相続とも絡む空き家問題 意識啓発のために自治体が「クラッソーネ」と協定

近年、全国で増殖する空き家は、相続問題と絡んで放置されるケースが多く、その街や地域の価値(景観美・安全性など)に少なからず影響を及ぼしている。この問題解決の一助として注目されているのが、株式会社クラッソーネ(愛知県名古屋市)が提供している、解体工事会社と施主とをマッチングするサービスだ。空家解体・撤去、あるいはリフォーム・再利用などに対する心理的・経済的なハードルを下げるこのサービスを利用して、所有者への意識啓発を行いたいという自治体が相次いで現れている。

クラッソーネの独自開発サービス

クラッソーネは、大手ハウスメーカーに勤務し、優秀な営業実績を残した川口哲平氏(代表取締役/CEO)が2011年4月に創業。空家問題に着目して独自にシステムを開発し、一括見積もりWebサービス「クラッソーネ」の運営を行っている。これは解体工事の領域で、全国約1,500社の専門工事会社と施主(空家の所有者)をマッチングするサービスで、これまでに累計約8万件以上の問い合わせ実績、そして累計約1万件以上の工事契約実績がある。
メリットは施主(空家所有者)に工事会社を直接紹介することで、工事会社の多重下請け構造を解消し、施工費のコストダウンを可能にすること。また、口コミや工事実績などの会社情報も即座に公開できるため、施主が納得し、安心感をもって工事会社を選択することができることも大きな特徴として挙げられる。
2020年9月からは施主と工事会社に対し、“着手金保証”“完工保証”“第三者賠償責任保険”を組み合わせた「クラッソーネ安心保証パック」の提供を無料で開始しており、空き家解体に伴うさまざまな不安を解消。今や日本の高齢社会において、大きな課題となっている空き家問題解決に貢献している。

愛媛県伊予市のケース

こうした実績のもと、去る10月19日(火)、クラッソーネは愛媛県伊予市との間で、空き家所有者への意識啓発に係る社会実験に関する連携協定を結んだ。
人口約3万6千人の伊予市内では年々空き家が増え続けており、2016年の実態調査では約1,300戸に上っている。このうち老朽化による倒壊のおそれがあるなど、危険な状況の物件が1割強あり、空家問題が顕在化している。
これを解決するため、同市では2018年3月に「伊予市空家等対策計画」を策定して取り組みを始めた。そこで浮き彫りになったのが、空家の所有権を持つ家族・親族(ほとんどが市外に在住)が相続税などの問題を理由にそのまま放置しているケース、そして自治体からの呼びかけにも応じないケースが少なくないということだ。伊予市ではそうした家族・親族にアプローチし、何らかの形で空家を活用・再利用するか、解体処分してほしいと考えているが、解体に関しては費用などのガイドラインを示す必要がある。そこで白羽の矢を立てたのがクラッソーネのサービスだった。
伊予市内の空き家所有者に対し、クラッソーネを紹介することで、空き家の活用や解体に向けた意識啓発を促進できるのではないかと判断し、連携協定の締結を行った。

伊予市における協定締結式
左:愛媛県伊予市長 武智邦典氏/右:クラッソーネ代表取締役/CEO 川口哲平氏

埼玉県熊谷市のケース

さらに同月22日、クラッソーネは、埼玉県熊谷市、および、株式会社武蔵野銀行(埼玉県さいたま市/代表取締役頭取:長堀和正)とも空き家除却(解体)促進に係る連携協定を結んだ。
熊谷市では2018年3月に策定・公表した「熊谷市空家等対策計画」にもとづき、「埼玉県北部地域空き家バンク」や老朽空き家に対する除却補助制度、空き家利活用(リフォーム)補助制度などの取り組みにより、除却、利活用の両面から空き家対策を推進してきた。
一方、武蔵野銀行は2017年に熊谷市と地方創生に係る包括的連携協定を結び、産業振興など地域経済の活性化に向けた取り組みを実践。その一環として「空き家活用ローン」などによる資金供給、この取り組みの浸透に向けたセミナー開催などを随時行っていく計画を立てている。
今回、熊谷市は市内の空き家所有者に対し、「クラッソーネ」と武蔵野銀行のサービスを紹介することで、空き家の活用や解体に向けた意識啓発を促進する。
また、三者間の連携によって相談窓口から解体工事会社の紹介、解体ローン等の資金面を一貫してサポートし、空き家の発生防止に関する対策を強く推し進めていく。

終活・相続事業者にとっても注目すべき情報

2011年の創業から解体工事のマッチングサービスを運営してきたクラッソーネでは、徐々に空き家解体の顧客(施主)が増加したことから、社会のニーズを知り、空き家問題に目を向けるようになった。「街」の循環再生を、社会のあたりまえにしたい――そうしたビジョンのもと、コツコツとソリューションの実績を積み上げてきた同社の活動が、ここに来て大きな存在感を見せ始めている。終活や相続に関わる事業者にとっても深い関りを持つ住宅・不動産の問題。クラッソーネの活動・サービスは、貴重な情報として利用価値があるだろう。

月刊仏事 12月号に掲載されています

掲載記事

終活
2021.12.28