茶碗を割って棺を3回まわす? 熊本に残る独特な「葬儀習慣」【今さら聞けない終活豆知識vol.31】

       
今さら聞けない終活豆知識 終活 葬儀
2025.12.17

葬儀は、故人の魂を静かに見送る儀式。地方には、他ではあまり見られない、その土地独特の風習が残っている地域もあります。熊本には、独特でどこか切ない“ならわし”が今も息づいていました。なかでも注目されているのが、出棺時におこなう「棺まわし」や「茶碗割り」。古くから受け継がれてきたその意味や背景をご紹介します。

写真出典:PIXTA

迷わず旅立てるように… 見送る家族のやさしい祈り

熊本県の一部地域では、故人を霊柩車に乗せる直前、棺をその場で3回まわす「棺まわし」、または「三度まわし」という習慣があります。親族の男性が棺を持ち上げ、円を描くように静かに回すその姿には、特別な意味が込められているそう。主な理由は、魂の方向感覚を狂わせ、「この世に戻らないようにする」ためです。また、「旅立ち前に現世の罪を清める」という説も。

もう1つの象徴的な風習が「茶碗割り」です。これは、故人が愛用していたお茶碗を玄関先で粉々に割るというもの。「もう戻る場所はないから、安心して旅立ってください」という想いを込めて、残された家族が故人を見送るための大切な儀式です。

さらに熊本では、通夜のことを「夜伽(よとぎ)」と呼び、参列者が「夜伽見舞い」として菓子や缶詰などを持参する風習も。これは、夜通し故人に寄り添う遺族を労う意味を持ち、香典とは別に渡すのがマナーとされています。受け取った遺族は、返礼の品を少し多めに用意するのが一般的。最近では、品物の代わりに現金を包む形へと変わりつつあります。

これらの習慣は一見すると変わったものに見えるかもしれませんが、どれも「安らかに、迷わずに旅立ってほしい」という願いが込められた、やさしく温かな弔いのかたち。お通夜の簡略化が進む中でも、熊本では独自の伝統を守りつつ、時代に合わせたかたちで受け継がれてきたのですね。葬儀に参加したときには、マナーを通して故人に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。