エンディング産業展2022セミナーレポート・新しい提案「終活式」

一般社団法人 終活カウンセラー協会 代表理事 武藤 頼胡 氏

日本(=世界)で初めて終活の指導をする「終活カウンセラー」の資格認定を創設。終活カウンセラー協会代表の武藤頼胡氏は、終活という概念を社会に広める第一人者となった。人生100年時代、高齢者が未来を向いて生きていくための新たなアニバーサリーとして「終活式」をプレゼンテーション。

一般社団法人 終活カウンセラー協会 代表理事 武藤 頼胡 氏

終活の伝道者誕生

メディアの造語に魂を吹き込む

東日本大震災が起こった2011年、まだほとんどの人は「終活」という言葉を知らなかった。知っていた人も「メディアが就活(就職活動)をもじった言葉遊び」程度の認識だった。それに魂を吹き込んだのが武藤氏である。
高齢者を「(人生の)先輩方」と呼び、明るく軽やかな口ぶりで、終活とは何か、なぜ今、必要なのかを説いて回った。そしてこの10年あまりの間に、彼女の生き生きとしたキャラクターとともに終活は超高齢社会となった日本全体に浸透していった。

高齢者の生きがいづくりサポート

「ひとりひとりが生きがいを持つ世界を作りたいと考えていたんです」
以前、損害保険会社に勤めていた頃からそう考えていたという武藤氏は、失業時、とある縁で知り合った葬祭コンサルタントのアシスタントになる。そして彼の葬儀セミナーに同行するうち、参加者はこのセミナーをよろず人生相談の場と捉えているのだな、と気づいた。家族関係やお墓のことなど、葬儀がテーマの場では何でも話し、質問する。逆に言えば、それらについて普段話せる場がないということ。日本はこれからますます超高齢社会になるという予想値があるのに、社会全体に何の準備もされていない。
「先輩方がこの先、数十年生きていくのに必要な知識・情報を串刺ししてまとめて提示するサービスがあれば、役に立つんじゃないかなと思ったんです」

始まりは巣鴨の路上調査から

自ら終活の相談役として活動しようと決意した武藤氏は、とげぬき地蔵で知られる東京・巣鴨や浅草の路上で、道行く高齢者に話を聴いてデータを取り、それを分析し考察する作業に明け暮れた。こうして独学から終活カウンセラーという仕事を創り出し、自分同様、その仕事ができる人を育成・認定する終活カウンセラー協会を立ち上げた。
その後、メディアでも頻繁に取り上げられるようになり、活動は飛躍的に広がった。現在、協会認定の終活カウンセラーは全国で2万3,585人(2022年9月1日現在)。年齢は中学生から90歳まで全世代にわたっている。

終活の現在

知識はあっても行動は起こせない

今年、同協会では7月6日から7月末日までインターネットを使って大規模なアンケート調査を行った。全世代1,465人の回答者のうち、終活をしている人は約2割。内容は生前整理が多く、エンディングノートを書いている人は全体の1割という結果が出た。
「皆さん、終活については知っていますが、実際にアクションを起こしている人はまだまだ少数派です」と武藤氏。
しかし、今後、老後・死後の手続きについて相談をしたいという人は3割以上、家族や大切な人に自分の想いを伝えるためにエンディングノートを書きたいと答えた人は6割近くに及んでいる。

自分の終活、自分の生きがい

この調査の結果は、分析コメントを付けて10月上旬に同協会のホームページ上で公表される予定になっている。武藤氏はここまで広がった終活について、ただ生前整理をすればいい、エンディングノートを書けばいいと、狭い視野で捉えないでほしいと言う。
「これをやったらOKというものではないんです。何が終活になるかは、人それぞれ違います。ですからカウンセラーがお話を聴きとって、その人にとっての終活とは何かをいっしょに考え、サポートすることが必要。それがこれからの終活です」
人生の終焉について考えることを通じて、自分を見つめ、今をよりよく、自分らしく生きる活動。終わりから生きがいを考える活動。限りある自分の命の時間を感じながら、今をどうよりよく生きるか。その中で生きがいを見つける。それが同協会の考える終活なのである。

わたしは100歳まで忙しい

人生100年時代と言われ、双子姉妹のきんさん・ぎんさんが人気者になった約30年前と比べて100歳以上の人口は20倍以上になっている。しかし、セミナーで「皆さんは100歳まで生きたいですか?」と聞いても「はい、生きたいです」と元気よく答える人はほとんどいないという。なぜか?
「健康面の心配、経済面の心配、家族に対する心配、そして何よりも、そこまで生きて面白いこと・ハッピーなことがあるのかという懸念……どなたも長生きをリスクと考えている。長寿をどう楽しむのか、そのための終活でなくてはならないと思います。そこで終活式のパンフレットには『わたしは100歳まで忙しい』というキャッチコピーを載せました。ずっとワクワクする人生を推奨していきます」

終活を推進する終活式

終活式とは

「終活式」はその終活を楽しく実践する手段であり、人生に新たに加わるライフイベントとしての提案である。じつはすでに2019年10月に一度発表しており、テレビ朝日系列の「サタデーステーション」でも紹介されたのだが、直後にコロナ禍になり、プロジェクトの中断を余儀なくされた。そこで今回、満を持して改めての発表となったのである。
当然、「生前葬やお別れ会とどう違うのか?」という疑問がわく。その問いに対しては、「生前葬は生きているうちにするお葬式ですが、終活式はこの長生きをよりよく生きるための節目の式です。今までお世話になった方へ『ありがとう』と『これからもよろしくね』をしっかり伝えることを目的としています。
そのために約3ヵ月から半年間、終活式コーディネーターのサポートをつけて終活をしていただきます。家の片づけ、保険の整理、葬儀やお墓の情報取集(あるいは事前契約)。そこまでやったら招待者をリストアップし、メッセージカードを送り、リハーサルをします。
つまり、セレモニーやパーティーが主体なのではなく、その手前のプロセスをいかに行うかを大事に考えています。人を呼んで終活式を挙げるという目標があれば、先送りにしがちなことにも思い切って取り組めます」

本当に大切なものは目に見えない

これまでに千人以上の相談に携わってきた武藤氏は、思い切って終活をスタートさせ、そのなかから自分の生きがいを見出した人は、周囲から羨望の目で見られるという。みんな、普通に、従来通りの生活をしているだけでは得られないものの価値を知っているのである。
これからは終活を通して、目に見えない、自分自身の人生の価値をつかむことが大切である。何のために健康やお金が必要なのか――それこそがリスクのイメージが強い長寿人生の意味、人生の後半を生きる意味に繋がる。武藤氏は、終活式を挙げることで、そうした終活の真の役割をより広く伝えられればと考える。

提携も可能

そして9月7日、(このセミナーの後日)、沖縄で再スタート初回の終活式が開催された。地元テレビ局が生中継し、その概要は同協会のホームページにUPされているので参考にできる。本誌でも次号でご紹介する予定である。そして葬儀供養業界に対しては、「エンディング産業の皆様が生活者のニーズにこたえるための終活式にしたいと思っています。とりあえず定型パターンは設けていますが、かっちり固定した制度・スタイルはありません。ご希望があれば、わたしたちの趣旨をご理解していただいた上で、皆さんの事業に合わせた形のご提案もできます」

他業種との連携も意識

近年、終活カウンセラー協会は医療機関と繋がりを持ち、福岡にある病院の在宅診療訪問ステーションの中に相談センターを設置。また、武藤氏は厚生労働省の認定再生医療等委員会の委員も務め、認知症の医師・研究者との連携を進めている。
将来的なビジョンとして、葬儀供養業界に何を訴えたいか伺うと「葬儀・お墓・仏具といったワンポイントのみで関わるではなく、その方の人生全体に思いを馳せて遇する――これまでとは違う、そんな役割を持つことが必要です。だからそうした形で発展していけるためにインパクトを与えたい」
明治時代に制定された家制度とともに文化として発展し、戦後、ビジネスとなった葬儀供養業は、すでに大きな変化の時期を迎えている。業種にこだわることなく、互いに垣根を超えて日本の超高齢社会の問題に向き合っていきたいと語った。

月刊終活 10月号に掲載されています

掲載記事

終活
2022.10.27