父親の相続で“地獄の泥沼”を経験。経済アナリストの視点からみる供養業界

終活とは異なる業界スペシャリストに明日の事業につながるヒントを伺うインタビュー。経済アナリストの森永卓郎氏にご登壇いただいた。東京大学経済学部経済学科を卒業後、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局等を経て、現在は獨協大学経済学部教授を務め、経済アナリストとしても各種メディアで活躍。自身の著書では父親の相続で“地獄の泥沼”をさまよい歩いたと語る。相続経験者としての視点をもつ森永氏に供養業界と終活について弊社COO小林史生がお話を伺った。

エコノミストの視点からみる供養業界

小林: エコノミストの立場とご自身の経験から、エンディング産業をどのように考えていらっしゃいますか。

森永:エンディング産業は日本に残された唯一に近い成長産業ではないかと思っています。しかし、多くの人は一生のうちに何度も経験することではないため、事業者のなかには悪質な商売やコストに合わない商売をしている人がいます。もっとまともな産業にしなくてはいけないと思います。例えば、相続税の申告の際に税理士が遺産額の3%を請求することもあり、税理士によって金額は異なります。遺品整理でも同じような話がありました。大物芸能人が遺品整理として、生前に大規模な断捨離をした際に、数百万円するような家具などもあったそうですが、すべて引き取ってもらったうえで遺品整理業者から80万円の請求をされたそうです。他にも葬儀の金額や戒名の文字数の金額の違いなど、ありとあらゆるもので不公正なことが生じています。もっと安心して利用できるワンストップサービスなどをつくらなければ、エンディング業界はマイナスイメージを脱却できないと思います。

小林: 弊社では事業者様とお客様を繋げるプラットホームをいくつかもっていますが、情報の非対称性があることから、様々な課題を抱えていると感じています。

森永:葬儀は結婚式と同じで、再婚の場合は値切る人もいるそうですが、初婚で値切る人はいませんよね。私の弟が不動産会社で働いていますが、不動産業の方は仕事柄、葬儀を何度も経験しているので、私の場合は不正な金額を請求されることなく葬儀ができましたが、日常的に知識を得る機会がない方が初めて葬儀を経験される場合は難しいと思います。相続税の申告に関しても、一般の方は理解するだけでも難しいです。

父親の相続に苦労

小林:森永さんはお父様の相続でご苦労されたと聞いています。

森永:2000年に母を亡くし、2011年に父を亡くしました。家のことは母が管理していたこともあり、父は何がどこにあるのかを把握していませんでした。父が亡くなった際は、相続税の申告まで自分でやろうと試みましたが、とても大変でしたね。父の住んでいたマンションには飛び地の駐車場がありました。しかし、飛び地で路線価がなく、不整形地のため、どう評価してよいかわかりませんでした。360 世帯の大規模マンションだったので、持ち分はたいした金額にならないのですが、そこで行き詰って税理士に依頼しました。父の金貯蓄口座を解約して、売却額で相続税の申告をしましたが、利益が出ていることを税理士に指摘され、所得税の支払いも必要だということがわかりました。

小林:このような手続きはなかなか理解しがたいことも多いですよね。

森永:そうですね。東日本大震災直後に父を亡くしたこともあり、仕事量が普段の半分以下になっていたため、自分で相続手続きを試みることができました。1年3ヵ月ほど我が家で父の介護をしましたが、左半身不随になり要介護4の状態でした。実際に、要介護4は素人が介護するには不可能なレベルでした。そのため、最後は介護保険適用の老人介護施設に入り、私の妻が毎日通ってくれました。

小林:事前に遺言書などはつくられていましたか。

永:なにも用意していませんでした。介護施設料を父の口座から引き落としていましたが、預金が底をつき、父に今後のことを尋ねると、預金は他にもあると言われました。しかし、父は金額も通帳の所在も把握していませんでした。弟と一緒に探しましたが、最後まで一冊も出てくることはなかった…。父の銀行の貸金庫は私も開けられるようになっていたので、そこにはあるだろうと信じていましたが、父が亡くなった後に貸金庫を開けてみると、中には卒業証書など思い出の品だけでした。その後、実家の郵便物を仕分けし、銀行や証券会社に問い合わせましたが、口座の確認には父のすべての戸籍謄本と相続人全員の合意書が必要だと言われました。父が一時期住んでいた文京区では区役所が太平洋戦争の空襲にあったため、戸籍謄本が残っていないという事態に。銀行からは、戸籍謄本が燃えてしまったという証明を区役所に作成してもらうようにと。しかし、区役所からはできないと言われ、かなりの時間を要しました。必死の思いで対応したにも関わらず、最終的に開示された口座残高は 700 円ということもありました。さすがに私も頭にきてしまって、その場で放棄しますと伝えましたね。

小林:労力に対してその結果はなかなか厳しかったですね…。

自身の終活は資産の見える化を

小林:お父様のことでは大変な経験をされましたが、森永さんご自身は終活など、なにか対策はされていますか。

森永:父の経験を踏まえて、私と妻はエクセルで資産の一覧表を作成し、パソコンに保存していましたが、2年前にパソコンが故障してしまいました。妻のパソコンにデータが残っていたことで救われましたが、大事なデータはハードディスクではなく紙で保管しておくことが一番安心です。

小林:ところで森永さんといえば、コレクションを収集した所沢にある博物館(B宝館)も有名ですが、終活において博物館はどのように考えいらっしゃいますか。

森永:これは大きな課題です。長男は経済アナリストをしているのですが、私の趣味を理解していないので、家族のなかで唯一理解のある次男に任せようと思っています。本人にはまだ承諾を得られていませんが(笑)。以前、テレビ局が番組で鑑定士と弁護士を連れてきて全館鑑定した結果、プラスのものもあるが、産業廃棄物として処理費用がかかるので、プラスマイナスゼロと判定されました。弁護士からは、相続税がかからないからよかったじゃないかと言われましたね。展示している物は、食品のパッケージや空き缶、グリコのおまけ、ミニカーなどですが、本来なら捨てられてしまう物です。いまの時点で市場価値がないと言われても、百年後には世界遺産になると私は信じています!家族には負の遺産なんて言われたりしていますけど(笑)。しかし、浮世絵も昔はゴミ扱いでしたが、日本の陶器を輸出する際に梱包材として使われていたところ、価値を見出されたという歴史があります。数十年前までは骨董市に行けば、根付は二束三文でたくさん売り出されていましたからね。世の中が変われば評価は変わるもの。私のコレクションも価値が見いだされるかもしれませんよ。

小林:これは楽しい終活ですね。日本全国で家族がこのように終活できたら前向きになれそうですね!

おひとり様の高齢者にも優しいサービスを

小林:終活は大きく3つのジャンルに分けられると考えています。1つ目は身体に関わる悩みの介護や医療。2つ目はお金に関わる悩みの相続。3つ目は家族の繋がりとなるお墓や仏壇など。森永さんの視点から、今後どういったビジネスが興味深いと思われますか。

森永:供養は宗教や伝統、風習に縛られていて、お墓は家制度に深く結びついていました。近年は散骨や樹木葬、納骨堂など、従来型のお墓にこだわる方が少なくなりました。お寺はかつて生活の一部でしたが、時代と共にお寺の在り方が変化し、檀家制度が脆弱化していきました。人々の宗教観は薄れ、いまの日本人は裕福なわけではないので、お寺に何百万円も収められる人はほとんどいません。そのあたりをもっと考えていく必要があると思います。昔と比べて様々なことが合理的な方向に進んでいます。これは日本に限ったことではありません。中国はもともと土葬の文化でしたが、都市部を中心に火葬が増加していることから、簡易な方向に動き出していることがわかります。お金において、多くの高齢者の方は貯蓄があるため、詐欺まがいな投資会社も多く存在しています。若者は投資で全財産を失ってもリカバリーできますが、高齢者は老後の資金を失うことになるので危険な行為です。銀行や投資会社で運用担当をされている方に対して、世間の方は優れた専門家であると信じていることが多いですが、決してそんなことはないので、理解と見極めが必要です。

小林:そうなると、どのような方なら信頼できるのでしょうか。

森永:銀行や投資家と繋がっていないファイナンシャルプランナーが客観的な立場からアドバイスをすることが理想的だと思います。また、おひとり様を助けるサービスは今後さらに伸びていくと思います。例えば、マイナンバーカードの登録方法は高齢者が一人で行うにはあまりにも複雑で、家族の助けがなければ不可能に近いです。助けを必要とする高齢者をどうやって支えていくのかは大きな課題だと思います。ひとり暮らしの高齢者も増えていますし、お金があっても一人ぼっちになってしまう高齢者はたくさんいます。個別に依頼をすれば対応してもらえるサービスはりますが、介護マネージャーから紹介してもらうなど、サービスの提供方法が変わっていくと良くなると思います。

小林:森永さん、ありがとうございました。

月刊終活 1月号に掲載されています

掲載記事

終活
2023.02.22