地方創生をめざし、わずか数年で50万人の初詣客を呼び込むお寺

埼玉厄除け開運大師 龍泉寺(埼玉県 熊谷市)

お寺が潜在的に持っている力を、ここまで鮮烈に引き出した例は、まだ希少なのではないだろうか。埼玉厄除け開運大師龍泉寺はしばらく前まで、埼玉県の辺境にある、さして目立つことのないお寺だった。それが今や関東有数の参拝地、初詣の名所として広く名を馳せ、観光スポットとして大勢の人を集めるようになった。そして今や、この地方創生の要となって大車輪の活動を行っている。その仕掛人である代表役員の小久保隆泰氏に話を伺うために、龍泉寺を訪ねた。

小久保隆泰 代表

新しい観光寺の誕生

バスツアーに不可欠なスポット

到着すると山門前の駐車場に観光バスが停まっており、ちょうど参拝を終えた乗客が戻って来るところだった。折しも全国旅行支援事業が始まって間もないタイミング。龍泉寺はこの周辺――埼玉・茨城・栃木などを巡るさまざまなバスツアーに組み込まれている。御朱印巡り、アート、文化をテーマにしたツアーなら外せない観光スポットだ。
平日でもひっきりなしに参拝客が訪れる。境内は秋の花々で彩られ目を楽しませる。手は入れているが、けっしてきれいに整備され過ぎず、全体に田舎のお寺っぽい雰囲気が漂うところが人々を安心させるのだろう。
実際、田舎である。最寄り駅のJR高崎線の籠原からは車で5分以上。歩けば40分以上かかる。熊谷からはさらに遠い。周囲は田んぼや畑が広がる長閑な風景。取材に訪れた日は美しい秋晴れで、彼方には秩父の山並みが美しく映える。
龍泉寺ではほぼ毎週末、護摩祈願を行っているが、その時には参拝者は平日の5倍に膨れ上がるという。その極みが正月で、今年(2022年)はおよそ35万人が初詣に訪れた。

地域の人たちが待望していた「初詣に相応しいお寺」

初詣で大勢の参拝者を集めるお寺と言えば、関東では千葉の成田山新勝寺と神奈川の川崎大師だが、埼玉県では龍泉寺がトップ。神社を入れても武蔵一宮(さいたま市)の氷川神社、川越市の氷川神社に次ぐ参拝者数である。
しかし、龍泉寺は昔から有名だったわけではない。現在のこうした状況は2018年、代表役員である小久保隆泰氏発案の、寺を使った観光資源開発「埼玉厄除け開運大師地方創生プロジェクト」から生まれた。
龍泉寺のはじまりは平安時代初期。平安時代には弘法大師空海も訪れたことがあるという名刹である。江戸時代初期まで初詣客を招いていたが、その後、徳川幕府が宗教統制の一環として設けた寺請制度によって檀家寺になった。以来、長らく途絶えていた初詣の風習を、およそ400年の時を超えて復活させたのである。そこで打ち出した紹介文が、それからの龍泉寺の立ち位置を決めた。

秘仏本尊「厄除け金色大師」と「開運金色大師」の二体の大師像を日本で唯一同時に祀る寺であり、厄除け・開運・方位除けのご利益は関東随一と言われています。
当寺には、「千手観音菩薩」、「不動明王」、「平成安全大観音」、「釈迦如来」「水子地蔵」「ぼけ封じ観音」「びんずる尊者」など多くの仏様が祀られているため、様々な願いごとに強い神聖な寺として崇められています。

平易な紹介の言葉が人々の心の底の漠然とした何か――仏様に逢いたい、祈願したい、初詣に相応しいお寺はないかといった気持ち――を捉えた。
復活最初の2018年は1000人、2019年は1万人、2020年は10万人、コロナ禍の最中だった2021年は15万人、そして2022年は35万人。驚異的な伸び率だが、小久保氏はさりげなく語る。
「来年(2023年)は40万人、もしくは50万人も目指しています。祈願したいという気持ちはコロナに対する不安より勝りますから。また増えるのは確実だと思うので、こちらがお迎えする対策をしっかりしなくてはなりません。昨年は駐車場も足りなくなってしまい、長時間、参拝をお待たせすることになってしまったので」
周辺の田畑を借りて駐車場を増やすなど、10月下旬から初詣に対する準備を粛々と進めている。

初詣の様子

誰もが欲しがる切り絵御朱印

「厄除け・開運」に加え、もう一つ、龍泉寺には大きな呼び物がある。それが雅な雰囲気と斬新なアートセンスを併せ持つ「切り絵御朱印」である。老若男女、誰もがぜひ欲しいと思える素敵なデザイン。持っていて自慢できるアイテムだ。噂はクチコミで、SNSで、瞬く間に広がった。いまや龍泉寺は「切り絵御朱印発祥の寺」として広く認知されるまでになった。
この商品は、小久保氏が以前、本堂改修の記念品として檀家に切り絵の御朱印を進呈したことがあったことを記録で発見したことから開発した。しかし、もちろん、そのままでは使えない。「顧客がお金を出してまで欲しいと思うコンテンツ」にするためには、新鮮なデザインでリニューアルする必要があった。そこで龍泉寺でデザインを担当していたスタッフと二人で共同して開発・プロデュースに取り組んだ。
彼女は、その後、小久保氏が立ち上げた寺社専門のコンサルティング会社「ELternal(エルターナル)」の専属デザイナーとなり、全国のお寺・神社にオリジナルデザインの切り絵御朱印を提供している。

一般の人が望むのは、宗派を超えたお寺

ホームページをはじめとする対外的な広報物で、龍泉寺は一切、宗派・本山を記していないが、「埼玉厄除け開運大師」という呼称からも察せられるように真言宗豊山派のお寺である。その理由について小久保氏はこう語る。
「今時、一般の人たちはもう宗派を気にしないですよね?宗派同士も対立していないし、宗派を超えたお坊さんのコミュニティも広がっています。だから、○○宗よりも、祈願・ご朱印・開運・厄除けをやっているお寺ですということを印象づけたいのです」
龍泉寺のホームページは、お寺としてはシンプルで、一般の人があまり関心を持たない情報は極力省いている。その結果、とても見やすく、親しみやすく、イメージが広がるつくりになっている。
賛否両論はあるだろうが、そこには現代の寺院経営を考えるヒントが秘められていると感じる。宗派を打ち出すことは「このお寺に行ってみたいけど、うちは別の宗派だし」といった躊躇いを生み、一般の人たちには心理的なブロックとなってしまうのかもしれない。

本記事はweb用の短縮版です。全編版は本誌にてお楽しみください。

記事の全文は月刊終活 12月号に掲載されています

掲載記事

お寺
2022.12.27