実際に葬儀をどう行い、どのように人を見送ることができるのかを事前に知ることが難しくなった現代。「葬儀に後悔を残す人をなくしたい」という思いから、この業界で初めて、「実際の葬儀の様子」を葬儀社が動画にするという新たな発信方法にトライしたのが、東京都江戸川区の中堅葬儀社・むすびす株式会社だ。同社で広報を担当する古賀瑞菜氏と、企業広報のプロフェッショナルである株式会社PR TIMESの執行役員・小暮桃子氏との対談が実現。葬儀の価値や家族の思いを動画で伝える意味、その発信によって生まれた変化とは?(文:有馬ゆえ 写真:西田周平)

【対談】古賀瑞菜氏(むすびす株式会社 マーケティング部)×小暮桃子氏(株式会社PR TIMES 執行役員)
葬儀業界で初めて動画配信の成功例を作った、むすびす株式会社。同社は2002年設立の専門葬儀社で、社内にウェブマーケティング部門を設け、SEO対策、広告運用などによるウェブ集客を軸に成長してきた。年間約3000件の葬儀のうち約8割を、ウェブ経由の直接受注が占めている。
むすびすの動画配信が本格的にスタートしたのは、2023年。Instagram、YouTube、TikTokで、実際の葬儀の様子を撮影、編集したショート動画を投稿し、その総再生回数はおよそ7億回。中には、1本で1000万回再生を超える大ヒットもある。むすびすのSNS配信はいかに生まれ、どんな効果や価値を生んでいるのだろうか?
小暮桃子(以下、小暮)実はむすびすさんの動画は、Instagramで目にしたことがあるんです。結婚式などハレの日の動画と違い、葬儀の動画はSNSではあまり見られません。お葬式などお別れの場そのものも、親族以外は携帯はオフという雰囲気がありますし、撮影するのは親族でもためらうもの。葬儀を快く撮影、さらに投稿させてもらえていることに驚きました。
古賀瑞菜(以下、古賀) ありがとうございます。おっしゃる通り、葬儀業界はまだまだ「撮影してよいか聞くこと自体が不謹慎だし、SNS投稿なんてもってのほか」という考えが根強いです。ただ実際は、撮影許可を最初の打ち合わせで確認すると、ウェブにアップするかは別として「撮ってくれるなら残したい」とおっしゃる方がほとんど。掲載許可も、当初は月約250件ある葬儀のうちわずか1件ほどでしたが、今では約3割という数字になっています。掲載にあたって割引などの施策は一度もしたことがなく、すべてがご厚意によるもの。ご自身が当社のSNSを見て納得できる葬儀ができたと感じているご家族の場合、「今度は自分たちが誰かの力になりたい」というお気持ちのようです。
小暮 3割ですか!簡単に達成できる数字ではないですよね。そもそも葬儀業界は「人間の死」を扱うことから、PR戦略が非常に難しい業界のひとつ。地域特性が強く中小企業が多いことも考えると、SNSでの発信の重要性に気づいてはいても、リソースの問題からなかなか前例のないことに手を出しにくいはずです。SNS投稿は、どのような経緯で始められたのですか?
古賀 当時、私は入社3年目で、葬儀現場のプランナーを経て、プランナー課の主任として、葬儀施行全体の品質管理に携わっていました。
きっかけは、自分自身がプランナー時代に抱えていた課題感でした。当社の主な商圏である1都3県では、故人様が亡くなってから3日〜1週間ほどで葬儀が行われます。ご遺族は、大切な方を亡くして混乱されているにもかかわらず、短期間で、しかも3時間程度の打ち合わせで葬儀内容を決めなければならないのです。そのため自分のプランナー時代には、限られた時間の中でご遺族が悔いのない選択をし、葬儀にしっかり向き合っていただくことの難しさを痛感していました。
その原因には、葬儀社とご遺族との関係の浅さにもあると感じていました。たとえプランナーが過去の経験則から最適だと考える葬儀の形を提案しても、ご遺族がそれを簡単には受け入れにくいのも感じていたからです。面識もなく若い葬儀社の人間に口頭だけで葬儀の内容を説明されて、それにそれなりの値段を支払うのですから、当然といえば当然ですよね。では、どうしたらご家族に信じていただけるのだろう?限られた時間でご家族自身に葬儀のニーズに気づいてもらえるのだろう?そう考えたときに、SNSでの動画発信を思いつきました。
結婚式のように、SNSに実際の式の情報がたくさんあれば、いざ自分が葬儀をすべき時に選択肢が思い浮かぶと思ったのです。
「ご遺族はこんなに喜んでいます!」と社内で何度も発信
現場プランナー時代の無念から、SNSでショート動画を配信するというアイデアを思いついた古賀氏。それは、実際にInstagramやTikTokなどのSNSでショート動画に触れている、25歳という若い世代ならではの感性から生まれたものだった。しかしそれは、ウェブ集客の強さで知られるむすびす社内においても、すぐには受け入れられなかったという。人の死を扱う葬儀業界にあってSNSの活用は不謹慎だと受け取られかねず、ゆえにハードルが高いと見られていたためである。
小暮 社内では、SNS施策についてすぐに理解してもらえましたか?
古賀 当社は「業界の固定観念ではなく、業界がよくなるやり方を選ぶ」という企業風土を持っているで、私が広報PR未経験の新人であるにもかかわらず、最終的には代表の中川(代表取締役の中川貴之氏)から「任せる」と言ってもらえました。
一方で、葬儀スタッフに現場で撮影や掲載の交渉をしたり、実際に撮影をしたりしてもらうことには障壁もありましたね。「会社の宣伝のためにご家族を利用していると誤解されたくない」という気持ちになり、ためらうスタッフが多かったからです。それでも、賛同してくれた数少ないスタッフに遺族への撮影・掲載許可を取ってきてもらうよう頼み込み、気合を入れていい動画を作って投稿しました。
そして、社内チャットで毎日「こんなに反響があって、こんないいコメントが来て、ご遺族はこんなに喜んでいます!」と発信し続けた結果、社内にはSNSを普段使わない世代も多かったのですが、徐々に価値をわかってもらえるようになっていきましたね。
現在、むすびすではInstagram、YouTube、TikTokで動画を投稿しており、各媒体の登録者数と総再生回数は、YouTubeが約10万6000人/1.9億回、Instagramが約7万2000人/2.8億回、TikTokが約9万人/2.5億回。葬儀という非日常の場面を切り取りながらも、数多くの人の心をつかむのはなぜなのか?

古賀瑞菜
むすびす株式会社 マーケティング部 広報・メディアコンテンツ課 課長
こが・みずな 1998年、神奈川県生まれ。2021年、明治大学国際日本学部を卒業後、むすびすに新卒入社。エンディングプランナーとして現場経験を積んだ後、2023年よりSNSの企画・編集を担当し、運用を開始。約3年で総フォロワー26万人、総再生7億回を突破し、業界最大のSNSアカウントへと成長させる。2024年10月広報・PR課新設に伴い、現在はSNS運用を含めた広報戦略の立案・推進を担い、企業ブランディングの強化に取り組んでいる。

小暮桃子
株式会社PR TIMES執行役員 兼 PR TIMES事業ユニット第一営業部長
こぐれ・ももこ 1993年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。2016年、当時社員数約30名だったPR TIMESへ中途入社。営業担当として顧客へのサービス提案・導入支援や、地方金融機関との提携、コミュニティイベント運営など複数プロジェクトに従事した後、2019年よりサポート部門責任者に。その後、新規事業推進・プロダクト開発との兼務を経て、2022年末から営業部門に復帰。第一営業部長としてお客様の利活用促進に取り組み、2025年4月執行役員に就任。
【反響の大きかった、むすびすの“葬儀動画”】
「9年間難病と闘ってきた奥様へ
旦那様から最後の指輪の贈り物。」
投稿日:2023年11月23日
再生回数:684.5万回
コメント数:184
「ご出棺前の最後のご夫婦2人のお時間。」
投稿:2023年12月22日
再生回数:952.6万回
コメント数:401
「5年間病気と闘ってきたママとの最後の時間」
投稿:2024年6月3日
再生回数:761.2万回
コメント数:67
「ラーメン屋のおばあちゃんのお葬式
孫からおじいちゃんへのサプライズとは…」
投稿:2025年2月13日
再生回数:217.4万回
コメント数:134
再生回数1000万超の普遍性
「妻のお葬式夫が棺に残したメッセージ」
投稿:2025年7月10日
再生回数:1108万回
コメント数:530
10歳男児の“人生の意味”を問う
「10年間笑顔で生ききった息子へ 最終話」
投稿:2026年3月12日
再生回数:291.3万回
コメント数:293
※各動画の再生回数やコメント数は2026年6月取材時点のものです。




