自由に楽しく仏教を広める 古刹住職の先進的な寺づくり作法

日蓮宗 妙法寺(神奈川県横浜市 戸塚区)

この地域の桜の名所でもある境内。花見の季節には昼夜問わず人々が桜を愛でに訪れる。毎年、夜桜会も開催している。

 日蓮宗の宗門史跡にもなっている古刹 妙法寺の久住謙昭住職は、先端技術を駆使した「地獄VR」をはじめ、仏教をテーマにしたエンタメコンテンツを開発。そして従来の寺のイメージを覆す、新しい仕組みづくりを行っている。その行動力の源は、自由に楽しく仏教を伝えたいという強い思い。その活動は、現代社会において、いかに仏教を広めていくのかということのひとつの“手本”とも言えそうだ。

本文でも触れたさまざまな仏教コンテンツのプロデューサーでもある久住謙昭住職。

 JR横須賀線・東戸塚駅からバスで約10分の妙法寺は、神奈川県横浜市戸塚区の名瀬という地域にある。かつてのどかな農村地帯だったというが、高度経済成長期に大規模な開発が進み、住宅地に様変わりした。それでもまだ付近を流れる名瀬川や周辺の雑木林などには自然が多く残されている。

 そうしたここ50年あまりの環境の変化も悠然と見守ってきた古刹が妙法寺である。建立は700年以上むかし。日蓮宗の宗祖 日蓮聖人の一番弟子だった日昭上人が鎌倉時代後期の1306(徳治元)年に開いた。1997(平成9)年に日蓮宗の宗門史跡に認定。この古刹の第47世の住職が久住謙昭住職である。

「三毒」の自覚と懺悔に繋がる「地獄VR」


 妙法寺は年間を通してさまざまな行事を行っているが、中でもユニークなのは月に1回 開催する「地獄体験会」だ。仏教は古くからその土地の風土や文化と融合しながら、時代それぞれにできる表現方法で世界観を伝えてきた。それなら今の日本であれば、最新技術のVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)」とアニメーションでそれを伝えられるのではないか、そう考えた久住住職は、仏教における地獄を表現し、伝道とエンタテインメントを掛け合わせたコンテンツ「地獄VR」を開発したのである。

 体験会(参加費3000円)を始めたのは2022年。若い世代(20代~40代)の間でSNSや口コミを通して評判となり、毎回15名の定員はすぐにいっぱいになる。しかし、集まった人たちは地獄を体験した後、思ってもみなかった心境になるという。

 この地獄体験会は4つのパートに分かれている。最初に基本情報として地獄に関する説明、次いでVR体験、その後に法話、そして法要と、順次、住職のナビゲートによってプログラムが進んでいく。

 地獄VRは仏教の地獄絵をもとにストーリーを考え、それに基づいてプロの映像制作チームが作った本格的なもの。参加者はゴーグル(ヘッドセット)を付けて臨場感あふれる三次元映像の世界に約7分間入り込む。

 法話ではVRの内容を受けて、住職が「三毒」について説く。実は人は普段の生活の中で、貪欲・怒り・愚痴という三つの煩悩=三毒によって苦しめられており、それが地獄に落ちる由縁になるという内容だ。

 そして最後の法要では、三毒のもとになっている過去の罪を思い出し、その罪状と反省を書き出した紙線香を燃やし、香炉にくべて清め、罪障消滅を祈願することで体験会を締めくくるのだ。

 多くの人は最先端技術のVRで恐怖体験が楽しめると思って集まってくるのだが、結果的に心に残るのは、僧侶による昔ながらの説教や、お経によって自分の罪を消していく懺悔の法要なのだという。一見、型破りな試みに映る、VRを使った「地獄体験会」は、実は罪障消滅や懺悔を大事に考える日蓮宗の教義に則ったコンテンツになっているのだ。

 久住住職はこの地獄VRをはじめ、仏教をテーマにしたマンガ・紙芝居などのコンテンツを企画・制作・販売。妙法寺とは別に設立した一般社団法人「みんなの仏教」の活動として、仏教の基本的な教えや文化を人々の生活のなかに送り届けている。

ゴーグルを装着し、地獄VRを体験できる寺はここだけだ。

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 7月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2024.07.18