今年6月のフューネラルビジネスフェア、および8月のエンディング産業展に出展し、話題となった丹青社グループの「VRセレモニー」。両展示会には、株式会社丹青社の100%子会社であり、サービスの販売を担う「株式会社丹青ヒューマネット」の名義で出展された。
VRセレモニーは、エンドユーザーが自身で管理画面を操作して、生前葬・お別れ会などの企画・会場づくりができ、最長1年間にわたって公開できるというサービス。空間の企画、デザイン、制作、そして運営までを手がけ、近年はバーチャル空間までも手がける丹青社が、新たにエンディング業界に進出したのはなぜなのか? 丹青ヒューマネット代表取締役社長の石畑和恵氏と、開発にたずさわった丹青社CMIセンターのプランナー・石井志織氏に話を聞いた。
空間プロデュースの専門家が業界参入
戦後復興期の1949年に創業した丹青社は、百貨店の店内装飾を手がけて成長、1970年に大阪府で開催された万国博覧会のパビリオンを手がけたことを契機に飛躍を遂げた。以降、日本有数の総合ディスプレイ企業となり、商業空間・展示会をはじめとした販促・PRにつながるイベント空間、博物館や科学館などの文化空間等、人やモノ、情報が行き交う空間づくりのスペシャリストとして、今や日本を代表する企業へと成長している。
グループ会社は、本体のほか国内に複数社あり 、中国・上海にも展開。その中にあって2004年設立の丹青ヒューマネットは、空間づくりを担う多様な人材を提供する人材派遣会社である。今回、開発者である丹青社CMI(クロスメディアイノベーション)センターの呼びかけに応じてVRセレモニーの販売を担当することになり、先述した2つの展示会で同製品を初公開し、注目を浴びた。
〈VRセレモニー〉の特徴
誰でも製作・参加可能
VRセレモニーの主催者は、既存の写真や動画、テキストを登録するだけで、オリジナルのバーチャル空間をつくることができる。主催者から招待された人はこのバーチャル空間内を回遊でき、新たな画像やメッセージの投稿によって空間づくりに参加できる。
高度なITリテラシーがなくても、PCやスマートフォンに親しんでいる人なら誰でも製作でき、招待された人も、指定されたURLにアクセスするだけでバーチャル空間を訪問できることが最大の特徴だ。公開期間は最長1年間。
回遊できるバーチャル空間
実際に使ってみた人たちからは、回遊時の画面が 3次元空間を歩いているように見える点が高く評価されている。これは、優れた空間デザイン力を持つ丹青社だからこそのクオリティといえるだろう。
基本的な流れ(お別れ会の場合)
受付→主催者挨拶→ホール(遺影を設置)→イベント(メモリアルムービー等を流す)→写真ギャラリー(思い出の写真を投稿・閲覧)→メッセージ(メッセージの投稿・閲覧)→お礼の挨拶→退場(または会場に戻る)
時間・空間を超えた遭遇
たとえば海外在住の友人の場合、葬儀には出席できなくとも、VRセレモニーに招待されれば自宅の部屋からに静かに故人を偲ぶことができ、ともに過ごした日々を回想できる。時間・空間を超えて人と人とをつなぎ、思い出をよみがえらせるツールとなる。
〈VRセレモニー〉の可能性
エンディング産業展に出展した意図、その後の反響はいかがでしたか?
石畑:終活関係者が多く来場されると聞き、マーケティングを兼ねて出展しました。成果としてまず感じるのは、こうしてメディアからの取材が増えていることです。主催者の東京博善様も、PR記事の掲載やプレゼン動画の配信などでご協力いただくなど、エンディング業界におけるデジタル技術利用のサービス事例として取り上げていただきました。
葬儀社様は、大いに歓迎される方と、葬祭業にネガティブな影響があるのではないかと懸念される方と、反応はまっぷたつに分かれました。しかし私たちはこのサービスを、リアルな葬儀に対抗するものではなく、葬儀が縮小傾向にあり、参列者数も減少する現下の状況下で、むしろ葬祭業の付加価値を高めるための新たな取り組みとして、葬儀社様にご利用いただきたいと考えています。
コロナ禍以降、出社するのかリモートワークをするのか、街へ買物に出かけるのかネットショッピングをするのか、個々人の事情に合わせてリアルかバーチャルかを選択し、使い分ける──そうしたハイブリッドなライフスタイルが普通のことになってきました。
リアルの大切さはもちろん変わりません。しかし、一人ひとりが持っている人生の時間には限りがあります。だからこそ、場所も時間も選ばないこのツールを使ってそこを補完していただきたい。私たちのそうした意図を、来場者のみなさまにきちんと説明させていただきました。
ご本人やご遺族が自身でセレモニー全体を製作できるなど、操作性をシンプル化したのはなぜですか?
石畑:こういったものは、使いやすいことがまず大前提です。それに、できあいのものを提供されるより、ユーザーがみずから手がけたほうが気持ちの変化も生まれます。
たとえば生前葬なら、ご本人がかかわるほうが質の高い終活につながると思います。お気持ちの整理をつけ、遠方のご友人や人生の恩人などとコミュニケーションをとるのに最適ではないでしょうか。
また、お別れ会でご遺族・ご友人が主催される場合には、グリーフケアになると思います。みずから会場を設営し、場を設けることで心が整理され穏やかになるとか、故人によりそい深く理解し、あらためて故人を偲ぶことにもつながっていくでしょう。
エンドユーザーは個人を想定していても、サービス自体はあくまで法人向けなのですよね?
石畑:そうですね。弊社とご契約いただいた法人様を通して、一般顧客のみなさまにご提供いただく、というスタイルを想定しています。
特にコロナ禍以降、葬儀は喪主様の意向で遠方の方はお声かけしないというケースが珍しくなくなりました。また、呼ばれる側も無理には出席しないという方が少なくありません。
けれどもこのVRセレモニーをご利用いただけば、遠方の方が後日参加することも可能ですし、リアルでは出席できなかったがやはり故人にお別れを告げたい、という方の気持ちを満たすことも可能です。そういったニーズにお応えできるという意味で、実際の葬儀とあわせて開催できるVRセレモニーの付加価値は高いのではないかと自負しています。
また終活事業者様には、長寿祝いの場にご利用いただくとか、エンディングノートの代わりにデータを遺す、お寺でしたら檀家様の集会などでもお役に立つかと思います。
さらに、一般企業のセレモニー、たとえば入社式、年度初めの方針発表会、周年行事、定年退職する方の退任式、各種社内イベント後の懇親会などにもお使いいただけるかと思います。その他、法人様のアイデア次第で幅広く用途を考えていただき、何か新しい事業・プロジェクトにつなげてほしいとも考えています。
人材派遣会社である丹青ヒューマネットがこうしたサービスを販売しているのはなぜなのでしょう?
石畑:VRセレモニーの開発を手がけた丹青社のCMIセンターから、サービスの販売は子会社に担ってほしいという要望があったので、私が手を挙げました。今後、バーチャル空間に関する依頼も増えてきた場合に、人材の派遣元である私たちがこのサービスのシステムについて理解していたほうが、どの現場にどういう人材を派遣するべきかの最適解がわかるようになりますから。
もうひとつの理由としては、最近、企業がビジネスを進めるうえで、ただ人材を外注するのではなく、プロジェクトの一部をまるごと外注するという「BPO」(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のニーズが高まっていることもあります。ゆえに私たち派遣事業者も、ただ人を派遣するのではなく、その業務に精通した人材やシステムごとお受けしているのですが、そういったBPOへの対策を強化するためにも、このような新しい事業に取り組むことにしたわけです。