社員80名の中堅葬儀社・永田屋が「働きがいのある会社」選出のワケ

2月8日、東京都内のホテルで行われたGPTWの表彰式。

 神奈川県相模原市を中心に事業を展開する、中堅葬儀会社の永田屋。同社は、「Great Place to Work Institute Japan」(GPTW)主催の「働きがいのある会社(従業員25〜99人の部門)」ランキングにおいて、2年連続でベストカンパニーに選出された。その背景には、「創業110年のホスピタリティ」を謳う同社社長の思いと、その思いにもとづく制度改革があるという。

 同社の田中大輔 代表取締役は今から11年前の2013年にこのポジションに就任し、葬儀業界における「新しい老舗」として経営改革に取り組んだ。課題は、家族葬の需要の高まりなど、利用者のニーズの変化に応じた体制づくりだ。

 従来の葬儀会館に加え、近年は、故人と家族が、自宅にいるかのような親密さで最期の時間を過ごすための新施設「ハウスエンディング式場」を相模原市内と、同市に隣接する東京都町田市内に12拠点を設置。デザイナーズ住宅を葬儀式場にアレンジしたような、上質な空間を利用者に提供している。

 しかし、そうしたハード面よりも田中代表が重視するのは、社員教育。利用者と直接向き合う社員ひとりひとりの行動・メッセージ力こそが葬儀サービスの核心であるとし、特に新卒採用に力を入れているのだ。現在、同社のスタッフ数は、アルバイト・パートもあわせて約190人。そのうち正社員は約80人で、正社員の平均年齢は32歳で大半が20代だ。これは、エンディング業界では「日本で最も若い会社」といえるかもしれない。

社員が「成長できている」という実感が得られるか

 その大きな要因のひとつは、労働環境の改善だ。「葬儀社は24時間365日、いつオーダーが来るかわからない」。ゆえに葬儀業界では、労働時間の短縮や休暇の確保は難しいとされてきた。しかし田中代表は、積極的にその改善に取り組んできたのだ。

「疲れてストレスが溜まっていてはよい接客はできない。だから労働環境の整備は不可欠ですが、そうした環境整備をした上でさらに大事なのは、社員がこの仕事を通して『自分は成長できている』という実感を得られるかなんです」

 そう話す田中代表は、終活関連サイトやリアルな会社説明会などで同社に興味を持ってくれた新卒学生に向けて、キャリアデザインの必要性を説き、葬儀という仕事の大切さとやりがい、そしてこの仕事を通して人間として成長できることを強く訴えてきた。

 そうして繰り返しアピールしてきた同社の経営理念に共感し、実際に入社した社員は、永田屋における自分の目的・目標を明確にし、それを会社が、あるいは社員同士で互いにサポートしていくという企業文化を育んできた。そのための核となるメソッドが、「アファメーション」である。

アファメーションブックがひとりひとりの意識を変えた

 永田屋の社員は全員、「アファメーションブック」と呼ばれる手帳サイズの小冊子を携帯している。そこに書かれているのは「葬儀とは何か?」「永田屋はなんのためにあるのか?」といった会社の在り方を説く文言と、「なぜ私たちはこの仕事をしているか?」といった社員自身への問いかけだ。社員らは、仕事の合間にポケットからこの冊子を取り出し、掲載された内容を確認し、暗唱する。

「アファメーション」(Affirmation/確言、確約の意)は、米国の心理学者で、ビジネス分野における「コーチングの創始者」として知られるルー・タイスが開発したメソッドで、自分が達成したい目標とその方法を言葉にし、理想のイメージを繰り返し想起することで、その人が自発的に仕事に取り組む動機づけを行うというもの。アファメーションブックの活用は、同社社員の間では習慣づいており、どの社員のものにも、使い込んだ形跡がうかがえる。

使い込まれてボロボロになったアファメーションブックは、理念浸透の証。

採用段階から社長自ら働きかける

「物心両面で豊かな人生を送るためには、3年後、5年後、10年後どうなっていたいか? どれだけ責任あるポジションに就いて、どれくらいの収入を得て、どれだけの影響力を持っているかなど、自分の姿をできるだけ明瞭に思い描けることが大事なんです」

 そう語る田中代表は、採用段階から、その社員の内側にある人生のイメージ、社会人としての目的や目標を、外に向けて自分の言葉で表現できるよう働きかけるという。

 例えばある女性社員は入社前、他企業に接客職で内定が出ていたにもかかわらず、合同企業説明会で永田屋のブースを見学し、同社に興味を惹かれた。同種の2つの選択肢を前に迷いを見せる彼女に対して田中代表は、「あなたが永田屋に惹かれたのはなぜだろう?」と問いかけたのだとか。

「悲しんでいる方に寄り添う仕事ができるからでしょうか?」
「では、社会人としてこの先、あなたが本当にやりたいと思うのはどちらだろう?」

 そうしたコミュニケーションを交わす中で彼女は、“自分が本当に求めているもの”に気づき、永田屋を選択したのだという。

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 5月号に掲載されています

掲載記事

葬儀
2024.05.21