日本では葬儀の場は厳粛で静かに故人を見送るものというイメージがあります。しかし、世界に目を向けると、葬儀の習慣は国によって大きく異なります。その一つがフィリピンです。フィリピンでは、葬儀の期間中に親族や近所の人々が集まり、カードゲームや麻雀などの賭け事が行われることがあります。一見すると不謹慎に思えるこの風習には、故人や遺族を支える大切な意味が込められています。

賭博で香典や葬儀費用を捻出 遺族を地域全体で支える
フィリピンでは、亡くなった人を数日から1週間ほど自宅などに安置し、多くの親族や友人、近隣住民が訪れて故人を偲ぶ「通夜」が行われます。期間中は、多くの食べ物が振る舞われ、連日賑やかに過ごすのが習わしです。集まった人々がゲームを囲みながら故人との思い出話に花を咲かせることで、悲しみを分かち合い、遺族の心を支える役割も果たしています。
この期間は昼夜を問わず誰かが故人のそばにいることが大切とされており、「故人を一人にしない」という考えが根付いています。そのため、夜通し起きている人たちの眠気を防ぎ、場を維持する目的で、トランプや麻雀などのゲームが行われるようになりました。これが現在では少額のお金を賭ける遊びとして定着している地域もあります。
フィリピンでは【フィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)】が運営する施設以外でのギャンブルは禁止されていますが、期間中に限ってはカードゲームや麻雀などの賭博が容認される伝統があります。日本人の感覚では、葬儀中に賭博をすることに違和感を覚えるかもしれません。しかし、フィリピンでは娯楽だけが目的ではありません。ゲームに参加した人から集まるお金の一部を遺族の葬儀費用や香典に充てるケースが多く、参列者が自然な形で経済的な支援を行う役割も果たしています。葬儀には祭壇や飲食、埋葬など多くの費用がかかるため、地域全体で遺族を支える助け合いの文化の一つと考えられているのです。
もちろん、フィリピン国内のすべての地域や家庭で賭け事が行われるわけではありません。近年は宗教的な考え方や自治体の方針などから、賭博行為を控える地域もあります。また、公営ではない賭博は法律上問題となる場合もあり、地域の慣習や運用には違いがあります。そのため、「フィリピンの葬儀では必ず賭博をする」というわけではありません。
世界には、それぞれの歴史や文化、宗教観から生まれた多様な葬送の形があります。日本では静かに故人を送り出すことが重視されますが、フィリピンでは人が集まり、語り合い、助け合うことが故人への供養につながると考えられています。
一見すると驚くような風習も、その背景を知ることで見え方は大きく変わります。異なる文化を理解することは、価値観の違いを受け入れる第一歩です。葬儀という人生の節目だからこそ、その国らしい「故人との別れ方」には、人と人とのつながりを大切にする文化が色濃く表れているのかもしれません。


