香りで再生する千年前の“防虫和紙”と千年後のお寺のための“ご本尊リユース”

 SDGsという言葉が日常的に聞かれるようになってきた。これからの企業活動には、SDGsへの積極的な取り組みも重要になる。とはいえ、ご供養の業界では従来の取り組みがSDGsに合致していることも少なくない。そこで、この連載では各社の取り組みから、現代のSDGsの発想に合致させた事例を紹介していく。

 今回は、お香の製造・販売、寺社設備・荘厳等取り扱い業の株式会社一の事例を取り上げる。同社取締役社長の岩佐一史氏、取締役の戸田啓喜氏のおふたりに、きっかけやそこに込められた思いについてお聞きした。

みがえった千年前の製紙技術

 12月16日は紙の日。2023年のこの日に株式会社一が発売を開始した『千年香紙』は、丁子(スパイスの「クローブ」)の芳香漂う手漉き和紙だ。平安時代の特殊な製紙技術を現代に復活させたもの。商品を企画したのは同社の岩佐一史氏と戸田啓喜氏、手漉きしたのは香川県四国中央市に工房を構える大西満王氏だ。

 龍谷大学で古文書を研究していた岩佐氏は、香紙の由来について次のように説明した。
「弊社ではお香の商品を企画・製造・販売するほかに、合香師として指導もしています。そのご縁で、若き手漉き和紙職人で、書道家でもある大西さんを紹介されました。大西さんから、かつてお香の原料で染めた紙があったらしいと聞いて、文献を調査しました。

 丁子には防虫効果があります。ですから、東京国立博物館に所蔵されている平安貴族の歌集の書写に使われた『香紙切』のように、1000年もの長きにわたって、虫にも食われずに残せるのです。丁子で染めた紙を大切なものに用いるというのは、いわば、先人の知恵です。

 このすばらしい知恵を現代に蘇らせようと、研究結果に基づいて実際に大西さんに漉いてもらいました。プロジェクトが立ち上がったのは2023年の春。試行錯誤の末、ようやく完成しました」。

1000年後に向けたご本尊の縁組も

 1000年先まで寺の文化を伝えて残すというコンセプトから、同社では、ご本尊の縁組にも取り組んでいる。つまり、寺院が後仕舞いをする際に、大切なご本尊やお道具の行き場を探して迎えていただくための支援事業だ。次の場所で守ってもらうという意味では、リユース的な発想といっても差し支えないだろう。主に携わる戸田氏は言う。

「お寺でも一般のご家庭と同じく、核家族や終活の課題があるんです。四国ではお寺のあとしまいへの相談が増えてきています。その時にいちばん困るのは、大事なご本尊やお道具の行き場がないことです。その一方で、被災地など新たなご本尊を必要としているお寺もたくさんあるんですね。ですが、お寺さん同士のおつきあいではそうした問題をお話ししないことが多いので、仏具を納めた側の責任として、新たなお納め先を募って、お迎えしていただくお手伝いをしています。これも、修理・修繕とは違いますが、今の時代の大切な仕事だと思っています。生きたところで使っていただくことは、エコですし。

 時代がいろいろな形で変わってきていて、今は心の病気に悩む方も増えています。そうしたときに、信仰はひとつの拠り所になるでしょう。お寺は本来、いろいろな方が最後に相談にくるような場所です。次の世代が集まり記憶に残るお寺にするためには、それまでの人たちが大切にしてきたご本尊をつなぐことは大切です。何かのご縁や支えのきっかけになる仕事ですので、次世代のことを考えながら、一瞬一瞬を大切に、お寺を支えていきたいと思います」

「昔から続いているお寺の文化性や伝統はすばらしいものですし、お香でもそうですが、長い歴史の中で伝わってきたものには多くの意味が宿っています。それを伝える価値を日々感じています。

 それだけでなく、時代は変わっていくので、残すべきもの、変えていくべきものもあると思います。決して変えてはいけないものもあるので難しい面もありますが、日々、伝統と革新を意識して活動しています」

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 2月号に掲載されています

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仏壇
2024.02.09