割を超える
そのほかにも、施行件数が増えた要因はありますか。
江村:当社はもともと、Webには力を入れております。昔はそのような葬儀社はあまりなかったのですが、最近は、どこも力を入れるようになってきました。
その結果、リスティング広告費が高騰しています。一般キーワードと呼ばれる、例えば「大阪、葬儀」などは、ワンクリック4,000円~5,000円となっています。
そんな金額では、とてもじゃないないけれどやっていられませんし、私たちが、そういうところでポータルサイトと戦っても仕方がありません。
当社としては、リアル店舗を持っている強みを生かすために、「千の風」あるいは「千の風のどこどこ式場」ということを認識しているお客様は、取りこぼしがないようにすることに力点を置いて、Web運営を行っています。
具体的には、どのようにされているということでしょうか。
江村:指名キーワードにはきちんと予算を割いて、インプレッション率(表示率)が上がるようにしています。Webから流入してきたお客様は、スプレッドシートに基づいて資料をお送りし、その後のフォローをしっかり行うということも、もちろんやっています。
その結果、Webからの受注率はどのように変化していますか。
江村:コロナ禍前は4割ちょっとでしたが、1割程増えました。