「最期にもう一度、あの顔に会いたい」故人を“よみがえらせる”納棺師の心と技術

「そこにまだ身体が遺されているのなら、再会をあきらめない。それがどんなに生前とはかけ離れた姿であっても」。納棺師の技術が、遺族の記憶の中の故人の表情をよみがえらせ、最期のお別れの場面を用意される。「リアルすぎるプロモーションビデオ」や、「遺体なのにポップなキャラクター」で話題を呼んだ、有限会社統美の活動とその思想に迫る。

故人の時間を“少しだけ巻き戻す”

 有限会社統美が製作したプロモーションビデオを見せてもらった。

「心残しのないお別れ。会えるお別れ」「からだがあるうちにできることを大事に」「ご遺体があるならあきらめない。それがどんなに生前とはかけ離れた姿であっても」

 ナレーションで紡がれるそんな言葉の数々には、「納棺師」の会社である統美の理念と実践とがあますことなく盛り込まれている。それは映像にも反映されており、遺体はモデルを使って撮影、遺体の損傷も特殊メイクでリアルに表現し、納棺施行のあらましを、丁寧に、ある意味生々しく見せる。一見「本物か?」と見紛うほどのクオリティの高さだ。

 同社では、事故や事件、自死、孤独死など、思いもよらない状態で亡くなられた故人様には特殊修復処置を行い、できるだけ生前の姿に近づけることをなりわいとしている。交通事故などで損傷が激しかったり欠損があったりする遺体には特殊ワックスなどを用い、特殊修復作業のなかでもきわめて高度な形成処置を行う。

 病気で亡くなった遺体も、長期療養や長い闘病生活を経ている場合には、遺族が記憶している生前の姿とは大きく異なっていることも多い。そこで、元気な時の写真と見比べながら、その人らしい自然な表情・姿に近づける。ガスや腹水、胸水などが体内に溜まっていれば、それらを抜き取る処置をする。さらに遺体修復師が防腐処置を行うことで、遺体は安定した状態で保たれる。

 遺体保全・特殊修復・湯灌・納棺・身支度・化粧……触れたらまだ温もりがあるのではと見紛うほどに遺体を整える仕事は、故人の時間を少し巻き戻し、生前の“あの人”に会ってお別れをしてもらう仕事であるともいえよう。

 上述したプロモーションビデオでナレーションを担当する同社代表・染谷幸宏氏は、その凛とした、それでいて温かみに満ちた声で、最後にこう締めくくる。

「変わり果てた姿のまま火葬してしまうのではなく、最期にもう一度、大切な人に会うための選択があることを知ってほしいのです。どんな状況で亡くなったとしても、私たちのもとに来てください。遺体保全や特殊修復の技術を用いて、心を込めてご処置させていただきますから」

「トウビくん/ゾンビくん」の誕生

 同社は今年6月にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された「フューネラルビジネスフェア」において、メッセージ性の強いこのプロモーションビデオを大きく打ち出して出展した。同時にそこで配布したのが、ポップでカラフルな同社のオリジナルキャラクター「トウビくん/ゾンビくん」を使ったガイドブックである。

 遺体を扱うことの崇高さと、こうしたキャラクターのポップさとは、確かに一見すると相反するもののようにも思われる。「最初はどっちに転ぶかわからなかったので、怖かったですよ。バッシングがあることも覚悟していました」と同社の担当者も打ち明ける。ところが出展時に実際に寄せられた感想は、好意と共感を示すものが圧倒的。こうして担当者の懸念は払拭され、大いに自信を持つことができたという。

今年6月に開催された「フューネラルビジネスフェア」出展時の様子

 続く8月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「エンディング産業展」において、同社はさらにチャンレンジする。前述のガイドブックで描いた世界の、スケールアップを図ったのだ。

「夢の中で死んでしまったトウビくんがゾンビくんとなって、自分の身体が変化していく姿を体験する」

 そんなストーリーを、会場入口近くの大きなブースをフルに使って展開したのである。

 葬儀業界においてさえ大っぴらに語ることはどこかタブー視されていた死後の遺体の変化という現象を、これほどまでに明るくオープンに表現したことは、確かに画期的であった。来場者に驚きと感動さえ与え、今後、死がもっとポジティブに語られることに繋がるのではないかという予感さえ抱かせたのだ。

 この「トウビくん/ゾンビくん」の広報プロジェクトは、同社のマーケティング事業部、社外のマーケター、さらにはエンディング関連のプロダクトを手がける若手デザイングループ「さだまらないオバケ」という3者の協働によって実現したという。

「遺体がどう変化するのかを知ること。それはいずれ誰の身にも起こること。だからこそ、それは「終活のひとつ」なのでであり、いつかは消えていく命を大切にすることでもあるのだ」

 統美では、そうした思いを人々に伝えていくためにはどんな方法がいいのか、デザイン案を繰り返し検討し、考え抜いた結果としてこの表現にたどり着いたのだという。今後も広報活動の一環としてこのキャラクターを大いに活躍させていきたいとし、例えば「トウビくん/ゾンビくん」を使った絵本やアニメーションの制作など、新たな企画を検討しているという。

今年8月に開催された「エンディング産業展」にて披露された、ポップな「トウビくん/ゾンビくん」
キャラクターをあしらったノベルティも好評

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 12月号に掲載されています

掲載記事

葬儀
2023.12.05