終活アンバサダー 村田ますみと考える「後悔しないの人生の仕舞い方」 第三回
韓国ドラマやK-POPの流行で、近年、韓国の文化は日本でも非常に馴染み深いものになっていますが、お葬式や埋葬の方法については、皆さんはどれほどご存じでしょうか?
私はこれまで韓国を何度か訪れて現地の葬送事情を見聞する機会がありましたが、この度、コロナ禍が空けて実に5年ぶりにソウルを訪れ、現地の葬祭関係者と交流することができました。久しぶりに再会した、韓国葬儀文化新聞社の金東元(キム・ドンウォン)代表にインタビューをおこなった内容を中心に最新の韓国の葬送事情についてお伝えします。
この5年間でおこった韓国エンディング業界の変化
村田:久しぶりにお目にかかれましたね!私が最後に韓国に来たのは5年前の2018年でしたが、この5年間でどのような変化がありましたか?
キム:はい、簡単に申し上げるのは難しいですが、これまで葬儀の消費者に不利益なことの多かった互助会の業界整備がかなり進んだことが挙げられます。
2012年時点では300社を超えていた互助会は、わずか5年間で170社に減少しました。統廃合される過程で、互助会の会員数はむしろ増加しました。
この急激な動きの中で中小の葬儀社から被害を受けた消費者が急増し、それらに対する政府の救済策が続々と出てきました。
そんな中、互助会統廃合で離脱した中小の葬儀者が、独自に葬儀サービスだけを提供する全国的な連携を持つ組織に変容しはじめました。
また、この5年間の大きな変化は、互助会の性質が変わり始めたことです。日本ではどうか分かりませんが、組み合わせ商品が大量に出現し、さまざまな副作用を産んでいます。組み合わせ商品とは、会員登録時に電子教材や旅行商品などを抱き合わせで提供するもので、会員募集に限界を感じていた互助会がある程度の実績を上げており、このような現象は今も続いています。
2022年10月現在、互助会の数は73社、会員数は730万人、前払金は7兆5千億円レベルです。
村田:かなり大きな業界再編がおこっているのですね。会社の数が減っていますが市場規模・マーケットが拡大しているのは興味深いです。
2020年から3年間続いたコロナ禍に関しては、どのような影響がありましたか?
キム:日本も同様に影響を受けたと思いますが、韓国も例外ではありません。特に韓国では、これまで続いていた火葬率の上昇に拍車がかかりました。
また、過去5年間で、孤独死が40%急増しました。これは死亡者100人に1人の割合です。特に、20代の孤独死の50%が自殺であるという事実が衝撃を与えています。
また、最近の注目すべき変化は、葬儀サービスの形態の変化です。
大手葬儀会社がオンライン追悼サービス、AI追悼などでサービスを拡大しており、また会員専用のオンラインショッピングモールを運営するなど、複合的な経済危機の状況を脱するために様々な努力を続けています。
技術的な変化の一つとして、生前の健康な姿の両親をAIで実装し、死後も生き生きとした出会いを支援する個人顧客向けのプレミアムAIヒューマンサービス「リメモリー(re;memory)」も出現しました。
このような現象は、今後どこの国でも同じように、葬儀サービスがIT技術によって急変することを意味しています。
火葬率の上昇と、海洋散骨について
村田:先ほど、コロナで火葬率が上昇したと伺いました。私が1冊目の本を書いた時に、韓国の火葬率は30%くらいという数字を見た記憶がありますが、90%を超えたそうですね。
キム:おっしゃる通り、韓国の火葬率は2021年に90%を超えました。2000年に火葬奨励政策が採択されて以来、毎年増え続けています。 最新の統計では、2022年1月~12月までの累積火葬率は91.5%と発表されました。
村田:政府が火葬を後押ししているのですね。
キム:火葬率増加の原因は、国民の葬儀意識の変化と利便性でしょう。火葬施設は現在、地域偏重で主にソウル、仁川、京畿など首都圏で多くの市民が不便を被っていますが、2027年まで火葬施設を大幅に増やしていく予定だと政府が発表しています。
村田:海洋散骨も以前より増加したと聞きました。
キム:今年度の政府の葬儀政策はまだ準備中です。しかし、火葬した遺骨の骨粉を山・海などに撒く散骨は、国民の望む声が高いにもかかわらず、関連規定が未整備で活性化に困難がありましたが、政府は、山・海または特定区域などの特性を考慮して散骨を許可できるように葬儀法の改正を推進しています。
2012年に国土海洋部が海洋葬を部分的に許可して以来、環境にやさしい葬儀文化の普及などにより、仁川沖の海洋葬が毎年15~20%ずつ増えています。現在、合法的に海洋葬ができる地域は仁川と釜山の2ヵ所です。
村田:2ヵ所だけなのですね。首都ソウルは海に面していないですよね。
キム:仁川沖の海洋葬の需要は、2019年3千件、2020年4千件に続き、2021年5千件に達しています。このような海洋葬の需要増加の原因は、安価な葬儀費用、遺骨の納骨堂での長期安置の難しさ、環境にやさしい葬儀文化の普及などによると言われています。
特に他地域から仁川の海を訪れ海洋葬を行う需要が全体の70%を占めており、また、仁川家族公園納骨堂に納めた両親の遺骨を海洋葬する仁川市民も増えています。
互助会が強力な韓国の葬儀事情
村田:韓国では、人が亡くなったとき、家族はどのように葬儀社を選びますか?日本では最近、インターネットで検索して葬儀社を選ぶケースが増えていますが、韓国でもそのような動きはありますか?
キム:過去20年間、韓国の葬儀業界は互助会と葬儀場業者の激しい競争が続いてきたと言えますが、ここ10年ほどは互助会の優れたマーケティングと利便性を中心とした消費者の反響に支えられ、互助会の葬儀市場先取りが7:3程度に定着したと判断されます。
そのため、葬儀が発生すると、ほとんどの遺族が予め契約している互助業者のサービスを選択しています。 30%程度は病院付属の葬儀場を利用しますね。 また、互助会の競争に押された中小の葬儀業者が全国協力組織を足がかりに葬儀を請け負うこともあります。韓国ではインターネットで葬儀業者を選ぶケースはほとんどないと思われます。
村田:なるほど。日本とは少し違いますね。以前韓国を訪れたときに、病院に立派な葬儀場が併設されているのをみて感心しました。自宅で葬儀をおこなうケースは無いと聞きました。
「うるう月」と改葬(お墓の引っ越し)について
村田:今回の私の訪韓(3月末)は、韓国の「うるう月」の時期で、葬儀業界の繁忙期だそうですね。「うるう月」について教えていただけますか?
キム:日本や西欧とは異なり、韓国は中国と同じく旧暦(太陰暦)を新暦(太陽暦)と同時に使用しています。
太陰暦では月が地球を12周回るのに354日かかるので、太陽暦の基準である365.25日と比較して、1周期ごとに11日早くなります。このように数周期を回し続けると、徐々に太陰暦と太陽暦との差が大きくなり、季節と全く合わなくなります。
したがって、太陰暦と太陽暦との差が1ヶ月以上開かないように日付をもっと入れなければならないのですが、この時に入れるのが「うるう月」で、19年間に「うるう月」を合計7回入れるので、うるう月は2~3年に1回訪れます。
韓国では昔からうるう月は「腐った月」と呼ばれ、「天と地の神々が人々に対する監視を休む期間で、その時は不敬な行為も神の罰を免れることができる」と広く知られています。
特に葬儀の習慣と深い関係があり、うるう月には改葬をしたり、壽衣(死装束)を用意する風習が伝えられてきました。 今年は3月22日から4月19日までがうるう月にあたります。
古来、旧暦のうるう月は厄がないという言い伝えがあり、昔から墓の場所を移す需要が高かったのですが、今年は3月22日から先祖のお墓を改葬して火葬し、納骨堂や納骨施設に新しく納めるために、火葬場への予約が殺到しています。
インターネットでしか予約ができないため、夜明けから予約の待機をするだけでなく、予約を成功させるためにインターネット接続速度の速いパソコンショップを探したり、改葬を請け負う業者に予約代行を依頼することもあります。
このように旧暦の1ヶ月間は、葬儀関係者がとても忙しく、村田さんの訪韓期間中に葬儀施設の見学など特別なご案内ができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
キム代表が考える業界の今後の展望
村田:最後に、エンディング業界の今後の展望について、キム代表のお考えをお聞かせ下さい。
キム:韓国の葬儀文化と葬儀産業が急激な変化の波に乗ったのは、2000年の葬儀関連法の制定とそれに伴う火葬奨励運動がきっかけです。その後、納骨墓と納骨堂の大幅な増加、葬儀専用の専門式場の爆発的な増加、互助会の乱立と葬儀消費者被害の爆発的な増加など、大きな波が押し寄せてきました。
今では互助業界の混乱も整理され、韓国葬儀ビジネスの中心となっています。
私の新聞は2003年の創刊以来、その波の中でそれなりに良い役割を果たそうと多くの努力をしました。 その中で一番良かったのは、海外の葬儀文化視察研修を通じたグローバル交流を積極的におこなったことです。
アジア各国の主要施設とCEO、専門家と20回以上交流し、特に日本との交流は大きな意味がありました。おかげで、村田代表のような有能な女性人材と出会い、交流することができました。 日本の葬祭展示会視察を通じて多くのことを見聞きし、優れた専門家や経営者のビジョンを学ぶことができました。 特に、鎌倉新書の清水会長との親密な交流も本当に印象的です。
また、村田代表が鎌倉新書と深い関わりを持つようになったので、今後もさらに親密な交流ができることをとても嬉しく思います。 可能であれば、貴誌「終活」と本紙が中心となって、相互の情報交換や人材交流をより活発に展開できればと思います。
変化の激しい韓国の葬儀業界のニュースを簡単にお伝えできないのが残念ですが、今後、より緊密で継続的な交流を通じて相互の発展に貢献できることを期待しています。
今日、村田代表との5年ぶりの再会をとても嬉しく思います。様々な事業も展開しておられますが、今後の無限の発展を心よりお祈り申し上げます。 ありがとうございました。
【オンライン講演のご案内】
キム・ドンウォン代表によるオンライン講演会が開催されます。
韓国の葬送文化について、生の声を聴くことができますので、ぜひご参加下さい。
■「韓国の葬送事情について」韓国葬儀文化新聞社 代表 キム・ドンウォン氏
日時:2023年7月20日(木)18:30~20:00 Zoomによるオンライン開催
主催:日本葬送文化学会
参加費:無料
申込方法:日本葬送文化学会ホームページよりお申込み下さい。