新しい社会に向けて、人とお寺の新しいつながり方を提案

大切な気持ちのこもった品物やメッセージを一定期間寺院や神社で預かることで、利用者と寺院・神社、利用者とその親族・友人にとっての新しい繋がり方を創出する「ひとめぐり」。
この新しいコンテンツは、お墓でもあり、形見でもあり、遺言でもあり、自分史でもある。これまでにない概念を形にし、世に問う(有)川本商店みんてら事業部と、鹿鳴堂(株)の共同プロジェクト「ありかた」。そのビジョン、そして新しいお寺の支援策についてお話を伺った。

ありかたプロジェクト (有)川本商店みんてら事業部 × 鹿鳴堂(株)

エンディング産業展における未知の体験

エンディング産業展2022のなかでもひときわ目を惹くブースだった。全体を白と青のカラーリングで統一した美しい、そしてどこか未来圏をイメージさせる佇まい。そこにいくつもの匣が並ぶ静謐な空間。まるでそこだけどこかの美術館の展覧会を移植したかのように、周りと異質な時間が流れるスポットだった。
匣の中にはいろいろな品物が納められている。折り畳んだ服、眼鏡、時計、折り紙、子どもの絵、ノート(エンディングノート?)、メッセージと思われる言葉、そして写真……それらを見て終活事業者の若い女性が涙を流したという。何か感じるものがあったのだろう。商品(?)の展示が意味することのはすぐその場ではわからなかったが、そこに無数のストーリーが流れていることは、そのブースを覗いた人の多くが感じとっていたはずである。出展者は「みんてら×鹿鳴堂×京王電鉄」。商品(サービス)名は「ひとめぐり」。そしてプロジェクト名は「ありかた」とある。

「ひとめぐり」を始める

45個の匣と千歳

「ひとめぐり」はお寺が匣と保存庫を購入するところから始まる。匣45個 +〈千歳〉という名の保存庫一台=1セットで販売。形・大きさは変えられないが、装飾などはお寺の雰囲気に合ったものにカスタマイズすることは可能だ。「ありかた」はもちろん売りっぱなしでなく、利用者に向けたご案内のパンフレットや広報活動をサポートする。
匣は遺影が入るサイズで作られている。本人が自分を表現するための品物を入れる、あるいは家族や友人が故人との思い出の品物を入れる……なま物や劣化しやすいもの、危険物でなければ、何を入れても構わない。納骨堂の営業申請を取ればお骨を入れても良い。
預かる際のお布施、保管料、預かる期間、期間を経過したらどうするかはガイドラインを作っているが、基本的にそのお寺に委ねられる。それぞれのメリットを挙げてみよう。

ひとめぐり
千歳(保管庫) 高さ:1m 80cm 幅:98cm 奥行:47cm

利用者のメリット(生きている間に)

  • 終活の一端となる
  • 個人で、安価に、お墓の代わりをもてる
  • 墓じまい後も故人の想いを遺すことが可能
  • 所縁のある地にいくつも預けられる
  • 想いをより鮮明に適時適切なタイミングで残すことができる
  • お焚き上げで処分することも可能

家族・友人のメリット(亡くなってから)

  • 故人の想いや考えを受け継ぐ事が出来る
  • 故人の友人や同僚などから家族が知らない一面を知ることができる
  • 遺品等も預ける事もできる
  • 故人の思い出の地など、預けたお寺を旅の目的で巡礼ができる
  • 家族以外で故人のカタリベができる

お寺のメリット

  • 葬儀や法事等の行事、本人の預入・入替時、周辺者の訪問時における会話など、檀家をはじめとする既存の関係者と新たな接点(情報)がもてる
  • 新規の利用者を増やすことができる
  • 省スペース、低投資で始められる
  • 人口減少の心配が軽減する
  • 安心したサポートが受けられる

人生のストーリーを辿る巡礼も会に認められる仕掛け

「ひとめぐり」は1ヵ寺だけでなく、預かるお寺がいくつもあることも特徴だ。たとえば福岡在住の人が、故郷と、子どもが住む大阪と、旅をして心に残った富士山の見えるお寺と、3つの地域・3つの寺、さらにそれ以上に預けることもできる。故人に逢いたい人が巡礼のように全国を訪ね歩き、人生のストーリーを辿れるのだ。縁のあった人にとっては、墓以上に精神的なつながりを保てることができ、死後もその人に出逢うことが可能になる。
私がもし「ひとめぐり」を使ったらと、自身のストーリーを想像してみる。
匣に入れるものは愛用のベストと眼鏡と帽子、自分史を綴った本とメッセージ動画を収録したUSBメモリー。そして写真を1枚。それを長年暮らした東京、故郷の愛知、そして思い出のある岩手の遠野、滋賀の長浜、四国の徳島、それぞれのお寺を訪ねて預けておく。そのことを家族と周囲の親しい友人、仕事の仲間に伝えておく。できればそれぞれの場所と思い出とお寺のことを綴った冊子を作って渡しておくといいかも知れない。

左:匣 右:匣の中身

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 1月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2023.01.10