2011年3月11日、マグニチュード9.0の巨大地震と津波、そして原子力発電所事故の複合災害。原発に近い福島県の石材産地にも大きな打撃を与えた。1992年を境に減少を続けていた採石量に風評被害も加わって、さらに追い打ちをかけた形だ。この現状を打開すべく2015年1月、石材産地の採掘会社5社が産地復興を目指し、株式会社日本銘石を設立。首都圏の大手小売店を巻き込んで「ふくしまの石プロジェクト」をスタート。同社設立の経緯とシェアの拡大の戦略、今後の展望を同社の佐藤利男社長に語っていただいた。
震災・原発事故から石材産地の復興へ
石材産地の採掘業者5社による(株)日本銘石の設立から8年になりますね。当時は画期的で新鮮にも感じましたが、設立に至る経緯を詳しく教えてください。
佐藤:2014年の11月の設立ですから、もう9年ですね。基本的には2011年の東日本大震災の影響というのが、いちばん大きかったですね。ただ採石量は1992年を境に減少傾向にありました。それでも、私が1999年に福島県石材事業協同組合の理事長だったんですが、採石会社だけで46社(最盛期には県内に150社)もありましたね。
それが、震災5年後には採石量、従業員数、工場数のすべてがピーク時の1割にも満たない危機的な状況にまでの落ち込みです。このひとつの大きな要因は中国からの外材の輸入でしょうね。そこにたまたま、巨大地震と津波、原子力発電所事故の複合災害に。福島県の石材産地は原発に近いところも多く、廃業せざるをえない採掘業者もでました。
そこで(株)日本銘石の設立になったわけですね。それぞれの事業者をまとめるのは大変なご苦労があったのでは。
佐藤:とにかく産地としての機能を失うような危機感があったので、このままではいかんということで、首都圏の大手小売店さんと産地業者、関連業界の皆さんと、国産材販売ミーティング(国産材販売強化会議·交流会)を3回ほど実施しました。問題点、改善点、解決法など大変貴重なご意見を関係者の皆様方からいただきました。結果、前向きに取り組むべくまとまった組織が必要だという結論に至りました。
とにかく、ブランドの名高い銘石というんですかね、力を入れている業者の方々、全員に声をかけました。しかし、これまで独自色の強い事業者も多く、なかなか賛同は得られませんでしたが、まずは理解を得られた5社でスタートすることになりました。
問題点を解消しスピーディに簡素に明確に
いよいよ「ふくしまの石プロジェクト」のスタートですが、小売店との意識や認識のズレもあったと思いますが。
佐藤:当初は福島ブランドの石ということで、まずは「ふくしまの石プロジェクト」をスタートしました。しかし、実際に見学に行った首都圏の霊園には、国産材の建ってる本数があまりにも少なくて、また輸入材の多さに唖然としました。中には皆無の霊園も。
石材産地の採掘業者として、あまりにも現状を知らな過ぎました。個々の事業者が商社や小売店と直接取り引きをし、どこでどう使われているかまでの問題意識はなかったということでしょうね。
要するに、いつの間にか中国加工の墓石が中心で、小売店は国産材には全然眼中になかったということでしょうか。
佐藤:小売店さんの事情もあるのでしょうけれども、第一には金額が違うということ(高い)もありますし、それから煩わしさ。いわゆる国産材は見積もりを出すのも、事業者によっては、一日で出す業者もいれば、二日三日もかかってやっと出てくるところもあります。なかなかその辺は、かなり難しいところなんです。
それと品質ですね。品質もなかなか統一されていないという部分もあったりして。霊園さんや小売店さんは、とにかくスピーディーに、簡素に。しかも明瞭、明確に、早くというのを望みますからね。だから、これらの問題を解決するには、ある程度統一されたものをということで、窓口の一本化をやらざるを得なかった。
日本銘石はそういう部分で、各社がいろいろな事情があるので、物流なども含めて、先程もいったように見積もりの時間差の問題やデザイン(図面)ができない事業者もあるので、全部の窓口を一本化して、見積もりは当日には出すということですね。
次の段階としては、そういう首都圏の小売店との交流を図りながら相互理解を深めていく。
佐藤:そこがいちばん重要なところで、我々はじゃあどうすればいいのか、謙虚に問題点を認識することが必要でした。とにかく小売店さんの意見からは、まず国産材のことはよく知らない。むしろ外国材の方が知ってるわけですよね。つまり、我々のPR不足もあったっていうことを素直に認めて。
じゃあ、首都圏の小売店さんの方々を産地にお招きして、できるだけ採石場、加工場を見ていただいて、こんな過程を経ながら出荷してますよという産地研修会やろうということに。これは力を入れてやりましたね。
そのおかげで、国産材の石の名前を知ってもらったり、製品ができる過程を理解していただいて、少しずつ売れるようになりました。その効果はやっぱり大きいですよね。中には大型バスで宿泊しながらの研修を、何年か続けてくださった大手小売店さんもありました。経費もかなり掛かったと思いますけど、それなりの成果があったと聞いております。
私もその話は聞いています。研修以前は国産材の販売比率が1~2%程度でしたが、現在では約10%を維持していると。次は20%が目標だとも。
佐藤:それは大変ありがたいことですね。実際に何社かの小売店さんにも関心は持っていただいていますし、販売も伸びているようです。
積極的なPRが必要、円安の影響は大きい
現在、墓石業界は厳しい環境にありますが、今後の展望はいかがでしょうか。
佐藤:そうですね。よく業界紙でも「国産材の見直し(回帰)」と書かれることもありますが、なかなか実数が目に見えるほどではという気はしてます。まだまだ浸透しきれてないというの実感ですね。大手小売店さんの一部にはよく使っていただいていますが、年間に10基とか20基くらいのところでも、せめて1基くらい国産材を使っていただけるとありがたいですね。
ただ、長期的に安定している中国の製品も、我々産地メーカーだって中国から入ってこないと困るわけです。我々だけで全部受けるなんて無理ですから。だから、輸入材も国産材もうまくバランスが必要ですよね。
今はちょっと偏りすぎてるんで、もうちょっと国産材を使っていただければというのが、正直な気持ちです。
福島の銘石としては「深山ふぶき」や「浮金石」は知名度があり、ブランドイメージがありますが。
佐藤:特定の銘柄の石種に偏っているところがありますよね。ほかの石種も売れるように積極的なPRが必要です。今後はもっと小売店様との連携が大切な時代だと思っています。また、現在は採掘業者5社の日本銘石ですが、もう少し賛同していただける事業者も増やしたいですね。
話は変わりますが、佐藤社長は(株)福石石材の代表取締役もされていますが、地球素材の原石を扱う立場から、今後の課題はありますか。
佐藤:(株)福石石材は山の切り出しだけをやっています。原石は自然の天然石です。よく「白玉」「黒玉」という業界用語がありますが、「あずき大」くらいのものは許容してほしいですね。原石は天然、自然のものなんです。イタリアやアメリカでは、それが自然石だからって理解してくれています。だけど日本の場合は厳しい。
多分、小売店の社長さん方はそれを理解してるんだろうと私は思う。ところが現場はマニュアル通りに検品をやる。これダメだと。例えばカロートのふたの裏は普段見えないからOKだった。ところが、今は「開けたとき見えるからダメ」だと、はじかれるのが多くて、歩留まりが悪いから、安くはできなくなってしまう。
現場がいますね、営業もいますね。霊園とか寺院墓地にいって、「うちの会社ではこんなのは使いませんよ」、また「社長、こんなのを使ったらうち売れませんよ」なんて言うと、そうかとなるんですね。ここまで徹底してるんだから、理解を深めるには相当時間がかかりますね。
現実的には中国だって相当捨ててるはずだから、これはやっぱり天然石だからといって、ヨーロッパの方と同じくらいの基準になればと思いますね。
急激な円安が進んでいますが、影響はいかがでしょうか。
佐藤:影響は大きかったですね。1年前は105円くらいだったと思うんですが140円台、150円でしょ。これで大きなの損失ですよ。限界は120円くらいかな。結局、円安になったからって、小売店さんに値上げっていうのはなかなかできないですからね。そんなに大きく利益を追求していたわけではないので、足を出しながらも売ってるっていう状況です。