株式会社ファイング(岡山県岡山市)
岡山市を拠点とする家族葬専門葬儀社(株)ファイングは、2007年に墓石販売会社(有)てんしょうの葬祭部門として設けられた。葬儀の売上高が霊園・墓石の売上高を追い抜こうとしていた11年8月、㈱ファイングが主たる会社となり、てんしょうはファイングの石材部門との組織変更を行った。現在の売上高比率は、葬儀9割に対し霊園・墓石は1割で、霊園・墓石の減少以上に葬儀が増加している結果だ。葬儀売上高は、コロナ禍前の19年7月期は7,000万円であったのに対し、22年7月期は8,900万円となり、3年間で27%増とコロナ禍であるにも関わらず大幅に増加している。その要因について、川上明広代表取締役社長にお聞きした。
コロナ禍前とその後の葬儀売上高について
まず、ファイングさんの全売上高とそのうちの葬儀売上高について、コロナ禍前とその後の状況をお聞かせ下さい。
川上:当社は7月決算ですので、コロナ禍前は2019年7月期、その後は3年後の22年7月期でお話しします(表参照)。19年7月期は、全売上高は8,300万円、うち葬儀売上高は7,000万円であったのに対し、22年7月期は9,900万円、うち葬儀売上高は8,900万円でした。
19年7月期に対する22年7月期の3年間の増減率は、全売上高はお墓の売上高が300万円ほど減少したために19%増であったけれども、葬儀売上高は1,900万円増加したので27%増と大幅にアップしたわけですね。葬儀売上高の施行件数、単価別ではどうなっていますか。
川上:施行件数は19年7月期240件、22年7月期290件、単価は19年7月期29万2,000円、22年7月期30万7,000円でした。
3年間の増減率では施行件数は21%増、単価は5%増で、いずれも葬儀社の中では非常に健闘されている方ですね。以下では、施行件数、単価それぞれの増加要因についてお聞きします。
施行件数21%増の要因:エンゼルケアセミナーなどで医療・介護事業者と関係を構築
施行件数が3年間で21%増となった要因は何でしょうか。
川上:ひとつは、葬儀の集客チャネル(経路)を増やしたことです。これは、8年前から取り組んできたことで、経緯を少しお話します。
御承知の通り、2010年頃から終活ブームが始まり、弊社も12年7月に岡山では初の終活フェアを開催しました。その後も、年1回は100名規模の終活フェア、月1回は小規模のセミナーの開催を続けました。
しかし、2年ほど続けているうちに、終活は決して追い風ではないなと感じるようになりました。というのは、終活フェアやセミナーに集まるのは、「坊主いらない」「火葬だけでいい」「お墓もいらない」という人たちが多く、葬儀、お墓、遺骨の行先も含めて適正な提案をしたいという私たちの狙いと乖離していたからです。
そこで、考え方を変えて、新しい集客チャネルとして地域包括ケアに携わる人たちにアプローチすることにしました。地域包括ケアに携わる人たちというのは、ケアマネージャーやソーシャルワーカー、成年後見人、介護職員、訪問医療従事者などです。
そういう人たちにどのようにアプローチされたのですか。
川上:一番最初に行ったのは、介護職員向けのエンゼルケアセミナーです。妻(川上恵美子氏)が12年頃からエンゼルケアを継続的に学んできており、岡山県内にはエンゼルケアを学ぶ場がないので、妻が講師になってセミナーを開催してみることにしました。
参加者は3名から多くても10名以内の少人数制にして、マンツーマンに近い形で教えることにしました。集客は、FAXリストを入手しFAXDMで行いました。初開催したのは15年9月で、狙い通りとても好評でした。
また、同年10月には、ケアマネージャー向けのグリーフセミナーを初開催しました。グリーフサポートも妻が継続的に学んできており、妻が講師となって行いました。これも、実践的なグリーフサポートを学ぶ貴重な場として好評です。
エンゼルケアとグリーフサポートでは、どちらがより好評なのですか。
川上:エンゼルケアです。セミナーの回数もエンゼルケアの方が圧倒的に多く、年3回くらい継続的に行ってきています。
好評の背景には、介護施設では入所者を看取るなど、エンゼルケアが必要な場面が増えてきたにもかかわらず、介護職養成のカリキュラムにはエンゼルケアがないということもあります。
そうしたセミナーからスタートして、介護・医療職の人たちから葬儀の紹介にはどのように繋がっているのですか。
川上:セミナーで知り合って、いわゆる人間関係を作っていくことを重視しています。
そのために、「お仕事をください」ではなくて、私たちも介護・医療業界のことを教えていただくという姿勢で相互理解を深めていくようにしています。そうすると、信頼感が増して葬儀の紹介に繋がってきます。
また、セミナーを受けにきた方が事業所の指導者で、「うちの事業所でも講習をやってもらえますか」と依頼されることもあります。それで講習を行って、信頼されて紹介に繋がったりします。
介護・医療職からの葬儀の紹介件数は、どのくらいになっているのですか。
川上:21年の夏ごろから急に増え、全葬儀件数の2割くらいになっています。15年夏頃から地道に継続的に取り組んできた効果が現れてきたと受け止めています。
成年後見人からの依頼も葬儀件数の1割に
地域包括ケアに携わる人たちからの葬儀の紹介の中で、ほかに増えているものはありますか。
川上:成年後見人を行っている士業さんからの依頼も増えて、葬儀件数の1割くらいになっています。
きっかけは、10年近く前に、成年後見人をやっている士業さんから次のようなお話しを聞いたことです。成年後見人は本来、被後見人が死亡すると、その財産を清算することで任務完了となる。しかし、葬儀・埋葬ないし納骨の手配をする人がいないと、人道的にそれらをやらなければならない。成年後見人を頼む方は、葬儀・埋葬を行なう人がいないことが多いので、葬儀・埋葬まで行わなければならないので大変だ、というお話です。
そこで、当社でそれに対応するプランをつくりました。
どのようなプランですか。
川上:被後見人さんが亡くなった時の病院へのお迎え代行、エンゼルケアや遺体処置、火葬後の骨上げ代行、埋葬先が決まるまでの遺骨預かりなど一連のサービスをパッケージにして、生活保護受給者の火葬式並の価格にしたものです。
さらに、「被後見人が亡くなる前に準備すべきこと」「亡くなった後に必要な行動」などをまとめた成年後見人向けのファイルを無償で提供しています。
遺骨預かりまで行うというのは、あまり聞きませんね。
川上:当社はお墓まで扱っていますので、できることです。葬儀だけしか行っていない葬儀社の支配人クラスでは、責任が持てないので預かれないでしょうね。
集客策としては、どのようことをされているのですか。
川上:エンゼルケアやグリーフセミナーを開催していく時と同じように、法律家のFAXリストを入手して、FAX DMを毎月1回は必ず送りました。これも問い合わせが結構ありました。
死後諸手続きの無料アドバイスでリピーター獲得
施行件数が増えたその他の要因についてお聞かせ下さい。
川上:リピーター率が比較的高いことも要因だと思います。施行件数の半数くらいはリピーターです。
この要因のひとつは、これは創業当初から行っていることですが、葬儀後の諸手続きの無料アドバイスです。
葬儀後何日以内に、何を、役所のどこの窓口に持って行って手続きするのかを細かく書いた手作り資料をファイルにして、火葬場での待機時間にそのファイルをお渡して説明しています。
細かくというのは、例えば、どのようなことですか。
川上:死亡診断書のコピーや、年金の手続きをする時に委任状が必要になったりしますので委任状のコピーも入れるところも設けています。
このようにご遺族が全ての手続きをスムーズに完結できるようにつくっていますので、「非常に助かった」との声が多く、それが顧客満足度の経年劣化を防ぎリピーターにつながっています。
「顧客満足度の経年劣化を防ぎ、リピーターにつながる」というのは、具体的にはどういうことですか。
川上:ご遺族は、葬儀後の手続きが終わっても、このファイルは捨てずにとっておき、次にご家族が亡くなった時に、このファイルを見てお電話をしてくるのです。
葬儀が終わっても、ファイル自体が仕事をしてくれますので、顧客満足度の経年劣化を防いでくれるわけです。
単価5%増と売上高増の要因:エンゼルケアの内製化で受注率は5割超に
次に、単価が5%増えた要因についてお聞きします。まず、確認させていただきますが、コロナによって参列者が激減し、その結果、単価が大幅にダウンした葬儀社が多いのですが、御社は、そうではなかったのでしょうか。
川上:弊社はもともと小規模の家族葬や火葬式のお客様が多いので、単価はコロナ禍前とコロナになってからもあまり変わりません。
つまり、数字通りに5%増ということですね。その要因は何でしょうか。
川上:一番の要因は、コロナ禍になる少し前から、ご遺体のエンゼルケアを内製化したことです。
湯灌は専門業者に外注して8万8,000円で行っていましたが、火葬式のお客様は8万8,000円の湯灌はほぼ利用されませんし、30万円で1日葬を行う人も、それに近い人もいます。
そこで、湯灌より料金の安いエンゼルケアだったら、そういう人たちでも利用するのではないかと考えました。
妻は以前から複数の納棺師の方からエンゼルケアを学んできましたし、互助会で年間600件の湯灌を行っていた女性がパートで入社してきましたので、内製化のサービスとして始めることにしました。「ラストメイク」の名称で、価格は税別3万5,000円です。
全施行件数の中で、利用割合はどのくらいですか。
川上:火葬式も含め半分以上の方が利用されています。1日葬以上の方の割合が高いですが、火葬式の方で利用される方も結構いらっしゃいます。
火葬式でも利用されるのはどうしてでしょうか。
川上:私どもの火葬式には「出棺式」といって会館でのお別れの機会を設けています。会館の小さな部屋にご遺族に集まっていただき、安いプランは20分、高いプランは約1時間のお別れをしていただき、霊柩車で火葬場に一緒に行くという形です。
お別れの時間があれば、お花を手向けたり、「ラストメイク」をされる方が多くいらっしゃいます。
全施行件数の火葬式の割合と、火葬式の中での「出棺式」付の割合はどのくらいですか。
川上:火葬式の割合は約3割です。火葬式の中で「出棺式」が無い「火葬場待ち合わせプラン」は、一般の人ではあまりなく、後見人さんからの案件くらいです。